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【第8心】頭を取る【一生片想い】

小学4年生の3学期は、ユウにとっては不運な時期だった。

慢性的な疲労が抜けず体調を崩して入院したのもそうだが、担任だったちぢれキノコが産休に入ったため、この学期だけ担任教師が代わったのだ。
新しい担任には、短い期間でクラスの児童の特徴を把握するのは無理だったようで、ちぢれキノコのように1人1人に踏み込んだ教育・指導はできなかった。
それがユウと相性が悪かったかといえばそうではないが、「上辺を撫でるような内容」と言うべきか、何もかもが浅く感じられ、充実とは遠い時間となってしまった。

そして、マキに対して特にアクションを起こせないまま、4年生としての1年間が終わってしまった。
5年生の進級時にはクラス替えがある。
それまでに何らかのアクションを起こしておきたかった...。

とはいえ、ユウはマキと仲良くなれなかったのがむしろ好運に繋がる可能性もあった。
クラス替えでは、その期間に親しかった者同士は、離される傾向にある。
再びマキと同じクラスになれたなら、あと2年間チャンスが続く事になる。



正当性を主張したい闘いでは、背後から襲う事はしません。


【報復】


。o(マキさん、マキさんが居る!!)

5年生に進級し、教室が建物の3階となった。
面倒な階段を登り切って教室に入ると、クラスメイトが次々と登校してきて、誰が同じクラスなのかわかる。
確か、教室の前とかその辺りに、誰がどのクラスなのかわかる紙が貼り出されていたはずなのだけれど、それについてはユウの記憶が無い。


。o(このクラスは、チャンスだ!!)


クラスメイトの全員が揃い、顔ぶれを見たところ、サム、それにダイの姿は無かった
その他、初めて同じクラスになる男子の中には、猿は居たけれど、ボス猿気質の奴が1人も居なかった
過去の4年間、マラソン大会や運動会や音楽会など、学級全体の行事があったため、今まで同じクラスになった事の無い同級生であっても、ある程度はどんな人物なのか頭に入っている。

自分より身体が大きくて腕っぷしの強い奴が1人居るが、善悪の判断がきちんとしていて、正論が通じるタイプなので衝突する必要が無かった
小柄なマッチョで猿な奴が1人居たが、こいつの頭は単純で、懐柔するのは容易だった。
これら2人については問題にはならなかったけれど、他に1人ユウにとって厄介な存在が紛れていた
1~2年生の時にクラス内カースト3位の立場からカースト下位を見下し続けていた奴だ。

小学5年生ともなると、全員それなりの知能は身に付けている。
だから、クラス全員と殴り合ってボス猿を決めるなんて野蛮な行為はしなくていい。
この時のクラスの空気は、男女ともに気質が優しい人が多かったのもあって、そうしたボス猿争いはしなくて良さそうな、穏やかなものだった。

だが、ユウは敢えてその静寂を破った



ユウ:「おめぇ、1・2年生の頃、憶えてるか?」



ユウは、かつてのカースト3位に、因縁を付けた



3位:「は?何言っとーだ?」

ユウ:「てめーは憶えてなくても、こっちは憶えてんだよ!!」



言うや否や、ユウは3位の顔面をぶん殴った
全く容赦しなかった。
倒れた相手を続けざまに蹴り殴り、何を言おうと構わずボコボコにした。


ユウ:「あ?死ねや。口も利けなくしてやるわ。」


鬼の形相で追撃するユウを、周りの男子生徒が止める。
止めに入った奴等すらぶちのめす勢いだったが、そこは分別を付けた。
そしていったん大人しくなったフリをし、体が開放されると...


ユウ:「これで終わりじゃねぇぞ!!」


再び3位に襲い掛かり殴り付けた
3位は鼻血を出し、また何か言っている。
だが、ユウは、そんな声は右から左だ。
こいつが2度と自分に逆らおうという気が無くなるまで、殴り続ける構えだった。

騒ぎになり、教員が取り押さえに来た。

かつての1位と2位、さらにはサムあたりがやって来て参戦する恐れもあったが、そうなったらそうなったで、ユウは闘う気だった。
それで勝とうが負けようが、こいつらがかつてやってきた極悪非道なイジメ行為を、教員や同級生全てにぶち撒けるつもりだった。
その上で、闇討ちでも何でもして、そいつら頭が猿のクソガキ共に、因果応報というものを思い知らせてやる。

これは戦争だ。
俺は命を賭けている。
てめえらにその覚悟があるかァ!?



人には人の世界が、猿には猿の世界がある。


【別組の猿】


かつて自分達をいじめていたクソ野郎1匹を叩きのめしたユウは、それで怒りが収まったわけではなかった。
この勢いで、別組となったかつてのカースト1位の奴の顔面を、両目が塞がって見えなくなるぐらい殴りまくってやろうかと考えた。
ちなみに、カースト2位の奴とはその当時に殴り合っており、ユウが勝っている。

怒りのパワーは収まりつつあったが、事のついでである。
かつての屈辱を晴らしてやろうと、そいつの居る組に向かった。
その教室を覗いた時、ユウは面白い事に気が付いた。

1位は、サムと同じ組だった。


。o(ハッハッハ!こいつぁいいや!猿同士で争いな!)


どちらが勝とうと、どうでもいい。
実のところ、怒りに任せて直接手を出すのは、その後に色々と支障が出かねない懸念があった。
というのも、その1位の奴は、同じスポーツ少年団の野球部だったからだ。

場が違うとはいえ、チームメイトと殴り合う事になる。
そうなると、こいつよりさらにクソな先輩が介入して来るだろう。
そいつらも始末しなければならないし、そこまでやってしまうと野球を続けられなくなる可能性が高い。

ユウはこの機会での報復は必要無いと判断し、自分のクラスの支配に専念する事にした。



ピラミッドの図形を見るとカースト制度を連想する。


【頭を取る】


新クラスの最初で、「怒り」「暴力」そしてその「理由」を見せ付けた事によって、クラスの同級生全員に「こいつに下手な事をするとヤバい」という認識を植え付けた。
その上で、クラス全員に色々と話しかけ、一緒に遊び、友情を築いていった。

今回は女子、特に女子のリーダーになりそうなタイプの人物とはよく話すようにし、様々な物事について共感させ、意思の疎通を上手く行うようにした。
この頃のユウは、かつての古い価値観である、「女性より男性の方が上」という感覚はもう無くなっており、マキ以外の女子となら綺麗な会話ができるようになっていた。
女子の中で注意すべきおかしい人物は居らず、ユウがクラスの多くの女性と友好的な関係を持つのに、そう時間はかからなかった。

そうした友好関係を広げる一方で、気が緩んでユウを甘く見る行動をする奴が居れば、その都度威嚇した。
それでも姿勢を正さないようなら、容赦なくボコボコにした。
さすがに女子に対しては暴力は用いなかったが、ユウはリーダー的な女子と結託し、反抗的な対象女子をキッチリ追い込んで逆らえなくしていった。


こうしてユウは、このクラスの頭を取る事に成功した。



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