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【第4心】席替え【一生片想い】

ユウはマキの弱点探しをその後も続けていた。
しかし、弱点らしい弱点は見付からないまま、時間ばかり過ぎて行った。

その時間はユウの心に変化をもたらした。
当初の強烈な劣等感から来る嫉妬は、敬意を経て憧れに変わった。
ライバル心は、自分と同等以上の力を持つ数少ない存在への共感を伴うようになった。
それらの心は複雑に絡み合ったまま、1つの形に到達した。

それは、「」と呼ばれるべき「好意」だった。



隣同士は必ず男女、机はくっつける、これが小学校のルールでした。


【席替え】

席替えといえば、クラス全員にとっての一大イベントである。
好きな子の隣になれるかどうかが決まる、超重要事項だ。

この時期の男女は、恋愛感情を持っていない子の方が多いはず。
なのに、席替えとなると何故かみんな必死になる。
その理由は人それぞれ違うのかもしれない...。
ユウにとってはもちろん、マキの隣になれるかどうか、その1点だけが必死になる要素だった。

席替えのやり方は、その時その時で多少の違いがある。
大抵は、担任教師が勝手に決めてしまい、それを微修正するだけで終わる。
けれども、小学3年生時の2学期のそれは、「微修正」の方が先に行われるという、珍しい形が採られた。

まず、目が悪い人が前列となり、座高の順に後列から配置がある程度決められた。
その上で、変更して差し支えない範囲であれば、各々の希望が聞いてもらえたのである。

窓側の席を希望する奴、廊下側が良いと言う奴、あいつの近くだとうるさいからそこから遠ざけろと言う奴...などなど、各自がそれぞれの理由で好きな席を希望しまくった。
ユウは、露骨に「マキの隣の席に行きたい」などと言えるはずもなく...適当な理由を付けて、マキの近くに行けるように画策していた。
それを上手く遂行するには、バレない努力以前に、マキの動向が重要である。

担任教師は、それぞれの意見を聞き入れつつ、席替えの完了図を黒板に描き、何度か仮決定した。
これにはもちろん、思い通りの席になれなかった奴が猛反対する。
そこからさらに出た意見を反映し、図の変更は繰り返された。

いくつか変更された中で、ユウがマキの隣に位置する図があった。
その採決の時...


担任:「これで良いと思う人~」


ユウは左手を挙げた
今までの他の図に全て反対していたが、この時だけは賛成した。
本心がバレるのではないかとドキドキしながら。

散々変更が繰り返された後だけに、この時にはクラス全体にダルさが蔓延していた。
あまり積極的に自分の意思表示をしない性格のマキだ、この辺りでもういいやって手を挙げるのではないか、とユウは期待しながら、マキの方を見た。


。o(すげぇ不満そうな顔だし手を挙げてない...)


ガッカリした。
ショックだった。
そしてさらに、嫌な予感がした。



。o(もしかしたらマキさんは好きな男子が居て、その隣になりたいのでは!?)


ありえる...。

頭が良いという事は、成長が早いという意味でもある。
まさに自分自身がそうで、マキさんの隣に行きたいわけだから...。


この図の採決は、反対多数となっていた。
ユウは、「もうこれでいいじゃないか。何度も変え過ぎて時間がもったいない。」などと主張して粘った。
しかしその頑張りも虚しく、反対多数は変わる事無く、別案の協議に移った。

この時点で、ユウがマキの隣になる可能性は絶望的となった。
それなら、前か後ろ...とにかく近くになりたかった。
先ほどのマキの態度を見てしまい、心の中の失望は大きなものがあったが、自分にとって少しでもマシな結果になるよう努力するしかない。

その後の変更で、ユウがマキの真後ろの位置になる図の採決があった。
ユウはこれに賛成し、マキの方を見た。


。o(ん?さっきと違って、明るい顔で手を挙げている


「その違いは何だ?」とユウは考えた。
席替えと言えば、隣の異性が誰なのかという要素が最も大きいはず。
マキさんの隣になるのは...ダイだな。


。o(...そういえば、いくつか前の変更図で、ダイがマキさんの隣になるやつがあったな)

。o(その時マキさん、賛成の方で手を挙げていたな!!!!)


これは...信じたくないけれど、そういう事ではなかろうか。
それは、ユウがマキの隣になる図の1つ前のものだった。
最初、ユウは、マキがめんどくさくなって賛成に手を挙げたのだと思っていた。
だから、その次の図でも賛成に手を挙げると期待してしまったのだ。

結局、マキの隣はダイマキの後ろにユウ、という形の図が採用となり、席替えが行われた。



ショックを受けるとわかっていても、知りたい気持ちは抑えられなかった。


【うるさい!】


マキはダイの事が好きなのではないか?
ユウは、その疑いが真実かどうか知るべく、2年生までマキと同じクラスだった女子に聞き込みをした。
あまりストレートに聞くのもまずいと考え、「誰が誰を好きなのか」みたいな、個人に的を絞らない全体的な話題として、質問する事にした。

大抵は、「よくわからない」という答えだった。
まあ、それはそうだろう。
異性に好意を持っているのがバレると、徹底的にからかわれ、居心地がものすごく悪くなるから、誰もが悟られないように振る舞っている。


女子:「マキちゃんはダイくんの事が好きだと思うよ。」


1人、そう答えた女子が居た。
小学校入学時からマキと同じクラスだった人で、3年時の今でも普段から仲良さそうに話している人物だった。

ユウは改めてショックを受けた
これはもう間違いないだろう...。

他にも、誰が誰を好きとかいう話はいくつか手に入ったけれど、自分やマキが絡むものではなかったため、胸にしまっておく事にした。


授業が始まると、マキはユウの目の前の席に座る。
ユウはちょっとハッピーだった、殆どの時間は後頭部しか見えないが。
そのハッピーは、簡単にジェラシーに変わる。
何故なら、マキの隣にはダイが居て、マキはダイを好きなのだから。

時々チラッと横を向くマキ。
ユウはそれを見て2つの意味でグッと来る。
テストやプリントを回す時、マキの顔が見られる。
クールな表情を作ってそれを受け取るけれど、内心はかなり嬉しい。
しかし、マキにとっては、後ろのユウにはそういう時以外なんら用は無いので振り向かない。

最初の頃は、その小さなハッピーで満足していたけれど、だんだんと辛さの方が勝るようになってきていた。
マキが横に居るダイを意識しているのが見て取れるからだ。
一方、自分はどうでもいい存在なんだろうというのも、毎日毎日感じざるをえなかった

ユウは辛さに耐えられなくなり、授業中に周囲の人と、授業内容とは無関係な話をするようになった。
少しでいいから、自分の存在を、マキに認識してもらいたかった。


無反応。


そういう話に、マキが乗って来る事は無かった。
仕方が無いので、何かのネタの時に、マキに直接話しかけたり、いじったりするようになった。
それでもマキは基本的に取り合わなかったが、ある時ついに...


「うるさい!!!!」


ユウに怒りの目を向け、言い放った。

マキは授業を真面目に聞くタイプで、わからない部分はノートにメモして後から担任に質問していたようだ。
こうしたユウの行為は、マキにとっては邪魔でしかなかった。


ユウ:「はぁ?うるさいって言うおまえの声の方がうるさいわ!」


逆ギレしたユウに対し、マキは顔を再び前に向けると、もう後ろを振り返りはしなかった。


担任:「そこ、うるさい!静かにしなさい。」


マキはユウの巻き添えとなり、担任に注意された。

これ以後、ユウはマキにますます話しかけ辛くなった。



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