うそつき

「ここに居たんだ。」
「なんで分かったの。」
見つからないように抜け出したつもりだったのにこの男はなんでも分かってしまうのだろうか。
「居ないと思ったから探しただけだよ。」
テラスに座る私の隣に静かに座ってきた。
「飲みの席は嫌い?」
「嫌い。みんな声大きくなるし、思考回路めちゃくちゃになるじゃん。だから嫌。」
テラスから眺める街並みにカップルが多いなぁ。とか学生もいるんだなぁ。とか取り留めもない思考回路をグルグルさせていく。
「け、ほ。」
何気なく軽く咳を1つした瞬間にやばいと分かる。
発作だ。
息がしにくくなる。薬忘れた。どうしよう。
隣にいた彼はそれに気付いたのか背中をさすってくれた。
「俺はここに居るよ。」
そして手を彼の首筋に当ててくれた。
トクン、トクン、と静かに鳴る心音に少し落ち着きを取り戻す。
「俺はどこにも行かない。君が望むならこの命さえも差し出すよ。」
「それ、は、いい。重い。」
「そう?本気なのに。」
「前も、同じ話した気がする。」
「そうだね。俺はずっと本気だよ。」
「重いってば。」
「俺は君とじゃなきゃ生きていけないからね。」
「うそつき。」
周りにいつも人が集まるくせに。
こういう変な事を言ってくる。
「本当に、他にはなにも、要らない。君が傍に居てくれればそれだけでいいから。」
優しく私の頬を包み込んでそう言うからこの人は変な人。変わってる。
私ごときに全てを捧げる人。
馬鹿だ。
本当に、馬鹿だと思う。
なのに、どうしてこの人を嫌いになれないのだろう。
どれだけ否定して突き放しても私の手を握ってくれるからだろうか。
それとも私が欲しかった言葉をくれるからだろうか。
どれも違う気がする。でも、もし、そうだとしたら……。
一度そう思ってしまうと胸が高鳴り顔が熱くなるのを感じた。
けれど、やっぱり直ぐには信じられない。
私は臆病だから、一度でも否定されてしまったら怖くて踏み出せなくなる。
だから今はまだこの気持ちに気づかないふりをする。
だって、そんな資格ない。
私はこの人の恋人になる資格なんてない。
その資格を持つ人は他にいるはずだから。
でも、もし許されるなら……この人の隣にいたいと願うくらいは許してほしい。
せめて傍にいることは許してほしい。
私の最初で最後の初恋なのだから。

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