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フラワーデモの署名の行方

11月9日に野田聖子議員がTBSラジオの番組に出演されました。
荻上チキ・Session | TBSラジオ | 2020/11/09/月 15:30-17:50 http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20201109171626

放送前日に番組のディレクターから野田議員の発言について事実確認を求められたので、私のコメントも番組内で紹介されています。聴きながら考えさせられること多かったので、防備録として以下記しておきます。まず時系列。

9月25日 共同通信で報道「女性はいくらでも嘘をつくことができる」。この夜、Change.orgで署名活動開始。
9月26日 杉田氏、自身のブログで発言を完全否定。夜に緊急フラワーデモ開催YouTubeで配信。
9月28日  8万筆が集まる異例の勢い。野田聖子幹事長代行へメールで署名の受け取り依頼をする(比例代表として公認した党としての責任を問うため)。
9月29日 日程を調整できないので今回は受け取りを辞退という返信が野田議員から届く。署名9万筆に届く。
9月29日 橋本聖子男女共同参画相が杉田水脈の発言に対し、自民党として何らかの措置が必要と発言。橋本議員にファックスで署名受け取りと面談を求める。夜20時〜twitterでのデモ #杉田水脈議員の辞職を求めます がトレンド入りする。野田聖子議員に改めて署名受け取りの日程調整を依頼する。
9月30日 野田聖子議員より日程調整するとの連絡を受けとる。この日、下村政調会長が杉田議員を口頭注意する。
10月1日 橋本事務所より野田聖子氏が署名受け取りの日程調整をすることに自民党内でなったという報告を受ける。杉田氏がブログにて発言の事実を認めるが、性被害者支援団体を貶める内容に批判の声さらに高まる。
10月2日 署名が12万筆を越える。性被害者支援団体の賛同が広まる。野田聖子議員に改めて署名の受け取りの日程調整の依頼。
10月5日 野田事務所からまだ日程調整できないとの連絡。
10月7日 署名13万5千筆を越える 野田聖子議員に日程調整の確認を行う。
10月8日 野田議員から署名受け取り拒否、面談はするとの連絡がある。自民党としての回答なのかと確認する。
10月9日   野田議員から署名受け取り拒否は党の意思であると連絡を受けとる。引き続きフラワーデモとの面談の日程調整を依頼する。
10月13日 党本部に署名を持っていく。敷地内に入れず「アポがない署名を受けとった前例はない」と断られる(←事実と違うことが後に判明)
10月15日 野田議員に面談の日程調整についての確認をする。なぜ日程調整にこれほど時間をかけるのかという疑問もお伝えする。
10月16日 野田議員より10月29日以降で日程調整したいと連絡がある。
10月19日 野田議員にフラワーデモのメンバーと日程調整すると伝える。
10月21日 フラワーデモで話し合った結果、永田町の議員会館ではなくフラワーデモの場で野田議員に話しを聞いてもらいたいという考えを野田議員に伝える。
10月30日 野田議員よりフラワーデモへの参加はしないと連絡がある。
11月2日 野田議員に改めてフラワーデモにいらしていただくようお願いのメールをする。
11月5日 野田議員よりフラワーデモにはいかないとのメールが来る。

・・・で、今、ここ。なんでこんなことに・・・。自民党には署名を受けとり、杉田議員に対して責任ある措置を執っていただきたかっただけですのに。国会議員が民からの署名の受け取りを拒否することができるなんて、考えもしなかったので長期の困惑中です。

以下は私が野田議員に11月2日、フラワーデモにいらして下さいとお願いしたメールです。一度断られた後の二度目の依頼です。
野田議員は署名は受けとらないが面談はいくらでもする、と仰って下さっていました。ですから議員室ではなくフラワーデモの場で話したいという提案を断られるのは意外でした。とにかく野田議員に届きますように・・・と祈るように記しています。

先日来、杉田水脈議員の辞職、発言の謝罪・撤廃を求める署名の受け取りでやりとりをさせていただいておりましたフラワーデモの呼びかけ人の北原みのりと申します。13万8千筆の声があるという事実を受け止めていただきたい思いでおりましたが、署名を受けとっていただけず残念に思います。

野田議員にフラワーデモに足を運んでいただきたいのは、性暴力に抗議する47都道府県にまでひろまったデモの現場で、何が語られているか、なぜ杉田水脈議員の発言にこれほどまでの悔しさを多くの人々が味わったかを、ぜひ聞いていただきたかったからです。当事者の声こそ、性暴力被害者救済のために実効性のある政策の取り組みに向けて必要なものなのではないでしょうか。

