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【第2心】天狗の鼻折れ【一生片想い】

進級直後のユウの策略は失敗に終わった。

新環境でもサムは、猿っぷりをどんどん発揮し始めた。
ところが、1~2年生時にユウが経験したそれとは違い、サムは子分を増やして順位付けをする、などという事はしなかった。
サムは、自分自身がゴキゲンに過ごせさえすればそれでいいようで、集団での陰湿ないじめが日常化するのではないかという、ユウの懸念は当たらないまま時が過ぎた。



画像はイメージです...これって1年生の内容だよね。


【算数、85点】


恐れていた最悪の事態は回避できたようで、ユウの意識は少しずつ学業に集中するようになっていった

サムのご機嫌を損ねなければさほど酷い事は起きない、が、周囲はオツムがアレなガキなので、よくわからないまま下手をするとつまらん何かがあるだろう、という警戒は常にしていた。
ユウ自身も、部分的な成長が周囲より早いとはいえ、当然ながら同じ年齢のガキである。
自分自身のガキさにより、サム以外の男子と小競り合いを起こしたりもしたけれど、それらは取るに足らないものばかりだった。

3年生ともなれば、それまでよりも学業の難易度は上がる。
けれど相変わらず、授業は教師の話を聞き流すだけで瞬時に理解できたし、体育や音楽といった技術系の科目でもしっかり力を発揮できていた

そんなある日、算数のテストの答案が返却される際、それまでのユウの人生において、考えられないような事が起きた。

この年の担任教師は、アレな奴だった。
テストの答案を採点して返す時わざわざ点数と名前を読み上げるのだ。
しかも、下から順に。
誰がバカなのか真っ先に知れ渡るという、今やったらモンスターペアレンツの餌食になりそうな事が、平気で行われていたのである。

ユウは、当然ながら一番最後の名前を呼ばれるのが常だった。
この日...


担任:「85点、ユウ。」


と呼ばれ...


。o(えっ、15点も間違えたの!?どうしたんだ俺!!)


と、ショックを受けた。
満点の100点ではない、その事実だけでも、プライドが傷付き自分をどうにか罰してやりたくなるぐらいのものがあった。

とはいえ、このクラスに、自分が恐れる程の学力を持った奴など、存在しないはずである。
クラスメイト全員と会話した際、自分を超えるほどの頭の良さを感じさせる人物は、1人として存在しなかったのだ。
点数は酷かったが、クラスで1位ならプライドはなんとか保てる


担任:「90点マキ。」


。o(はぁ!?なんだって!?誰だそいつ!?)


この瞬間、ユウのプライドは砕けた
どこでどのようにしてそのような考えを持つようになったのかはわからないが、ユウの心の中には、女子に負けるなどという事は、あってはならなかったのだ。
男子たるもの...みたいな古い考えを、曽祖父・曽祖母あたりから知らず知らずのうちに刷り込まれていたのかもしれない。

この瞬間、ユウは、認めざるをえない敗北を喫した。
...しかも、見下していた女子に。
なおかつ、眼中にすら無かったダークホースに、だ。

マキの名前はユウの脳に深く刻まれた



苦しみを強制されるのは誰だって嫌だろう。


【マラソン大会】

全校生徒の9割以上が嫌がる、地獄のイベントがマラソン大会である。
この年、他校から転任してきた、何かを履き違え続ける脳味噌を持つ熱血教師により、秋の1回開催だったものが、春・秋の2回開催に増やされてしまっていた。

ユウの母方の家系は、長距離走に強かった。
祖父が駅伝大会に出た話はよく聞かされていたし、母も自らについて、距離が長ければ長いほど得意で、地元では負け知らずだったと語っていた。

そんな話を聞いて育ったもんだから、ユウは自分も最強だと思っていた
1年生で初めて挑んだマラソン大会も、後半に力を温存して抜きまくって勝つ!
なーんて考えて臨んだけれど、結果は36人中13位であった。

思ってたほど自分って大した事ないんじゃないか?と気付いてしまったユウは、それ以来、マラソン大会は大嫌いになった。
3年生の春のマラソン大会も、順位は24位とふるわず、中の下の能力しか持たない事を改めて思い知る結果に終わった。

運動能力は父方しか遺伝しなかったのか?
小児喘息があるから弱いのか?
単純に努力が足りないのか?

などと、原因を求めてユウは深く悩んでいた。
その悩みを、さらに複雑にする事実が、目に飛び込んできた。

マラソン大会の歴代優勝者は、全学年男女別に体育館前通路に貼り出されていた
今でこそ嫌々でしかなくなったとはいえ、そこに名前が載るのは自分にとって名誉であり、憧れはあった。
自分と同じ学年の覇者は誰なのか、当然気にはなる。
...気になって、見てしまったのだ。


女子の部は1年時からマキが3連覇していた


。o(運動も凄ぇのかよ)


それまでユウの心の中にあった高いプライドは、一気に劣等感へと変化した。
そして、マキに対して強烈なライバル意識が芽生えた
この女に勝ちたい!上回りたい!

以後、ユウは常にマキに注目し、観察するようになった



完全にポッキリ。



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