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足立実の『ひと言』第40回 「東芝事件と危険な陰謀」 1987年8月10日

 東芝の機械がソ連に輸出され、潜水艦のスクリュウの音を低くしたと大騒ぎだ。
 アメリカの議会は東芝製品二~五年輸入禁止をふくむ包括貿易法案を可決、東芝会長は辞任、田村通産大臣の対米謝罪訪問、「外国為替及び外国貿易管理法」改正案の国会提出、対社会主義国貿易の厳しい規制実施などなど。
 何かおかしいと思わないか?
 ソ連の潜水艦の音と東芝の機械の関係は何も証明されていない。ココムは北大西洋軍事同盟の一機関で国際条約ではない。
 ソ連に軍事的協力をしないのはいい。
 アメリカならいいのか?
 ベトナム侵略をやり、朝鮮に大軍を駐屯し、ニカラグアの内政に公然と干渉し、ペルシャ湾に軍艦を派遣するなど世界各地で侵略行為をはたらいているアメリカにこそ一切の軍事協力を拒否すべきではないか。四十二年前の敗戦で、日本は平和立国を誓い、「平和憲法」は戦争にかかわることを禁止したはずではなかったか?
 ところが「東芝さわぎ」のどさくさに、 米国防長官と駐米日本大使の「米戦略防衛構想(SDI)参加の政府間協定」調印、防衛庁の米国製ミサイル搭載のエイジス艦導入の公表、防衛庁長官の輸出品検査、日米対潜協議の開催、国家秘密法の再提出発言など、日米軍事協力は一挙に進んだ。
 最も危険なのは、この「大さわぎ」の中でソ連は日本の敵国で、米軍とともに対ソ戦をやるのが当然という意識を、国民の中につくりだそうとしていることである。
 警戒心を高めよう!(実)

(画像は1987年に米議会前で東芝製ラジカセをハンマーでたたき壊す米議員ら。この年、東芝機械が共産圏へ輸出した工作機械でソ連の潜水艦技術が進歩したとして日米の政治問題に発展した )

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注釈

・「東芝の機械がソ連に輸出され、潜水艦のスクリュウの音を低くしたと大騒ぎだ」
いわゆる東芝機械ココム違反事件
東芝機械がココムに違反してソ連に工作機械を輸出した事件。 1987年に発覚した。単なるココム問題を超え、日米摩擦に発展した。アメリカは,東芝機械により不正輸出された工作機械で、ソ連は低騒音の潜水艦用スクリューを作り、結果的に西側の安全保障機能が阻害されたと主張した。日本政府は東芝機械を一年間の対共産圏輸出禁止処分としたが、親会社の東芝社長も辞任せざるをえなかった。その年の春には、日本製半導体に対し 74年通商法301条による制裁が行なわれていたため、アメリカの対日感情はこの事件により一層悪化し、議会では東芝制裁法案が提出され、東芝製品の輸入禁止の声が高まった。

・通産大臣
通商産業大臣
通商産業省は旧省名。通産省と略称。通商の振興・調整、鉱工業生産物の生産・流通・調整、石炭・鉱物・電力などの開発利用の推進、電気ガス事業の運営・調整,中小企業の振興と指導等を主管する中央行政機関。2001年から「経済産業省」となった。

・ココム
対共産圏輸出統制委員会( COCOM・ココム)は、冷戦期に資本主義主要諸国間で設立されていた、共産主義諸国への軍事技術・戦略物資の輸出規制(或いは禁輸)のための委員会。本部はフランスのパリ。
冷戦時の資本主義諸国がソ連やワルシャワ条約機構による侵略・侵攻という安全保障上の脅威に対応し、共産主義諸国への技術格差の確立を図るために、共産主義諸国へのハイテク物資の輸出を規制する目的で1949年秋に創設され、1950年1月から活動開始した。アイスランドを除く北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国と日本、オーストラリアが参加していた。
冷戦が終結してソ連が崩壊するとココムの意義が薄れたことで、1991年末に大幅な規制緩和が行われ、1994年3月に解散した。

・北大西洋軍事同盟
北大西洋条約機構(NATO・ナトー)
1949年に結成された西欧諸国の軍事機構。米国・カナダおよび欧州の資本主義国が加盟。冷戦終了後、東欧諸国が加わり、30か国で構成される(2021年現在)。最高機関は加盟国代表からなる理事会で、その下に北大西洋軍(欧州連合軍)を置く。本部はブリュッセル。