性被害者はこれまで語れない、と言われてきました。それは杉田議員が自民党内の会議で語ったように「女性は嘘をつく」といった社会の偏見や性差別的視線に、「どうせ語っても信じてもらえない」と沈黙と諦めを強いられていたからです。語れないのではなく、社会の側に聞く力がなかったことが、性暴力問題が語られず、被害が矮小化され、被害者の尊厳を軽視した政治、法律、社会を持続させてしまってきた最大の理由です。

中長期の性被害者が抱える困難、障害者に向ける性暴力など、今の性暴力被害者支援の枠組みでは不十分なものがフラワーデモの現場でも次々に語られています。そのような声を文字通り命を削りながらあげ続けることで、フラワーデモでは性暴力に対する世論を喚起し続けてきました。

衆議院議員会館で野田議員の部屋でお話することも考えましたが、杉田議員の発言で精神的に強いダメージを受け、体調を崩している被害者は少なくありません。被害者が自らの人生を削るように運動することにも限界があります。被害者にこれ以上の抗議や行動を促すのではなく、どうか議員自ら被害者の声の場に足を運んでいただくよう改めてお願い申し上げます。政治で救うべき本当に痛み苦しんでいる人の声を、ぜひデモの現場で聞いていただくことこそ、署名を受けとっていただけなかった今、私たちが野田議員に望んでいることです。

フラワーデモはどの政党と組むこともなく、団体の動員もせず、女性たちのつながりで広がってきた運動です。当日は野田議員にスピーチなどを求めるもものではありません。現場の声を聞いていただきたい一心です。お返事お待ちしております。

2020年11月2日

このメールに返信があったのは11月5日です。ラジオ収録は11月4日ということでしたが、インタビューの中で野田議員は「フラワーデモからの連絡が来ない」と仰っています。2日に出したメールが自民党のパソコンに届くのは時差があるのでしょうか。結局このメールに対しては5日に、フラワーデモには行かない、という改めての強めのお返事をいただきました。デモは強制参加するものでもないので仕方ないですが、性暴力問題に取り組む政治家として視察しようとも思われないことが単純に不思議でした。

もちろん野田議員が杉田議員の発言を軽視しているわけではないことも、また性暴力問題に真摯に取り組まれ、刑法改正に向けて力強く歩んでいらっしゃることも知っています。本来ならば応援したい方でもある。でも、今回のラジオを聴きながら、え? と何度もつまづくような思いになってしまったのも事実です。
例えばこのご発言。

「これまでも様々な加害者になった男性議員がいたけれど、
同じムーブメントがあったかというと
私が今日まで調べる限りはないんですね
だからそこのフェアネスを非常に懸念している」

つまり、男性議員に対しては抗議行動や辞職を求める運動はなかった、と言い切ってしまっている。それなのに女性議員を叩くのはフェアじゃない、と。
え? 調べるまでもない過去の重大物件、忘れたくても忘れられないもの、いくつか浮かびますよ。

例えば2007年の柳沢厚生労働大臣の「女性は産む機械」発言。これ、大変な騒ぎになりました。女性団体から抗議の声や辞任を求める声があがり、安倍政権の支持率低下を加速させましたよね。結果的に柳沢氏は辞任しなかったけれど次の選挙であっけなく落選。ちなみに安倍さんはこの発言の7ヶ月後に辞任しています。メディアが大騒ぎし、女性たちも大騒ぎしたんです。

2003年の太田誠一行政改革推進本部長の「(集団レイプする男は)元気があるからいい」発言。これに対して女性団体が太田議員の辞職を求める抗議声明を出していますし、社会的にも大きな問題になりました。なによりこの発言直後の衆議院議員選挙で太田議員は当然のように落選してますよね。

また国会議員ではないけれど2001年の石原慎太郎都知事の「ババア」発言は、市民が損害賠償訴訟まで起こしています。絶対に黙らずに戦おうと旗を振ってくれた。

これまでの性差別加害者に対する怒りのムーヴメントはむしろ、男性議員に対してしっかり行われてきています。
もちろん近々の記憶でいえば、確かに2018年の麻生副総理の「セクハラ罪という罪はない」発言に、大きな抗議の波は生まれなかったのは事実。海外の友人から「フツーの国であんな発言したらすぐに大臣辞任だよ」と指摘されながらも、私自身が何かアクションしたけじゃない。でもだからこそ、もう黙りたくない、という多くの女性たちの意思がフラワーデモを生み出し、連帯し、こういう事件が起きた時にすぐに集まり抗議の声をあげられる動きをつくることができるようになったのではないでしょうか。

それでも野田議員は、「杉田議員が女性だから叩いている」と思いたいようで、こんなことも仰っています。

「誰も議員を辞職させることはできない。
だから選挙って重いんです。
気持ちはわかるけれど感情的なことでやってはいけない
私はプラティカルな人間だから、出来ないことで(署名を)受けとるのはかえって失礼だと考える」

