文献調査(2023年6月)

6月8日:企業の取り組み事例 Vol.3

5.株式会社丸井グループ

●会社概要
設立:1931年創業、1937年会社設立
資本金:359億20百万円
従業員数:4654名
上場取引所:東京証券取引所 プライム市場
事業内容:小売事業、フィンテック事業を行うグループ会社の経営計画・管理など

●健康経営

ウェルビーイング経営推進体制

●丸井グループのウェルビーイング活動の特徴

・ウェルビーイング活動の目的は、「社員一人一人が意識や行動を変え生産性をアップさせることで、企業価値向上と社会貢献へつなげること」

・「病気にならないこと(=基盤)」だけでなく、「今よりもっと活力高く、しあわせになること(=活力)」が重要であるという考えのもと、「活力×基盤のウェルビーイング経営」を推進。

社員自らが自発的にウェルビーイング活動に参加する組織風土
└一例として、「ウェルビーイング推進プロジェクト」や「レジリエンスプログラム」が挙げられる。主体的なメンバーによるボトムアップの取り組みを、管理職メンバーが支えることで、社内外への広い活動浸透を実現している。

●各プロジェクトの取り組み内容

ウェルビーイング推進プロジェクト(旧:健康経営推進プロジェクト)
1~5期(2016~2021)の取り組みの主目的は、
1期:健康経営の理解浸透
2期:健康経営に対する共感の輪の拡大
3・4期:社内だけでなく社外に向けての取り組みの波及
5期:フェムテックをはじめとした女性の健康や、働く人のエンゲーメントの向上
のように変化・成長している。
主体的なメンバー社員が起点となり、全社員を巻き込みながらグループ全体でのウェルビーイング活動を実践している。

レジリエンスプログラム
社員が活力高く活動するために必要な、「トップ層の理解」を目的に、組織への影響力の大きい役員、部長、課長層を対象としたプログラム。トップ層が、自身と周囲の活力を高める習慣を身に付けることで、組織全体の活性化を図る。
→プログラムスタート以降、プログラムを受講者が長を務める職場では、「ストレス改善度合い」と「ワークエンゲージメント指数」の上昇が見られている◎

●ウェルビーイング活動の取り組みによる効果
⑴ウェルビーイング活動への参加率(2019年6月時点)とプロジェクトメンバーの意識と行動変化
└2019年6月時の調査では、社員の67%がウェルビーイング活動に参加。また、プロジェクトメンバーの意識と行動も以下のように向上している。

⑵ストレスチェックと組織の活性度調査(組織健康度調査)のハイブリッド運用
└ストレスチェックによると、ストレス度の軽減とワークエンゲージメント指数の向上が見られる。

└ストレスチェックと合わせて、組織活性度を挙げるための独自の「組織健康度調査」を導入。これは、10人前後の少人数単位の組織でも分析可能となっており、より打ち手の精度を高めている。
◎評価項目:睡眠、疲労、尊重、期待理解、フィードバック、助け合い、強みの発揮、認知・褒め、上司の理解、成長、目標の共有、協力(全12問)

ストレスチェックと組織健康度調査の比較

●基盤のヘルスケア:社員が「病気でない、弱っていない」という基盤を整えることの大切さ
・働き方改革による効果

・丸井健康保険組合×ウェルビーイング推進部×人事部×各事業所による「自前の健保会館」が会社と一体となった体制が最大の武器となっている。
└人間ドッグ、保健指導、徹底した受信勧奨
└「健康を大切にする文化」が根付いている

取り組みの全体像
年次推移の定量データ


6.アサヒグループホールディングス

●会社概要
設立:1949年
資本金:220,216百万円
従業員数:29920名
上場取引所:東京証券取引所 プライム市場
事業内容:グループの経営戦略・経営管理

●健康経営の内容
・従業員の心身の健康を大切にし、一人ひとりの豊かなライフスタイルを支援することが企業の成長に繋がると考え、健康経営を推進。

・健康増進における基本的な考え方
…「社員一人ひとりが健康づくりに取り組み、お互いに健全な心身を保ち、ともに充実した人生を実現すること」と位置付けている。
・特定保健指導対策の実施
…普段の健康状況や業務内容を把握している会社の保健師等が面談を行い、社員が運動・食事のカテゴリーから個々にあった目標を設定できる体制を整えている。
・健康保険組合施策「マイヘルスアップキャンペーン」
…自身のライフスタイルをより望ましく改善できるよう健康行動の行動変容を促すための施策。2016年から継続実施しており、これがアサヒグループの健康風土醸成に繋がっている。

追加資料収集中・・・

6月15日:企業分析4社
(東京海上日動システムズ、リコーリース株式会社、株式会社丸井グループ、アサヒグループホールディングス)

●分析項目
⑴ ウェルビーイング経営達成要因
Ⅰハード要因(外発的動機)
1.給与
2.勤務時間
3.勤務場所
4.退職年齢
5.福利(育児、奨学金他)他

Ⅱソフト要因(内発的動機)
1.経営者の理解
2.経営者と社員間の信頼
3.会社の文化
4.権限移籍・自主性
5.心理的安全
6.社員の成長を促す
7.教育と研修(情報共有)
8.社員間での賛辞

