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週末歌仙*葉ノ壱

歌を詠むということ

短歌とは、感動したこと、悔しいこと、悲しいことや嬉しいこと、すべてを言葉にのせて表現するものです。
歌を詠むこと、それは、長い人生において心の薬となるでしょう。
私も人生の山坂を短歌に支えられ、 81歳 まで 生きてこられました。
だからまず難しいことはおいといて、あなたの心が感じたままに、歌をつくってみてください。
きっと作歌の楽しさが、だんだんわかってきますよ。(楓美生)

歌人・楓(かつら)美生(みお)
昭和17年10月28日 杉並区荻窪生まれ

玉川上水の桜橋を散歩中、その後歌の師と仰ぐことになる人物と
偶然出会ったことがきっかけで、短歌を始める。
多摩歌話会(歌人集団)に15年ほど所属。
NHK、地方の短歌大会入賞。
現在は近所の歌好きを集めて、短歌の指導をしている。

<好きな歌人>
栗木京子、寺山修司、尾崎左永子
<好きな歌>
ここに咲きここに散りゆく秋萩のごとき一生(ひとよ)を悔いざれよゆめ

第一首

(想像してみてください…)

とある晩のこと。
親しい仲間と3人で、繁華街にある居酒屋へ行った。
店内は満席。どこのテーブルも賑やかだ。
自分達も乾杯をして、旨い酒と料理に舌鼓。
だいぶ酔いが回った頃、彼が故郷の話をし始めた。
幼い頃の武勇伝や失敗談、家族のこと。
つまみに出てきた山ウドを食べながら上機嫌で語る彼を見て……。

ここで一首ーー
(みなさんなら、どんな歌を詠みますか? わたしの歌は……)

山独活(やまうど)を
サクッとかみて 故郷(ふるさと)の

話する君(きみ)*杯をかさねたり
<1999年 春に詠む>

注)「君(きみ)」という表現は、親しい異性の友人を指す。

<解説>
舞台は賑やかな居酒屋です。山ウドを食べた時の「サクッ」という音が聞こえるほど、近い距離で杯を酌み交わしていることが想像できますね。
ここで「彼」を表すのに使われた「君」という言葉。この言葉を使うことによって、「彼」が、ただの友達よりももう少し親密な間柄であることを匂わせています。恋人かもしれないし、兄弟かもしれません。読むひとの感性に解釈を任せられる、幅の広い表現です。
さらに「故郷」というワードを入れることで、騒がしいシーンにどこかノスタルジックな印象を持たせることができます。
実はこの歌のキーポイントは「山独活」です。
この時、故郷で食べた山ウドの美味しさを思い出し、懐かしい気持ちになりました。つまり、わたしにとって「山独活」自体が「故郷」のイメージと強く結びついていたわけです。
表記を「山ウド」ではなく「山独活」としたのも、どこか泥臭い田舎を想起させることに一役買っています。
そしてそれを食していたのが、「彼」という気の置けない相手であったことも、しみじみとした気持ちになった原因でしょう。

歌を詠むポイントは、その時「なにが」自分の心に響いたのか、そしてそれが響いたのは「なぜ」なのか、じっくり考えることです。
わたしが描き出したのは、喧騒の中でふと心に催したノスタルジー。
でも、同じ居酒屋、同じメンバー、同じ状況にあっても、ひとそれぞれ詠む歌の内容は違ってきます。

歌を詠んでみましょう!

テーマは……
1)賑やかな居酒屋で仲間とテーブルを囲んでいるという情景を、あなたならどう詠みますか?
2)喧騒の中でふと催すノスタルジーというテーマだったらどうでしょう?
3)「山独活」というワードを使って詠んでみましょう。

気軽にクイズ感覚で、ぜひ楽しみながら試してみてください!

・・・・・・・・・・

第二首

(想像してみてください…)

春の日の昼下がり。
桜並木の続く近所の小路へ、ふらりと花見に出かけた。
あいにくの花曇りだというのに、大勢の花見客が訪れている。
家族連れやカップル、友人同士。みな楽しそうだ。

ここで一首ーー
(みなさんなら、どんな歌を詠みますか? わたしの歌は……)

ひとりきて
花見する路(みち)* 亡き夫(つま)*と
歩きし日々を思い出されり
 
<2021年、春に詠む>

注1)特に細い道を表現したい時には「路」を使う。逆に広い道路には使用しない。
注2)短歌では「夫」を「つま」と読ませる。

はがき絵・ともこ作

<解説>
桜が咲くと、毎年必ず一度はどこかへ花見に行く。
年中行事のように繰り返してきたことだからこそ、去年は隣にいた夫が今年はいないことに、ふと寂しさを覚えた……そんな情景をダイレクトに詠んだ歌です。
たいていの場合「花見」「桜」というワードを見ると、春の温かな陽気や、仲間とわいわい過ごしている様子を思い浮かべがちですが、冒頭に「ひとりきて」という言葉を置くことで、少し侘しい印象を持って歌を読ませることに成功しています。
また、最初は「道」の字を使っていましたが、細い路地を表す「路」としたほうが、よりもの寂しい雰囲気を表現できると思い、後に変更しました。
その歌に合う字はどれか何度も推敲することも、作歌の楽しみではないでしょうか。

ちなみに「夫(つま)」ですが、古典では「背の君」などの表現も使われています。典雅ですが、なかなか現代用語の中に組み入れるのは難しい言葉ですね。ほかには「良人」「つれあい」などの言い回しもありますので、歌の雰囲気や好みに合わせて使い分けてもいいでしょう。

歌を詠んでみましょう!

テーマは……
1)桜
2)ここにいないひとを想う

ふたつとも様々なアプローチができるテーマだと思います。
特に2)は、短歌らしいテーマと言えるのではないでしょうか。
例えば、テレビで話題になっていたレストランで友人と食事している時に、留守番中の愛犬のことを思い出し、ペット同伴だったらもっとよかったな
……とか、「ここにいない」相手は人間でなくても構いません。
ぜひ、自分らしい歌をつくってみてください!


短歌:楓 美生
はがき絵:ともこ
編集:妹尾みのり

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