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任期付き研究者,娘を持つ

ヘッダー画像は自分史上最もエモい瞬間の写真です。

はじめに

3カ月ほど前の話だが、2022年6月17日に第一子となる娘が産まれました! 妊娠が分かった段階から言われていたが、コロナ禍のため立ち合い出産は不可能だった。出産が某大学病院になったためともいえ、その時点では立ち合いできる病院もあったみたいだけれど今は不可能な病院が増えている模様。

任期付き研究者が親になったわけだが、色々思うことがあったので個人用メモも兼ねて書いておく。

妊娠発覚

妊娠が発覚したのは大阪府に住んでいた前職の頃で、面接(オンライン)→面接(東京)→学会発表(オンライン)→病院(大阪)で妊娠発覚、という怒涛の日々を過ごしたことを覚えている。1つ目の面接が現職で、すぐに合格してよかった、でも来年度以降も任期付き研究者だなーと思ったことを覚えている。

現職への転職に際して職場近く(兵庫県)への転居を考えていたが、出産を控えた妻の体調を考慮して病院側と話し合い、6月まで前の家に住み続けることにした。現職場も転居を遅らせることに理解があり非常に助かった。

陣痛開始~入院へ

6月16日の22時ごろ、妻が「お腹が痛い」と言い始め、陣痛か?と疑ったがすぐ収まったとのことで安心した。しかし、10数分後にもう一度痛いと言ったことから陣痛と確信して病院へ連絡→(旦那さんはいいので奥さんに変わってくださいと言われる)→車で病院へ連れていく→入院が決まるという怒涛の展開。万が一の破水対策のため、車にはペット用シーツを大量常備して病院へ向かった。

妻が病室に入った時点で「ご主人はお家で待っていてください~。初参なので出産までにはあと半日から1日かかりますかね~」と看護師さんに言われ一抹の寂しさとコロナ禍の実感を持って退散。この時すでに6月17日午前2時。後述するが、6月当時のよりも今の感染状況は深刻であるため、立ち合いや面会の制限は厳しくなっている.

出産

3時ごろ家に帰った後、落ち着かないままシャワーも浴びずに寝てしまった。8時過ぎ、スマホの通知に気づいてふと起きると、「今から分娩室です」という妻からのLINE。あれ?病院から帰るとき「初参なので出産までにはあと半日から1日かかりますかね~」と言っていた看護師さんの言葉を信じていたのに?データ的には4時間程度はありそうだけど。

陣痛から出産までの時間.初産は4-12時間が最も多いことが分かる.
https://baby-calendar.jp/knowledge/pregnancy/150 より

どうしたらいいのかな?と思いながらホットサンドメーカーでパンを焼いているとまたLINEの通知が5件ほど連続で入った。これは!と思って見てみるとそこには産まれたばかりの娘の写真が送られてきた。まれにみるほどの安産だったようだ。「母子ともに健康です」という妻からの連絡に呆然と立ち尽くし、写真を食い入るように見る俺。涙が出るようなことはなかったが、当然パンは焦げた

出産当時の身長が47.7cm、体重が2720g。現在では母体の負担を考えて身長48cm前後、体重2800g前後での出産が一般的だそうだ。最初は「小さいねー」と言われることが多く少しへこたれそうになったが、みなさんも「今はコレが標準です」と心に近いながら過ごしてください。

出産後~入院期間

面会についてもさすがコロナ禍、入院期間も一切妥協がない。私達夫婦の場合は、

面会は入院者が指定した16歳以上の1人のみが対応可能、面会時間は15分に限定、子どもとの面会は不可能。退院まで子どもを見るチャンスは写真のみ。

出典:我々夫婦

であった。これでも緩和された方で、1ヶ月早ければ、「直近72時間以内のPCR検査陰性証明を持たない限り面会不可」であった。妊娠中に知り合い、2ヶ月遅れで後を負っている夫婦と我が娘の1ヶ月検診でお会いする機会があったのだが、今は直近72時間システムだそうだ。

出産から半日程度経過してから面会に行った。面会の時に現れた妻は極度のダメージが残り、歩行器と介助の看護師さんが同行して自力では歩けないような状態であった。今この時を思い出しても涙が出てくるが、当時は面会スペースで号泣したことを覚えている。出産は命がけである、という事実を見せつけられた。後にも先にも出産や育児でこれ以上泣いたことはない。入院している5日間毎日お見舞いに行こうと思ったが、学会投稿が切羽詰まっていた日に一度だけ面会に間に合わない日があった

