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京都のお供#1 秋を感じたくなる小説『錦繍』(宮本輝)

こんにちは。日に日に寒くなってくるのに耐えられず、ついにこたつを出しました。寒くて寒くてたまらないと思いながら駅への道を行き来するのですが、ふと見上げると葉の色が変わっていて、ああ、秋なんだなあとしみじみ思います。

今回は秋の小説たるにふさわしい題名を持つ、宮本輝の『錦繍』をご紹介します。

11月8日に京都、神護寺へ行ってきました。そのときのインスタがこちらです。

いつも風景から思いついた小説をインスタに投稿しています。このとき、何を考えたのかというと、この小説の出だしです。

蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした。

「まさか」「本当に」「すら」と畳みかけるようにどれほど想像できなかったことなのか、ひしひしと伝わってる書き出しです。並々ならぬ事情を予感させながら、物語が始まります。

のっぴきならない事情を抱えたかつて夫婦であった二人の主人公が、手紙のやりとりで過去を清算していきます。一体愛し合った二人の身に何があったのか。別れてもなおまだ深い愛を感じられる作品です。

ゴンドラで出会った「あなた」は一息に主人公を過去へと連れ戻したのでした。そのときの季節は秋。きっと美しい色とりどりの葉が眼前に広がっていたはずです。しかしそれを美しいと思うのは主人公にとってさぞ難しかったことでしょう。実際、ゴンドラの外に目を向けることがなかったと描かれています。

この小説は秋に始まり、一年を巡って終わります。秋というのは哀愁に満ち、どこかもの悲しくなる季節ですが、一方でその美しさには惚れ惚れとさせるものがあります。まるっきり逆の、二つの感情を抱かせるのです。この小説の秋は最初と最後では別物のようです。苦渋と暗澹たる気持ちで暴かれる過去が現在への生の意識へと昇華される様は、まさに人生が、見方によっては重苦しくもありながら、かけがえのないものでもあることを思わせます。

さて、この小説では嵐山や祇園が頻出します。嵐山と言えば、京都の中でも屈指の紅葉の名所。渡月橋を見ながら、待ち人を思う主人公や、夜風に思いをめぐらす様は儚く、そして大層美しく描かれています。

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京都のお供にこの一冊。

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