鈍感な
「ダブルデートに誘った理由は?」
目の前の男はそう言ってゆっくりとコーヒーを飲んだ。
「理由ってそんなの無いよ。一緒に出掛けたいなーと思ったから。」
「ダウト。人混み嫌いなお前が俺に出掛けようなんて普通だったら言わない。」
図星で言葉につまる。
「素直に言ったら協力してあげよう。」
その言葉に降参の意を込めて手をあげる。
「私達には幼馴染みがあと二人居るじゃない。その二人が両片思いだから背中を押してあげたいなと思ったの。」
そう、家が近所の私達四人は幼馴染みと言える関係だった。
とは言っても目の前の男だけ私達より二つ上だったので学生の頃の思い出はあまりない。
「あいつらが。へー嫌よ嫌よも好きのうちってやつかな。」
「よく喧嘩してるよね。」
二人でその光景を思い出し笑いで共有する。
「で?いつ出掛けるんだ?」
「今から。散歩しつついつもの公園行こうかなって思ってる。」
「急だな。俺が断ったらどうするつもりだったんだよ。」
「え?私からのお願い、断らないでしょ?昔からそうじゃん。」
早く行こうと立ち上がり急かす。
そうするとため息を吐きながらも準備をしてくれる。
「甘やかし過ぎたかなぁ。」
「いや、厳しい方だよ。」
学生の頃、テスト期間になるとビシバシと範囲を覚えるためにしごかれた記憶が蘇る。
「二人は?」
「玄関にいる。」
「準備万端かよ。行くぞ。」
「いえっさー。」
二人で玄関まで降りて四人になりいつもの公園を目的地に歩く。
ぎこちない二人をニヤニヤと見つめながら昔話に花を咲かせる。
そして目的地につくと適当な理由を付けて二人っきりにして離れる。
「これバレないのか?」
「バレないって。二人の世界に入ってるし。」
目の前の男と二人、少し離れた物陰に隠れる。
「あの二人が両片思いね。なんとなくは勘づいてたけどずいぶんと前からだろ?」
「たぶん高校生の頃からじゃない?」
「はー10年近くか。それでついでだけど俺、お前の事好きだって知ってた?」
その言葉に二人から視線を外して横にいる男を見る。
「知らないって顔だな。結構分かりやすいと思ってたんだが相変わらず鈍感だな。」
デコピンをくらわされ思考回路が余計混乱する。
「いつ、から。」
「俺の初恋、お前だから。」
って事は幼少期から?
「長くない……?」
「告白されまくる俺が全部断ってたのお前が好きだからなの結構有名だったぞ。」
「うそだ。知らないよ。」
「あの二人も知ってるしな。」
指を指す方向には泣き笑いをする二人。
ようやく二人の気持ちを確かめあえたのだろうほっと心を落ち着かせる。
「私、そんな感情抱いた事ないんだけど…?」
「だから黙ってたんだよ。一方的に好きって言って困らせたくなかったしな。」
「じゃあなんで今になって言い出したの?」
「見合い話出てるんだ。俺とお前も同じタイミングでな。それで、知らない人と結婚するよりお前と結婚したいと思ったんだよ。」
「お見合い…!?」
嫌すぎる。
そんな感情が表に出ていたのだろう目の前の男は喉を鳴らすように笑う。
「だから、俺を好きにならない?」
微笑んで私の顔を見つめてきた。
そして、物陰で頭を撫でられ愛に溺れる。
私は私の気持ちにすら鈍感だったらしい。