夢か現実か

その日は酷く疲れていたのと服用している睡眠導入剤のお陰か苦労することなく睡眠へと意識を落としていきました。

目を覚ますとそこは見たことの無い田舎。
地元でもないし、全国各地を回っていたがこんな所行ったことない。
携帯も財布も持っていないことに気付いてこれは夢なのだと自覚する。

周りを見ると見渡す限り田んぼ。
じっとしてる訳にもいかないなと思い仕方なく歩くと鳥居が見えてきた。
行けば人が居るだろうと鳥居をくぐって階段を登る。
しかし、登れど登れど本殿につかない。
疲れて座ろうと思い、視線を下に向けるとそこには小さなお地蔵様。
土なのかなんなのか分からないが汚れている。
それがなぜか不安な気持ちにさせるので服の袖で綺麗に拭いて、拝んでからまた階段を登ると今度はあっさりと本殿についた。
朱を纏う本殿に圧倒されながらも近寄って人を探す。
しかし、誰もいない。
聞こえるのは木々が風に揺れる音のみ。
落胆と階段を登った疲れで本殿の賽銭箱の横に座り込んだ。
ため息をついて息を整えるために下を向いていると階段の方からゾクリとする冷たい空気。
恐る恐る顔を上げると階段の方向に黒い、大きい人型の何か。
それはゆっくりとこちらに近付いてくる。
喉を潰されたような感覚、出したくても出せない声。
黒い何かは明らかに人の身長ではない。
逃げるため立ち上がった自分より倍以上あるのではと遠い距離でも分かる。
やばい、その三文字が頭の中を支配する。
でも、自分の背には本殿。
逃げる場所はない。
一か八か本殿の中に逃げようと黒い何かに背を向けて本殿の鍵を揺らす。
しかし、南京錠はガチガチと音を立てるだけ。
どうして。
と思った瞬間。足に痛みが走って血が流れる感触。
右足には鋭い刃で付けられたような傷。
恐怖で腰から崩れ落ちる。
黒い何かに首だけ動かして視線を向けるとそれは、ニタァと不気味な笑顔を見せた。
目も、耳もないのに、裂けたと例えるのが正解の大きい口の口角を上げている。
黒い何かはあと数歩の所まで来ている。
あぁ、これはもうダメなんだ。
と思った瞬間目の前の本殿の扉が開いて強い風と共に胸ぐらを掴まれ本殿の中へと放り込まれる。
咄嗟の事で頭が回らず混乱しながらも扉の方を見るとそこには一本下駄を履いて背に翼を持つ男。
その男は片手に持つ羽団扇で大風を起こしてその黒い何かに攻撃をした。
天狗なのだろうか、黒い何かは天狗の登場を予想出来ていなかったのか狼狽えているように見えた。
そしてその天狗は低く圧のある声で

「去れ。」

とだけ言った。
その声に恐れたのか黒い何かは逃げるように、溶けて消えた。
その一連の流れを唖然と見ていた自分に天狗は振り向いて目を塞いできた。
数秒だけ見えた天狗は本殿と同じ朱の面を付けていた。
天狗って顔があれでは無いのか?この人は人なのか?
と抵抗もせず考えていると耳元で聞こえたのは先程より圧のある声。

「次は助けない。」

そこで、目が覚めた。
右足の痛みを感じながら見た外はまだ暗い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?