 学会投稿のせいで妻と面会できなかったときの僕

退院後

退院日。娘を迎えに行くと、妻がピンクのおくるみをつけた娘を抱えて出てきた。遠目から見て、娘だと認識するまでに時間がかかった。あまりに小さくて折りたたまれたピンクのタオルケットを持っているようにしか見えなかったからだ。生後5日の新生児はそれだけ小さいのだということを知らなかった。育児という怒涛の日々の始まりだ。

育児

我が家の育児は「ぴよログ」で管理されている。ミルク、おむつ交換、体重、身長などとりあえず何かあればログをつけて管理。夫婦間で共有できるため便利なアプリである。

おむつ

おむつは各社匂いもれなく使用できていたが、テープの止めやすさと肌触りからグーンプラスを採用。

おむつを捨てる場所も重要。いくらかわいくて愛しい我が子でも、オムツの匂い漏れは生活環境を悪くするので、下記消臭袋を使用。

これは、専用のゴミ箱にセットすると円筒状の袋が取り出せる仕組みになっており、先端を堅結びすることでゴミ袋としてオムツを保管できる。少なく堅結、週に2回のゴミ出しの日まで匂いが漏れ出すことはない(まだミルクしか飲んでいないから、という可能性もあるので感想は後々)。

ミルク

ミルクはアイクレオ、ほほえみ、はぐくみなど好き嫌いなく(反応ないので分からないが)飲むのだが、我が家でははぐくみのエコらくパックを採用している。

缶は処分が面倒なので、アルミパックの粉とプラスチック容器を使用している。容器のすりきり用の棒を非常に重宝している。

粉ミルクはサカザキ菌やサルモネラ菌を不活性化するために、70度以上のお湯に溶解した後、飲めるようにするためには人肌レベルに冷まして提供する必要がある。そのため、一時期は流水に当てるなどしていた。しかし、ミルクの提供は時間との勝負でありミルクを欲した赤ちゃんは冷却中も大声で泣き続けるため精神衛生上良くない。よって、現在はお湯と水を混ぜて強引に温度調整している。お湯はタイガーの蒸気レス電気ポッドを80℃に設定して使用している。

水はブリタのポッドにつけるカートリッジを通した浄水を冷蔵庫に常備している。今住んでいる地域の水があまり美味しくなく、妻の希望でフィルターを二回通しているが1回でも十分だと個人的に思う。この辺はこだわり次第。

ミルクを100 ml調整したい場合、粉を投入→お湯を50 ml滴下して混和→冷やした水で100 mlにメスアップする。たまに溶け残ったり、温度が安定しなかったりするが気にしない。火傷するといけないので、熱すぎる場合には水を入れた茶碗に1分ほど放置しておくとちょうどいい温度になる。

哺乳瓶はピジョン母乳実感のプラタイプを用意した。

最初はガラス製やベッタの斜めタイプも購入し、使用したがどちらも長続きしなかった。

哺乳瓶の除菌は永遠のテーマであるが、我が家では電子レンジで除菌できる下記製品を使用している。洗浄した哺乳瓶と50-60mLの少量の水を入れ、500Wで5分程度レンチンすれば除菌されるという優れものだ。

洗濯

洗濯物が非常に多くなるが、ドラム式洗濯乾燥機を新調して乗り切った。転職に際して新しく引っ越した家が古いため、洗濯機用の水栓位置が低かったのだが、アタッチメントを取り付ける工事をしてまでも設置した。いい買い物だった(お値段は高いけど。)

赤ちゃんの衣類は別で洗濯しており、洗剤はさらさ。この辺は何も考えず、赤ちゃんのお肌に良さそうなものを購入した。実は大人の衣類と一緒に洗ってもいいし、洗剤もどれでもいいらしい。産婦人科では別で洗うことを推奨しているわけでもないことを申し添えておく。

入浴

お風呂は最初の1ヶ月は洗面所、1ヶ月を過ぎた頃から浴槽に入れている。石鹸はなんとなくミノンの泡で出てくる洗浄剤を使用している。落としたら怖いという緊張感はあるが、洗面所よりは浴槽に入れるほうが個人的に楽。

うちはシャワーでガンガンシャンプーを流しているが、シャワーヘッドは赤ちゃん用のものを購入。初期で付いていたヘッドは水圧が強すぎて痛かったのでこれは水流が優しく大人も嬉しい。最初は目に水が入って泣いていたが、それも数日でなくなった(もちろん意図して目にかけることはない)。

