マガジンのカバー画像

うそのこと

15
ほんとうのことはありません。
運営しているクリエイター

記事一覧

植物園

綯い交ぜになった植物の香りの中を歩いた。虫たちは勝手に暮らしていた。木のウロに触れた。葉…

薄荷
2年前
2

軽い別れ

根無し草のように移ろい続けている。だいたい周期は2年〜3年で大学も居住地も仕事も変わってき…

薄荷
2年前
3

私に詩は届かないけれど

名古屋駅の中にあるひつまぶしの店で父親に会った。もう随分前のことで、7,8年前まで記憶を遡…

薄荷
3年前
5

声がきこえるうちに

「人の世の歩みのちょうど半ばにあったとき」とダンテが歌ったその時から700年あまりが過ぎて…

薄荷
3年前
7

三世の書、自由意志について

未来を知ることは自由意志を持つことと両立しない。選択の自由を行使することをわたしに可能と…

薄荷
4年前
7

桜の木の上半分

今住んでいるところは3階で、この建物の最上階。目の前には同じ高さの建物があって、だから、…

薄荷
4年前
6

手続きによって失われる記憶

春らしい、川を渡る吹く風は少し埃っぽくて、陽のひかりが滲んで見える、なんだかひかりを浴びるだけで生きていることが肯定されるような気分になるような日に、突然文字が理解できなくなった。 さっきまで当たり前のようにひかりを浴びて本を読んでいたのに、前触れもなく、言葉が頭を上滑りしていく。どうして言葉が理解できるのかわからなくなってしまって、頭が混乱する。どうして、さっきまであんなに晴れていたのに。読んでいた本はマクニールの『世界史』で序盤も序盤、最初の文明を人々が気付き上げようと

消極的生命

食事をするのがたまらなく苦しい時がある。拒食とか、そういうわけではないけれど、食べるとい…

薄荷
4年前
10

2020-01-22

まともに生きることに疲れた、とそう思って傍らにある本に手をかける。私が知っているたったひ…

薄荷
4年前
2

日々を過ごすための時間割

大人になって、というよりも、学校を卒業して失ったものは時間割なのだと思う。1時間、あるい…

薄荷
4年前
6

「もし全部だめだったとしても私はちゃんと私になれる?」

好きな漫画に「わたしのかみさま」という短編集がある。これは『九井諒子作品集 竜のかわいい…

薄荷
4年前
13

アムリタのこと

静寂の闇の中、深呼吸をする。そうして夜が明ける。 幾つかの小さな縁を小さなままに繋いでき…

薄荷
4年前
4

雨とひかり、小指のこと

とぎれ、とぎれの、記憶を思い出したいのに、秋のはじまりの風がひとつ、吹くたびにわすれてい…

薄荷
4年前
5

一過性の文通

恋愛についてはよくわからない。だからこれは恋愛についての文章ではないし、恋愛感情についての文章でもない。 親愛について、そういう呼び方が妥当かもしれない、名前をつけるのはとても苦手だ。 その時、私は海外にいて、彼女は日本にいた。日本にいて、何かをしている様子はなかった。働いていたり、遊んでいたり、学校へ通っていたり。そのいずれもしていないようだった。 だから、何をしていたのかはよくわからない。わかっていたのは、何らかの病気の療養をしていたこと、それと物語を書いていたこと、