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歳を取ることは結構イイこと

スウェーデンのテレビ局SVTによる番組『Det är inte så dumt att bli gammal(勝手に訳すと、”歳を取ることは結構イイこと”または”歳を取ることはそんなに悪いことじゃない”)』

を観た。

毎週、ひとりの高齢者を取り上げ、その人の人生や今の生き方や考え方について密着取材するドキュメンタリー番組だ。今回の主役は103歳のおばあちゃんブロガー、Dagny。Dagny はスウェーデンで最高齢のブロガーとしてテレビや新聞、イベントなどに引っ張りだこだが、ブログを始める前は孤独の日々を送っていた。二番目の夫が亡くなってからというもの、起きるときも一人、寝るときも一人…こんな人生に何の意味があるのだろうか、と暗く寂しい日々を過ごしていた。そんな時に彼女はパソコンを始め、今ではお年寄りのためのパソコン教室も開いている。自身のブログへの訪問数も80万を超え、ブログには自分の顔写真をフォトショップしてバイクを乗り回したりスノボで大きくジャンプする写真を載せている。携帯電話の写真機能もお手の物という感じで使いこなしている。

生き生きと力強く歩き、ウィットに溢れたコメントをどんどん放つDagnyはとても103歳には見えない。イベントに呼ばれては周囲の人々をすっかり笑顔にしたり、パソコンでダンスのパートナーを探す彼女は今でこそ毎日を楽しく生きているように見えるが、自分の人生はあまり良いものではなかったと言う。 弟の死をはじめ悲しいことが多かった子ども時代や、アルコール中毒で嫉妬深く、 Dagnyをクローゼットに押し込めて彼女が友達に会ったり趣味を楽しんだりできないようにしていた最初の夫の話などを語るシーンもあった。彼女は言う。「 昔は良かったという人はよくいるけど、わたしに言わせてもらえれば絶対今の方がいい。」

人生は100歳からよ。と彼女はおどけて言う。その言葉に勇気をもらう。100歳からが人生なら、人生を楽しむ練習期間はそれまでかなりたっぷりあるのだ。もちろん、だれもが100歳まで生きられるわけじゃない。問題は、100歳だから、80歳だからとか、さらには「 アラサー」だからと年齢によって制限を自分でもうけたり、また周囲がたしなめたりすることで、そこにある可能性をむげにしてしまうことだ。そしてそのような考え方を、わたしたち一人一人がやめることで、人生はより楽しくなるのではないかと思う。

わたしは前々から「 アラサー」「 アラフォー」という言葉が好きではない。それは、決して自分が今まさにそのグループに属する年齢にいるからではなく、その言葉の持つ「 もう若いわけではない」者への一方的な揶揄の意味合いと、その若さという刹那的な価値への盲信が不愉快に思えるからだ。25歳の人が自分の年齢を「 アラサーになっちゃいました」とか「 わたしはもう若くない」と言ってしまうとき(こういう表現は街や職場、ネットの世界など至るところで見受けられる)、そこにDagnyのような女性が存在するという想像力が果たしてあるのだろうか。Dagnyは103歳だけれど、若く、元気で、未来にたくさんの希望を持ってブログを書きながら生きている。これからも出会う人、挑戦していくことがたくさんあるだろう。30代、40代が「 アラサー」「 アラフォー」と扱われ、「 もう若いわけではない」という意味を込めてカテゴライズされてしまう存在で、何かをするには資格を失った存在であるとするならば、われわれは歳を取るたびに挑戦する機会を常に失っていくという考え方を永遠に持たなければいけないことになる。そしてもしもわれわれが皆Dagnyのように103歳まで生きるなら、後半の70年以上は常にそのような縛りを抱えて生きていかなければならないことになる。こんなにつまらないことはない。

若さという刹那的なものにかじりつく価値観の無意味さに気づくと(だってそもそも人生の4分の1だけが輝かしい時期だなんて信じるのさみしすぎるじゃないですか)、自分の人生に広がりが見える。これは年齢だけではなく、性別や国籍、体型や学歴、人種などにも言えることだと思う。「 女性だからできない」「 日本人だから難しい」というような発想を解き放ち、自分が本当にやりたいこと、挑戦したいことは好きなだけつきつめれば良いし、または他人に対しても、制限をかける価値観によって反対をせずに、やりたいことがある人を応援し、支え、必要ならアドバイスも提供するという姿勢をできる限りとっていく方が、本人も自分もハッピーになれると思う(難癖をつけて反対する人の顔は一概にしてハッピーなものではない。あなたのためだからという言葉の内側には本当は単にその人の価値観の枠組みから飛び出すものがあるとその人が困るという心情が見えるときもある)。

ここでこの文章を終わらせたらいい感じの締めになるのだろうけど、久しぶりに長い文章を書くので同じテーマでさらに3つほど話題を駆け足で書きます。かなりランダムだけど…ごめんあそばせ。

