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週末歌仙*葉ノ拾壹

歌を詠むということ

短歌とは、感動したこと、悔しいこと、悲しいことや嬉しいこと、すべてを言葉にのせて表現するものです。
歌を詠むこと、それは、長い人生において心の薬となるでしょう。
私も人生の山坂を短歌に支えられ、 81歳 まで 生きてこられました。
だからまず難しいことはおいといて、あなたの心が感じたままに、歌をつくってみてください。
きっと作歌の楽しさが、だんだんわかってきますよ。(楓美生)

歌人・楓(かつら)美生(みお)
昭和17年10月28日 杉並区荻窪生まれ

玉川上水の桜橋を散歩中、その後歌の師と仰ぐことになる人物と
偶然出会ったことがきっかけで、短歌を始める。
多摩歌話会(歌人集団)に15年ほど所属。
NHK、地方の短歌大会入賞。
現在は近所の歌好きを集めて、短歌の指導をしている。

<好きな歌人>
栗木京子、寺山修司、尾崎左永子
<好きな歌>
ここに咲きここに散りゆく秋萩のごとき一生(ひとよ)を悔いざれよゆめ

第一首

(想像してみてください…)

残暑はまだ厳しいながらも、秋の足音がひたひた近づく9月。
買い物帰りに木陰を選んで家路を辿ると、足元に蝉の死骸が落ちている。
辺りを見回せば、おや、あそこにも。
そう言えば、ついこの間までうるさく響いていた蝉の大合唱も、ここ数日でぴたりと途絶えた。
夏と共に蝉の一生も終わったんだな。

ここで一首ーー
(みなさんなら、どんな歌を詠みますか? わたしの歌は……)

鳴き疲れ
地に仰向ける 落蝉の 
ひと夏の生いさぎよきかな

<2017年 晩夏に詠む>

はがき絵・ともこ作

<解説>
夏の盛りにはやかましいほどだった蝉たちですが、夜風が涼やかになる頃には道端で仰向けている姿を目にするようになります。
7年もの間を土の中で過ごし、羽化してからはわずか7日で寿命を終える。それゆえ「落蝉」は、儚さや季節の移ろいを表現する言葉として用いられることが多いです。
夏から秋へかけての季語にもなっている「落蝉」ですが、実は広辞苑などの一般的な辞書には掲載されていません。とはいえ江戸時代に活躍した松尾芭蕉や与謝蕪村などの句に詠まれているところを見ると、おそらくこの時代の誰かが使い始めた造語なのでしょう。
さて、「落蝉」。さっきまでけたたましく鳴いていたものが、ぼとりと地に落ちこと切れる姿は、どうしても「無常観」や「終焉」といったイメージの色濃いものです。ですが、わたしはあえて「短い生をまっとうした力強さ」と捉えました。
つい忘れがちですが、この世に生を享けた蝉のすべてが成虫になれるわけではありません。実に6割は羽化に失敗して死んでしまうと言われています。
さらに成虫になれても、4割のオスが子孫を残せないのだそうです。
困難や辛苦を乗り越え、大空を飛び回れる翅を手に入れた彼らは、7日のうちに相手を見つけて恋を成就させなければなりません。だから必死に、高らかに、恋の歌を歌いあげる。最後まで諦めず、それこそ命の尽きるまで。これほど生命力にあふれた姿があるでしょうか?
土の上で息絶えた落蝉の中には、恋の実らなかったものももちろんいます。でもみんな最後の最期まで鳴ききって、生ききったのです。わたしはその姿に感動せずにはいられません。
その感動を、大仰ではなく、軽快でこざっぱり伝えたいと考え、「いさぎよき」はひらがなにし、最後は「かな」で締め括りました。「かな」は「○○だなぁ」といった詠嘆を表す語ですので、「潔き」と言いきるよりも柔らかなニュアンスになりますね。語尾につけるだけで歌詠みの上級者っぽくも見える便利な一語なので、ぜひ活用してみてください。

歌を詠んでみましょう!

テーマは……
落蝉

・・・・・・・・・・

第二首

(想像してみてください…)

夫とふたりで夕食をとりながら、ふと窓の外を見てみると。
晴れた夜空にぽっかり浮かんだお月さま。
あまりにその姿が美しく、グラスのお酒を月光に翳してみる。
「いい月だなぁ」と夫がつぶやいて。
美味しいお酒が、より美味しくなったみたいだ。
慌ただしかった1日の終わりに、こんなゆったりとした時間をとれるだなんてね。

ここで一首ーー
(みなさんなら、どんな歌を詠みますか? わたしの歌は……)

名月に
夫とグラスを 傾ける 
月の光を飲み干すごとく
 
<2006年、自宅にて詠む>

<解説>
四季を通じて夜空に月は出ているものですが、お月見と言えば秋ですね。
暑さも納まり、湿度の低くなった大気は月の輪郭をくっきりと見せてくれます。『花鳥風月』という言葉もある通り、月はひとの心の琴線をつま弾くものなのでしょう。

見る人に 
物のあはれを しらすれば
月やこの世の鏡なるらむ

平安時代に在位した崇徳天皇の詠んだ歌です。
「もののあはれ」とは、今風に言えば「エモい」でしょうか(笑)
なにか判らないけれど心をなんとなく揺さぶる月は、この世を映す鏡なのかもね、といった内容。「この世」を「今の自分」と置き換えると判りやすいかもしれません。つまりは、月を見てどう思うかはそのひとしだい、ということでしょう。
さて、その「月」ですが、平安貴族の観月は夜空を見上げるだけではなく、池の水面や杯の酒に月を映して楽しんだのだとか。今回の1首は、そんな風雅なお月見を気取って詠んだ歌です。ただ、平安貴族のように杯に月を映して飲み干すのはあまり古風に過ぎるかと思い、「グラス」にしました。この一語によって、飲み物の種類が豊富になります。
グラスに注がれているものが白ワインなら、翳せば月光をよく通しますね。これがビールだったらどうでしょう? グラスについた水滴のひとつひとつに月が映り込み、楽し気な雰囲気になるのではないでしょうか。では、ウイスキーやブランデーだったら? 琥珀色の液体の面に月を映し取り、たゆたう姿を楽しみながらゆっくりと飲む……そんなイメージが湧くかもしれません。グラスの中身をなににするかで、夫婦の年代や外見、交わす会話の内容なども変わってきますよね。
あなたが「もののあはれ」を感じるのは、どの飲み物ですか? ぜひ、いろいろ想像してみてください。

今年は9月17日が中秋の名月です。満月に1日足らない待宵月ですが、たまには世俗を忘れてたいせつなひとと月見酒を楽しんでみるのも、オツな過ごし方ではないでしょうか。

歌を詠んでみましょう!

テーマは……
月見酒

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あなたの短歌をご寄稿ください!ー『作歌のこころみ』

『週末歌仙』では、老若男女問わず気軽に作歌を楽しみたい方を募集中です。
「うまくつくれない」
「それ、おもしろいの?」(おもしろいです!)
そんな皆さんは、まず肩の力を抜いて、自分の心と向き合いましょう。
なにかを美しいと感じたり、楽しいと思ったり……。心を動かされたら歌の詠み時です(笑)

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 また、応募作品の著作権は応募者に帰属しています。『週末歌仙』でご紹介する以外に使用することはありません。

ちょっとやってみようかな、と思ったかた、ぜひご応募お待ちしています!


短歌:楓 美生
はがき絵:ともこ
編集:妹尾みのり


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