ご自身は感情ではなく論理で考え、責任感がある故に署名は受けとらなかったとのことです。

署名に「議員辞職」を求めるかどうかは、フラワーデモでも考えました。議員辞職勧告に法的拘束はなく、辞めるか辞めないかは本人しか決められないのは私たちも知っています。それでも、差別発言を繰り返す議員を公認した党の責任を重く考えていただくために「辞職」という要求を敢えて入れたのです。野田聖子議員に提出したのは、幹事長代行というお立場でご決断できることが大きく、そして野田議員ならばこれまでの自民党の幹事長代行とは違う判断をしていただけると期待したからです。

それにしても。「辞職」という文言が入っているから署名は受け取れない、という野田議員の発言には、一見筋が通っているようだけれど納得できる理由ではないです。そもそも「責任取れない要求の署名は受け取れない」、という理屈が通るのであれば、意思を表明するための市民の声の束=署名という手段の意味すら失いかねません。あの安倍さんだって、沖縄県民の声「オスプレイ配備反対建白書」、そんなつもり全くなくても受けとってましたよね。声を拒絶することはできない、その声にどう向き合うかが政治家として問われるのではないでしょうか。
と書きつつ不安になり「署名受け取り拒否」を思わずグーグルで調べてしまったりしたのですが、フラワーデモしか出てこない・・・。

ネットで検索できる範囲ではあるけれど、2015年に百田尚樹を招いた自民党の勉強会で「(安保法制に批判的な)マスコミをこらしめるには広告料収入をなくせばいい」などの発言をした自民党議員に対し辞職を求める要望書が、国際婦人年連絡会から安倍首相に郵便で届けられています。受け取り拒否はされていないようです。

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また2018年には準強制性交・盗撮が発覚した田畑毅自民党議員に対し議員辞職を求める上申書が党規委員の山東昭子委員長に提出された時は、山東議員はちゃんと受理しています。受理はしたけれど辞職勧告はせず、さっさと「離党」させていました。

で、改めてわく疑問。
なぜそこまで署名の受け取り拒否にこだわるのでしょうか。
なぜそこまで杉田議員をかばうのでしょうか。

杉田議員は差別発言をこれまでも繰り返してきています。このような議員をそもそも衆議院比例代表として公認する党としての責任はどう考えていますか? という誰もが疑問に思うことを、インタビューでは荻上チキさんが何度か確認するように聞いていました。これ、野田議員は聞かれたくなかったことなのだと思います。めずらしく荻上さんを遮るように喋ったり、歯切れ悪くなったりと、いつもの堂々としたプラティカルな感じとぜんぜん違う「答弁」になっていました。以下、書き起こしています。

荻上さん:杉田議員を公認した党としての責任は存在します。だからこそ抗議の声は受け止めるべきではないでしょうか?
野田さん:声は受け止めてる。性被害をなくすということは受け止めてる。杉田さんには関しては再教育、次の政権については政権も変わりましたから、それはそうだからということで、ま、今、現に議席があるわけですから、ただこの比例というのは、今回もそうですけど、あの、自民党で選ばれても他党にもいきますよね、そこも議論していかなくてはいけない、男女問わずね、比例に対する甘さ?

日本語になってません。菅首相が蓮舫さんに「女性の閣僚少ないじゃないですか!?」と問い詰められた時のしどろもどろに匹敵する酷さでのしどろもどろでした。どうしたのでしょう。

こんな風に野田議員を批判していることを書いていると、女性の敵は女性だとか、言いたがる人もいるのだと思います。ほんと・・・杉田議員が男だったら、野田議員が男だったら・・・と私だって思う。役者は全員女、そして本当に悪い奴は前に出てこない。これは何の罠だよ、と思いたくもなる。でも今日、野田議員のインタビューを聞いていて、ああ、と思わず太い声が出てしまったのでした。それは絶望の地獄の声。この国のジェンダー平等が遅々として進まない理由が明確に見えたような気がして。

野田さんは性犯罪刑法改正に向けての党内での反応について、こんな風に語っています。

「私は、同意なき性行為は夫婦であっても駄目という考えですが、
昔ながらの考え方の人は、夫婦間にそういうのはないという人もいる。
性被害に関して考え方が党内で大きく分かれている。
自民党は一つの主義で固まっていない政党ですから」

それはまるで、両極端に違う考え方を受け入れる自民党の懐の深さ、それこそが多様性の党・・・とでもいうような語りでした。「一つのイデオロギーに縛られない自民党」と誇らしげに語る野田議員の様子からは、野田議員は杉田議員を守っているのではなく、杉田議員の発言に深く頷いている無数のお仲間の姿が見えているからこそ、杉田議員を切り捨てるような声は受け取れないのだということが見えてきます。これはかなり背筋がぞっとするような世界です。性差別も考え方の一つとして尊重しする自民党の世界観の中で、「ちげーだろー!はげ!」と秘書を車の後部座席から蹴り上げる女性議員は簡単に切り捨てても、「慰安婦」は嘘つき、AV被害者は嘘つき、性暴力被害者は嘘をつく、LGBTは生産性がない・・・という暴言を吐く差別主義者は、表現方法が雑なだけで「考え方」は否定できないと言っているようなものですから。