一つは去年、ヘルシンキ国際映画祭で観た『Advanced Style』という映画について。日本でも公開されたこの映画は、スタイリッシュにNYのストリートを歩く高齢の人々のストリートスナップのブログ、Advanced Style で常連となった女性たちをフィーチャーしたドキュメンタリー映画なのだが、観終わったあとの気分をサイコーにしてくれる映画。強く、自由に生きている80代や90代の女性たちが、熟練された(=アドバンスド・スタイル)魅力溢れるオシャレ哲学と人生の哲学を見せつけてくれる。彼女たちの言動を見ていると本当にスカッとするのだけど、共通して時折見せる孤独な姿も印象的だった。一人で生きるのはとても寂しい、誰か伴侶が欲しい、という言葉を華やかに見える生活の影でそっと放つ彼女たちの姿をみて、どんなに自由に楽しく生きていても、やはり人は人を求める(誰かと暮らしたり行動をすることの方が自分の自由にできない場合もあったりもするのに)という命題のようなものを感じた気がした。

二つ目はフィンランドの国営のテレビ局で今年の春から夏にかけて放映されていた『Hjärtevänner(訳:心の友達)』という、エミールが製作チームのメンバーだった番組について。こちらは50歳以上の人々を対象にした(といっても殆どは70歳以上だった)デート番組なのだが、毎回参加者一人一人の半生を時間をかけてインタビューしていてとても興味深かった(大げさではなく見るたびに毎回涙が出てきた)。全国的にも反響の高い内容だったようだ。そこには、幼い子を失ってしまったことで妻と二度と心を通わせることができなくなった結果離婚をし、その後長い間孤独に生きてきた男性や、夫に病気で先立たれて孤独に生きた女性などが今までの自分の人生を語り、新たな出会いのために勇気を出す姿が映し出されていた。人は、いくつになっても色々なことを一緒にしたり、毎日他愛のないことを話したり、そんな存在の人を近くに欲しい、と思い続けるのだろうか。今は強がりな自分がいて、孤独に関してそこまで恐怖を感じていないが、これらの作品を観てからはこのことについてよく考えるようにはなった。

三つ目に、来週エミールとエミールのおばあちゃんのいるヴァーサに1週間ほど行って、エミールの家族のプロジェクトを手伝うということになった。エミールのおじいちゃんが去年の秋に亡くなり、それからおばあちゃんの記憶は急激に失われていることを受けて、エミールがおばあちゃんにインタビューをして、映画を作ることになったのだ。わたしは7歳になる直前までおじいちゃんに育ててもらったこともあり、おじいちゃん、おばあちゃん世代と過ごすのがとても好きなのだが、わたしには一緒に過ごせるおじいちゃんもおばあちゃんも7歳以降いないので、エミールにはなるべく、おばあちゃんとの時間を過ごしてもらいたいと切に思う。わたしもスウェーデン語を学び、エミールのおばあちゃんとどんどん会話できるようになってとても嬉しい。おばあちゃんはわたしがいない時でもよくわたしの話題をするようで、エミールのお母さんは「おばあちゃんはみののことが大好きなのよ」とよく言ってくれる。わたしにとっておばあちゃんは、まだ知り合って間もないのにどんどん大切な人となっているし、そのような関係を築けたことがとても嬉しい。だからこそ機会があるならできるだけおばあちゃんの家に行きたいし、エミールがおばあちゃん思いなのを見るととても嬉しくなる。最後、おそらく孤独のなかで死んでしまったわたしのおじいちゃんのことを考えると、いまだに胸が苦しくて涙が溢れてしまう。わたしは7歳だったので何もできなかったのだが、そんな自分も許せない。エミールのおばあちゃんにはできるだけ孤独を感じて欲しくない。

しかしまた、わたしのおじいちゃんが死ぬ前にわたしと過ごした7年間はきっと素晴らしいものであったと信じたい。おじいちゃんはおしめを縫ってくれて、文字の読み書きを教えてくれて(おじいちゃんは定年退職する前は小学校の校長先生だった。)、わたしはおじいちゃんにワガママを言ったりイタズラをしたり、とんでもないがきんちょだったけど体当たりで毎日一緒にいたのだ。誰かが誰かと体当たりで生活する、これもなかなか面倒だけれどないよりはあった方がいい体験かもしれない。こんな日々をおじいちゃんは愛してくれていたらいいなと思う。わたしにとっては人生で最も暖かい日々だった。

エミールのおばあちゃんも長年小学校の先生を務め上げ、村のたくさんの人々がおばあちゃんのもとで勉強した。来週はおばあちゃんに会って、少しでも長く穏やかな時間を一緒に過ごせたらいいと思う。Det är inte så dumt att bli gammal(歳を取るのはそんなに悪いことじゃない)と思ってもらえたらさらに本望だ。わたしも103歳まで生きるつもりで(長生きがしたいわけではないけれど)、今はまだまだ若造だと思って何にでも果敢に挑戦していきたいと思う。

