【第5心】虚しい努力【一生片想い】
好きになった相手には、他に好きな人が居た...。
自分なんて眼中に無いのだ、と気付いたユウは、どうすればダイを退け、マキの心を振り向かせられるのか考えた。
2人の様子を見るに、マキがダイの事を好きなのは察せられたけれど、ダイの方はマキに対しては普通レベルの接し方しかしていなかった。
おそらくダイは、まだ恋愛というものに無関心であり、マキに対して特別な感情はないのではなかろうか?
そういう点で、ユウは希望を持っていた。
ダイより自分の方が優れているとマキに見せ付ければ、振り向いてもらえるかもしれない、そう考えた。
【仲良くなれない2人】
ユウから見たダイは、猿の1人に過ぎなかった。
猿の代表と言えば、サムだ。
サムについては、保育園時代からよく知っている。
サムはこの時期も、自分に気に入らない事をされようものなら、すぐ逆上して暴力をふるっていた。
ダイも似たような気質に見えた。
しかし、サムと違って、暴力を好んでいるわけではなさそうだった。
だからなのか、サムが威張り散らしていても、ダイは特に争おうとはしなかった。
一方で、やはり自分の気に入らない事があると、しばしば逆上していた。
ただその「気に入らない」の性質が、サムのそれとは違い、「自分に非があって責められる」か「相手の非を責める」のどちらかに当てはまる事が殆どだった。
ユウは、何度かダイともめた事がある。
わかりやすい原因があるのは2度で、そのうち1度は、休憩時間に一緒に遊ぶ約束をしていたにも関わらず、ユウが忘れてすっぽかしてしまった時だ。
もう1度は、ユウがサムと一緒にやっていた遊びを、ダイが真似して同じ事をし、遊び場を巡った争いが起きた時、ユウがダイに対して言葉の選択を間違えた時だった。
いずれも、ユウは自分に非があると感じたため、どつかれたが我慢して何もしなかった。
ダイに非があり、心に火が点いたなら、ダイの腕力が自分より上であろうとも、ユウは全力で殴り合いをしていただろう。
しかし、そうまではならなかった。
理不尽だろうとなんだろうと、難癖を付けてダイと闘う選択肢も、ユウは考えていた。
しかし、たとえそれで勝ったとして、マキの心は自分に傾くだろうか?
むしろ、敵視されるだけでしかないのではないか。
それ以前に、自分に正当性が無い暴力をふるったところで、力を出し切れないし虚しくなるだけだというのも感じていた。
では、むしろ、ダイとより親しくなるのが良いのではないか?
友達として親交を深め、そこにマキが混ざる形ならばより自然に話せるのではないか?
その流れの中で自分の魅力をアピールし、少しずつこちらのものに...という長期戦略もアリだと思った。
その戦略に則り、ユウはダイと親しくなるべく、いろいろなアプローチをした。
それらの一環で、一緒に遊ぶ約束を何回かした中で、前述のうっかりが起きたのであった。
こうなると一定期間、ダイはそうした相手に心を閉ざしてしまう。
ユウから見たダイは、付き合うのが難しく、理解から遠い存在だった。
楽しさを共感できているかどうか、怒るべき時に一緒に怒れるのか、などという、感情の共有が今一つできなかったのだ。
ツボがわからない、噛み合わない、掴めない...などと、いろいろな表現があるが、ユウにとってのダイは、そういう存在だった。
さらに、ユウからしてみれば、ダイは恋のライバルである。
その複雑な心情が、付き合いにくさに拍車をかけた。
後々になって冷静に考えれば...ダイはただ単に、自己表現が下手なだけだったように思う。
それゆえに、ユウに限らず、周囲の同級生に付き合いにくさを感じさせてしまっていた。
一方で、孤高の人というわけでもなかった。
孤立するのは嫌だったようで、仲間を求めていた節は窺える。
お互いのそうした部分が邪魔をしたのか、ダイとユウの間には、親しくなりそうでなれない妙な距離感がずっとあった。
【虚しい努力】
ユウは、マキがダイの何を好きになったのかがわからなかった。
自分がダイと比べて明らかに劣っているのは、足の速さだった。
例のマラソン大会においては、ダイは1位になるほどではなかったものの、上位の常連だった。
どちらかといえば短距離に強いタイプだったようで、学年毎の学校代表で選抜リレーメンバー入りもよくしていた。
勉強においては、ユウはダイに負ける気はしなかった。
こんな猿レベルの奴のどこがいいんだろう?と、ユウは不思議に思っていた。
しかし、自分はマキに好かれておらず、ダイは好かれている。
これは事実であり、覆す努力が必要だった。
この年の冬、ユウは地域のスポーツ少年団の野球部に入った。
ダイも同時に入部した。
単純な足の速さなら勝てないが、野球においては別だ。
その実力差を見せ付けてやりたかった。
この時、マキはバレーボール部を選択した。
野球部は、地域のトレーニングセンターの野球グラウンドを使用する。
バレー部は、同じトレーニングセンターではあるが、室内競技だ。
...マキが野球の実力の違いを見る機会は無かった。
とはいえ、部活動があれば、自然と体が鍛えられる。
ユウは努力した。
部活動が終わっても、自主的にランニングするなどし、走る力を鍛えた。
ダイよりも速く走れる男になり、マキと肩を並べるような覇者になる。
そして勉強でも上回り、マキに認められる存在になった時、自信を持って告白するのだ。
ユウにとってはそれが学校に行くモチベーションだった。
しかし、現実は厳しかった。
この年の秋のマラソン大会は15位という、相変わらずの中位っぷりだったし、体育の授業の短距離走でも、ダイには全く及ばなかった。
また、学業でも、マキを明確に上回る事はできなかった。
そんな、学年末...
「誰かオールAが出たらしい」
という噂が立った。
そうだ、オールAを取れていれば、マキと肩を並べる事が出来る、とユウは思った。
周囲からも、「ユウがオールAなんじゃない?」という視線はあった。
というのも、目立たないマキと比べて、ユウは真面目に授業を受けている時は、自分から積極的に手を挙げて発言したり、学級会での意見をリードするなど、自分の力を目立たせる事に積極的なタイプだった。
俺か、それなら...俺なのか!?
ユウは期待して、通知表を受け取った。
Bが2つあった。
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