先輩

「飯、食わないの?」
立ち入り禁止の屋上で後ろから声をかけられ、振り向くと黄色の3年生カラーのネクタイをつけた男子生徒が立っていた。
「……ここ、立ち入り禁止ですけど。」
「知ってる。どうやって入った?」
「こっそり合鍵作ったんです。」
「職員室も不用心だな。」
「鍵閉めたはずなんですけどどうやって入ってきたんですか?」
「なんか人の気配感じたから。これで。」
先輩の手には髪をとめる為のピン。
「ピッキングってやっちゃダメらしいですよ。」
「合鍵作ってる人に言われたくないなぁ。」
先輩は隣に座ってお弁当を食べ始めた。
「ここに居るの許可してませんが。」
「君、1年何組?」
「1組ですが?」
「……知り合いがいるけど君みたいな子の話は聞いたことないな。」
「クラスでは陰キャです。」
「ピアスの穴よく隠せるね。」
「髪の毛で誤魔化せますよ。」
「ってかなんでご飯食べないの?昼休みだよ。」
昼休みにお弁当もパンも何も持っていない私はそんなに変だろうか。
「食べないですよ。」
「え、午後から持つ?」
「……先輩に関係あります?」
「あるよ。細い子見ると折れそうで不安になるんだよね。」
目の前に差し出される卵焼き。
「……これ、甘いですか。しょっぱいですか。」
「しょっぱいやつ。」
返答を聞いてから口に含んで飲み込む。
「どう?」
「美味しいですけど。そんな気になります?5分前くらいに知り合ったばっかりですよね。」
「なんか放っておいたら死にそう。」
「この先輩くそ失礼だな。死にませんよ。」
「生意気だなー。新鮮で面白いわ。」
「私は面白くありません。」
立ち上がり、スカートの汚れをパタパタをはらう。
「戻るの?」
「次、理科室なんで。」
「なら俺の事見つけてよ。」
「はい?」
「俺、次体育でグラウンドだから。理科室からちょうど見えるし、俺も君のこと探すから。」
「…普通に嫌なんでお断りしておきます。」
「手振るから振り返してよねー!」
その言葉を背に屋上を後にする。

理科の授業も半ば、退屈になってきたな。と欠伸をしていると周りの女の子たちが窓の外を見ている。
つられて見ると3年生がサッカーをしている。
3年生。ふとお昼休みの言葉を思い出してとりあえず探してみると案外、簡単に見つけてしまった。
あの先輩だ。
グラウンドでボールを追いかけ走るあの先輩の姿を見つけて目で追う。
女の子達がザワザワしてるって事はあの人とか3年生って人気ある人なんだ。
と授業を右から左へ聞き流しているとふと先輩がこちらを向いてそして満面の笑みで手を振ってきた。
「げぇ。」
確実に私を見つけてから手を振ってきたな。
でも私は知らんぷりを貫く。
他の子達はキャーキャーと騒いで先生に怒られているところだった。
距離が近い変な先輩。
私は心の中でそう決めつけてなるべく関わりを持たないようにと決意を固めるのだった。

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