ちなみに高齢者が主役として生き生き輝く映画といえば、高齢者だけで構成された合唱集団のドキュメンタリー映画『ヤング・アット・ハート』や、村を救うために高齢者の女性でヌードのカレンダーを作る『カレンダー・ガール』、ここにも感想文を一度書いたことがあるがアイスランドを旅するおじさん2人の話『Land Ho!』や、キャメロン・ディアスとシャーリー・マクレーンが孫とおばあちゃんを演じる『イン・ハー・シューズ』、マリアンヌ・フェイスフルが好演する衝撃的だけど心温まる『やわらかい手』などたくさんあり、どれも元気が出る、また観たくなる映画ばかり。

日本から持って来たパソコンが壊れ、エミールの古いMacを譲ってもらって書いた初めての文は、パソコンがフィンランド製なので日本語のキーボードを入れたもののうまく使いこなせず、まだまだ自分の満足いくような文章にはならなかったが、週に3回くらい長い文を書いていって慣れていきたいと思う。やっぱり本を読まないとダメだね。103歳までに何冊読もう。

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【過去テキスト】

妄想フィンランド7日間の旅に皆さんをご招待:

https://note.mu/minotonefinland/n/n1dc2b5304706?magazine_key=mf53e59f9f07a

フィンランドのロヒケイット(サーモンスープ)とレンズ豆のスープの作り方:
https://note.mu/minotonefinland/n/n72df81a29c36?magazine_key=mf53e59f9f07a

せかい食べ物紀行―第二話、フィンランドとパイヴァン・ケイット(本日のスープ):
https://note.mu/minotonefinland/n/na05b7d010c15

シネマレビュー: Casse-tête chinois(邦題:ニューヨークの巴里夫):
https://note.mu/minotonefinland/n/n924cbf1aad4a?magazine_key=m86a5f3f1198a

シネマレビュー: Land Ho!
https://note.mu/minotonefinland/n/n1f7e8e240883

1年前の今日:
https://note.mu/minotonefinland/n/nc6c323670bea

せかい食べ物紀行―第一話、パリとアップルタルトとトマトと玉子の炒め物:
https://note.mu/minotonefinland/n/n72a918228e5c

フィンランド―若手起業家たちの生まれる地:
https://note.mu/minotonefinland/n/ncb081698cdf8

かつてmixiで友だちに書いてもらった紹介文を振り返ってみた:
https://note.mu/minotonefinland/n/n1f9ed7196e07

アールヌーボー、ジャポニズム、サイケデリック、女性:
https://note.mu/minotonefinland/n/n8e2725c2bdcf

時の宙づり:
https://note.mu/minotonefinland/n/n2a182b91e783

不思議惑星キン・ザ・ザ(Кин-дза-дза! Kin-dza-dza!):
https://note.mu/minotonefinland/n/n3d2e049be0ff

日本からのサプライズの贈り物:
https://note.mu/minotonefinland/n/n1f33b547e2f4

フランスについて、2014年夏に思うこと:
https://note.mu/minotonefinland/n/n5bbe675bd806

エミールの故郷への旅(前編):
https://note.mu/minotonefinland/n/n8d7f3bc8d61d

エミールの故郷への旅(後編):
https://note.mu/minotonefinland/n/n6ccb485254c2

水とフィンランド:
https://note.mu/minotonefinland/n/n82f0e024aaab

ヘルシンキグルメ事情~アジア料理編~:
https://note.mu/minotonefinland/n/nb1e44b47da30

わたしがフィンランドに来た理由:
https://note.mu/minotonefinland/n/nf9cd82162c26

ベジタリアン生活inフィンランド①:
https://note.mu/minotonefinland/n/n9e7f84cdc7d0

Vappuサバイバル記・前編
https://note.mu/minotonefinland/n/n2dd4a87d414a

サマーコテージでお皿を洗うという行為:
https://note.mu/minotonefinland/n/n01d215a61928

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フィンランドに住んでいます。森できのこを採ったり、野菜を育てたり。現在zineを作成中。創刊号のテーマはフェミニズム、フィンランド、フォレスト、フィルムなど「F」で始まる言葉を選びました。

コメント7件

桐島黒江 さん、コメントありがとうございます!映画を作るプロセスもたまにnoteに書いていきたいと思います(^∇^)おばあちゃんともっともっと話したいと思うとスウェーデン語の勉強にも身が入ります。
あぎさん、心のこもったコメントありがとうございます。人が書いた長い文を読むのはなかなか根気が要りますよね。読んでくださり本当に嬉しいです。わたしはコーヒーが苦手なのですが、あぎさんの煎れたコーヒー、きっと美味しいだろうなと思います。
みのさんと出会えて良かった、今日もそう思える記事でした。
ありがとうございます。
ツイッターで少しだけお付き合いさせて頂いたゆかです。
みのりさん、私は人を心から思いやるあなたを応援しつづけたい!本当に。…>_<…
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