野田議員は菅首相に「新しい女性の活躍をみせてくれ」と幹事長代行を命じられたと話していました。「新しい女性の活躍」というのが野田議員自身の活躍のことを言っているのか、幹事長代行として新しく女性の活躍を推進させていこうという意味なのか明確ではないのですが、文脈的には多分前者です。野田議員が輝くのをみながら、私も頑張ろう! 新しい女性の活躍に希望を持つ女性がいることは確かでしょう。でも・・・。
日本のジェンダー平等が遅々として進まず、ジェンダーギャップ121位、G7の中で最下位という状況の背景に、安倍政権の「女性活躍推進法」があるのではないかと指摘する人がいます。ジェンダー平等推進法ではなく、女性活躍推進法にした時点で、性差別の現実が見えなくなってしまったから。差別根絶ではなく、男たちが今あるポジションを一切譲らず、上から女性たちに輝きなさいと粉を振るだけだから。権力者から選ばれる野田議員のような優秀な女性には思う存分活躍の場が与えられるけれど、差別と暴力に命を削られるように生きている女性の姿はそこにはありません。活躍させてあげる女の順番リスト、声を聞いてあげる女の順番リストを自民党が管理している状況で、ジェンダー平等の希望を実感できるのはきっと遙か遙か先・・・私と自民党との埋まらない時差をつきつけられるのです。

最後に、セッションに送ったメールを以下貼っておきます。

野田議員はワラワーデモ側に「面談はすると申し上げた。メールのやりとりをしている。いつにしようかという返事がこない。こちらは待っている」とのことですが、私たちは議員室での面談は、参加者に負担が大きいため、これ以上被害当事者に行動を求めるのではなく、フラワーデモに議員自ら足を運んでいただきその場で話を聞いて下さいと野田議員にお願いしております。
以下はそのやりとりの日取りですが、全てメールのやりとりなので文書は残っております。

10月21日 フラワーデモ→野田議員 議員会館に私たちが伺うのではなく野田議員にフラワーデモに来てほしいと伝える
10月30日 野田議員(秘書)→フラワーデモ 面談とデモは違う、フラワーデモには行かないと連絡がある
11月2日  フラワーデモ→野田議員 議員会館での面談は被害当事者には負担が大きい、被害者支援対策法案のためにも現場の声を聞いてほしいと再度お願いのメール
11月5日 野田議員(秘書)→フラワーデモ フラワーデモには行かない、理由は10月30日と同じだという返信

という状況です。11月4日に収録されたとのことですが、その段階では私たちは野田さんのお返事を待っている状況でした。

被害者の多くは、声を信じてもらえず苦しんできました。そのような訴えの中で、抗議の声を軽視するかのような野田議員や自民党議員に対し、絶望を味わっている方は少なくありません。特にフラワーデモが署名を自民党党本部に持参した日、野田議員が同時刻に党本部でのランチの写真をツイッターで掲載されていたことにショックの声をあげる参加者は多数います。無自覚のこととはいえ、やはりあまり重く捉えていらっしゃらないのではないかと不信を持つのも当然のことだと思います。
野田氏には、被害当事者やフラワーデモに野田議員の部屋に来なければ話を聞かないという態度ではなく、どうかフラワーデモに自らの意思で参加し、そこで必死に語ろうとする当事者の声を聞いて下さい、というお願いを三度いたしました(昨日11月7日も最後に改めてお願い)。

フラワーデモは政党の動員をせず、特定の政党と結託することなく個々人の自由意志で47都道府県(+バルセロナ)に広まったデモです。野田議員にもスピーチを求めるものでもないことも伝えております。その上で野田議員の署名は受けとらない、さらにご自身の議員室以外では話を聞かないという強行なご姿勢、しかも今回ラジオで、さも私たちが日程を調整しない、面談を拒絶しているというようなご主張に正直、残念に感じております。

今月のフラワーデモも全国で行われます。

私たちは「色んな考え方の一つ」と、多様性を彩る一つの考え方として活躍させていただいているわけではなくて、性被害をなくすため、性差別に女性たちが命を奪われないために、声をあげています。
その声に向き合える政治家が当たり前に輩出される社会にしたいのです。

8月9日に東京医大等入試差別問題当事者と支援者の会を立ち上げました。サポートいただいた場合は当事者支援のための活動と弁護士費用に全てあてます。よろしくお願いします。