・「ベトナム侵略」
アメリカのベトナム侵略戦争
1960年に結成された南ベトナム解放民族戦線が、1961年、北ベトナムの支援のもとに南ベトナム政府に対して本格的な抗争を開始し、1969年には臨時革命政府を樹立。ベトナムの共産化を阻止する口実でアメリカは1965年から本格的に軍事介入して南ベトナム軍を支援、北爆を行い地上軍を投入、北ベトナム軍・南ベトナム解放戦線との戦闘を開始した。戦争は長期化したが、1968年、解放戦線によるテト攻勢からアメリカ軍の後退が始まり、1973年には撤退した。1975年には南ベトナム政府の首都サイゴンが陥落し、北によるベトナム統一が行われ、1976年南北ベトナムの統一が実現した。第二次インドシナ戦争。

・「ニカラグアの内政に公然と干渉」
中米ニカラグアにおいて、1979年に入って武装蜂起したサンディニスタ民族解放戦線は中道・左派の幅広い結集を受け、ラテンアメリカ諸国と国際社会を味方につけ、第一次ニカラグア内戦は終結。43年間におよぶソモサ王朝は終焉した。(ニカラグア革命)
しかし、ニカラグア革命は次第にアメリカ合衆国やソ連やサンディニスタや国内保守派の思惑が入り乱れ、これが第二次ニカラグア内戦へと繋がっていった。
1987年、革命を敵視したロナルド・レーガン米国大統領は“自由で民主的な政権を作る”という名目の下中米に介入を始めた。アメリカはニカラグアへの経済援助を停止し、CIAなど様々な組織を通じて、ニカラグア反政府勢力コントラを組織し、ニカラグアに第二次ニカラグア内戦を強いた。
これに対して1986年6月、国際司法裁判所は「機雷封鎖、コントラ支援を含むニカラグアへのアメリカの攻撃は、国連憲章をふくむ国際法に違反」とする判決を下すが(ニカラグア事件)、しかしアメリカはコントラ支援をますますエスカレートさせる。11月、アメリカ合衆国のイランへの武器売却代金がニカラグアのコントラ・グループに流れていた事が発覚した(イラン・コントラ事件)。

・「ペルシャ湾に軍艦を派遣」
1980年から始まったイラン・イラク戦争において、両国が殺戮の応酬を繰り返す中、1988年2月、イランとイラクは相互都市攻撃を再開、ここにおいてアメリカ軍がペルシャ湾に出動、4月14日にイランとの間で交戦となった。1987年当時からペルシャ湾への米軍派遣は行われていた。

・米戦略防衛構想(SDI)
戦略防衛構想( Strategic Defense Initiative, SDI)。アメリカ合衆国がかつて構想した軍事計画。
『ひと言』第34回 「中曽根康弘の罪状」参照https://note.com/minoru732/n/n13da47d1f325

・防衛庁
現在の防衛省。2007年1月に省に昇格した。

・エイジス艦

イージス艦(Aegis warship)
イージスシステムを搭載した艦艇の総称。通常、高度なシステム艦として構築されている。
イージス(Aegis)とは、ギリシャ神話の中で最高神ゼウスが娘アテナに与えたという、あらゆる邪悪を払う盾(胸当)アイギス(Aigis)のこと。

・国家秘密法
国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案
1985年の国会で自民党により衆議院に議員立法として提出されたが、審議未了廃案となった法律案。通称「スパイ防止法案」。
2013年の国会で「特定秘密の保護に関する法律案」(特定秘密保護法案)が第2次安倍内閣によって提出され、同年12月6日に成立している。

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1987年に起きたいわゆる東芝機械ココム違反事件についてのコラムである。

侵略国家アメリカが自身の罪状は棚に上げ、一方的にソ連に対する武器技術供与疑惑で日米間の国家間対立を煽っており、さらにこの「東芝さわぎ」の中のどさくさで米国の圧力により「日米軍事協力は一挙に進んだ」と筆者は批判した上で、この「さわぎ」は「ソ連は日本の敵国で、米軍とともに対ソ戦をやるのが当然という意識を、(日本)国民の中につくりだそうとしている」「危険な陰謀」であるとしている。

現在、ロシアのウクライナ侵攻に対してNATO諸国はじめ日本も含めて、武器や「防衛装備品」をウクライナに供与するのが「当然」であり、ウクライナを軍事支援することが「正義」であり、「このような侵略国家があるから憲法改定が必要だ。軍隊や防衛費の増額が必要だ」というような世論操作と「表裏一体」の問題であり、どこか似ている。

このような敵階級の策動に対して私たちが「警戒心を高めよう」というのは当時も今も変わらない。

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