私にとって育児は工夫と課金でいかに効率を上げるかのゲームのようである。工夫は楽しい。そして、育児の実態は細胞培養とプログラミングであった。哺乳瓶、オムツ、入浴環境の管理は間違いなく細胞培養の無菌操作経験が活かされている。また、泣いて暴れるというエラーメッセージを受け取り、ぴよログからオムツやミルクの間隔をチェックし、適切なソリューションを選択する育児はデバッグに似ているなと思う。ただし、20%くらいはエラーメッセージとログの内容が合わないことがあり(例:お腹が空いているのにミルクをあげようとすると哺乳瓶を手で弾き飛ばす)、コンピューターではない生物らしさがうかがえる。体力的にきつい時もあるが、育児には日々興味を持って取り組んでいる。育児のために筋力を鍛える必要があると、パーソナルトレーニングに通い始めた。

写真の共有

娘の写真は「みてね」で共有している。

私たちは一眼など持っていないが、娘の写真はほぼ全てスマホカメラで撮影し、見て寝にアップしている。スマホカメラでも画質はかなりいため、アプリで共有する程度なら問題ない。実家の母、祖母も簡単に見てコメントをつけてくれているので良かったと思っている。

娘を持ってみて

タイトルの通り、自分は任期付き研究者である。「任期付き」、という言葉が示す通り非常に不安定な身分であり、いつ職を失うかわからない状況だ。任期付き研究者として子を持つ選択は容易ではなかった。いつどこで職場が変わるかもわからないため、周囲の子育て世代研究者を見ると単身赴任の人も多い。片方が研究者でもさることながら、療法が研究者だとその確率は2乗である。

博士課程修了後、アカデミア研究者の道を目指すのであれば大半の人は任期付き職に就くのであるが、任期付き職で結婚や出産を経験する人は当然ながら少ない。私は娘が生まれた時点で32歳7ヶ月、2019年時点で男性が第1子を持つ年齢の平均は32.8歳らしい(引用元)のでほぼ平均通りだ。しかし、実感として32歳や33歳で子を持つ任期付き研究者は少ないと思う。うちは違うが、研究者同士の夫婦ならなおさらだ。

私はというと、以下のようなことを言われていた。

「子どもが可愛そう」
「任期付きの間に子を作るなんてありえない」
「職を失ったらどうするんだ」

この物語はフィクションです

という呪詛の言葉は聞き飽きるほど聞いた。これらの言葉を並べる人の中には、ご主人が任期付き研究者であった女性も含まれている。気持は良く分かるが、自分たちの夫婦事情を他の家庭に照らし合わせる事象ではない、人それぞれだ。

我が家の場合、妻の年齢今後の任期の見込み現職の収入など複数の条件を検討して子どもを持つという選択に至った。計算が甘いのかもしれないが、今の年齢で子どもを育てる過程は何にも代えがたい経験だと思っている。夫婦の体力面や出産年齢を指標として考えると、書き方は悪いことは承知の上だし残酷な現実かもしれないが、新生児の子育ては若い時に行うことが好ましいという事実は明確に存在する。

子育てがいい面ばかりだとは口が裂けても言えない。程度の差こそあれ睡眠不足に襲われるし、なんで泣いているのか分からず抱っこしたまま30分ぐらい立ち尽くしたことは数え切れない。任期付き研究者として研究時間が削られている感覚も痛いほど実感する。しかし、子どもにミルクをあげる、おむつを交換する、一緒に寝る、一緒に入浴する中で日々子どもの成長を見守ることが出来るのは最高の幸せ者であると自信と確信を持って言える。神経科学の研究者であるため、脳神経系の形成過程を生体で実感できる点もたまらない。

以上、任期付き研究者が娘を持った感想でした。最後になりましたが、妊娠中から暖かく見守ってくださり、入院を直前に控えたころから在宅勤務への切り替えを許してくれた前職場および現職場、妻の体調を常に気遣い、場合によっては妻の送り迎えすら担当してくれた妻の職場の方々に心から感謝します。

3年目に入ったとはいえ、コロナ禍での出産という厳しい状況を必死に戦って下さった医療従事者、関係者の皆様、そして何よりただ一人で出産に臨んだ妻の奮闘に心から御礼申し上げます。

#出産 #育児 #任期付き研究者


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