⑵ 中期的結果として
・労災事故の低下
・欠勤率の低下
・離職率の低下
・社員満足度の向上
・顧客の評判向上
・モチベーションの向上他

⑶ 長期的結果として
・生産性向上
・経営の透明性向上
・企業価値向上他

上田(2022)のウェルビーイング経営達成要因の体系図より

➢東京海上日動システムズ

⑴ーⅠー
1:
2:9:00~17:00
3:
4:平均年齢39歳
5:完全週休2日制(土・日曜)、祝日、特別連続有給休暇(毎年10日間)、記念日休暇、年末年始
※有給休暇(初年度13日、次年度以降20日)、リフレッシュ休暇、プロジェクト休暇、配偶者出産休暇、看護休暇、社会貢献のための休暇
各種社会保険完備、独身寮、従業員ローン制度、401k、文化・体育クラブ活動、東京海上日動保養所、カフェテリアプラン(ベネフィットステーション)導入<レジャー施設、スポーツクラブ、スクール・カルチャー、育児支援など多数利用可>、フレックスタイム制度(「マイチョイス制度」)

⑴ーⅡー
1:
2:
3:
4:
5:
6:
7:
8:


➢リコーリース株式会社

⑴ーⅠー
1:825万円(全国型総合職)
2:9:00~17:30 7時間30分(内、昼休憩1時間)
3:テレワークの推進:フリーアドレス、社内サテライト、社外サテライト・シェアオフィス、在宅勤務の実施
4:65歳定年(平均勤続年数13.4年、平均年齢40.8歳)
5:完全週休2日制(土・日)、祝日、年末年始、年間休日123日(2021年度)、特別休暇、慶弔休暇、リフレッシュ休暇、支援休暇、年次有給休暇(初年度12日)、各種社会保険完備、財形貯蓄制度、社員持株会制度、社内融資制度、育児・介護支援制度、通信教育奨励金制度、退職金制度、人財バンク制度、ベネフィットステーション加入、フレックスタイム制度

⑴ーⅡー
1:
2:
3:
4:
5:
6:
7:
8:

➢株式会社丸井グループ

⑴ーⅠー
1:642万円
2:営業店:実働8時間40分と実働5時間20分の組合わせ勤務(シフト制)
グループ各社 本社:実働7時間45分と実働6時間20分の組み合わせ勤務
3:マルイ・モディ 関東を中心に東海、関西、九州に22店舗
丸井グループ各社 本社(東京)
エポスカード営業所(東京、札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡、沖縄)
エイムクリエイツ営業所(東京、名古屋、大阪、福岡)
※テレワーク率は39%
4:65歳(平均勤続年数15.7年、平均年齢39.6歳)
5:各種社会保険完備、結婚休暇、産前産後休暇、出産育児休職、介護休職、短時間勤務制度、社員商品購入割引制度、持株会、財形貯蓄、定年再雇用制度、企業型確定拠出年金制度、フレックスタイム制

⑴ーⅡー
1:
2:
3:「手挙げの文化」…プロジェクト活動や学びのプログラムへの参加は公募制をとっており、さまざまな機会へ社員一人ひとりが自ら手を挙げ、挑戦していける。
「対話の文化」…一方通行ではなく、自由で創造的な双方向のコミュニケーションを活性化するため「安全な場宣言」や「人の意見を否定しない」など対話のルールを定めている→年次や役職を問わず活発な意見交換ができる文化へ。
4:
5:
6:
7:
8:

➢アサヒグループホールディングス

⑴ーⅠー
1:1114万円
2:9:00~17:30
3:テレワークの推進:利用回数に上限なし
4:65歳※「シニアスタッフ制度」の改定により、65歳以降も一定の条件を満たした場合は最長70歳まで働くことが可能。(平均勤続年数17.0年、平均年齢46.2歳)
5:慶弔休暇・リフレッシュ休暇等、社会保険完備、社員共済会、財形貯蓄制度、社員貸付金制度、育児休業制度、介護休業制度、スーパーフレックスタイム制度、社宅寮制度、その他福利厚生制度あり

⑴ーⅡー
1:
2:
3:
4:
5:
6:
7:
8:

6月22日:文献調査

齋藤敦子(2022)
「ウェルビーイングな働き方を支える職場環境とは」『情報の科学と技術』72巻9号 p.338-344

【文献選択理由】
これまで健康経営銘柄認定企業を中心に、ウェルビーイング経営(ないしは健康経営)の取り組み事例について(二次)情報の収集をしてきた。今後、これらの情報を踏まえた上で、現時点で不足した情報を収集することと更なる知見を得るために、インタビュー調査を行い一次情報の補充を行いたいと考えている。
本論文は、ここで改めて自身の研究における職場環境の概念整理を行うことを主目的として選択した。また、効果的なインタビューの実施方法や設問を検討する上で具体的なヒントを得るための一参考資料となればよいと考える。

【要約】
昨今、新型コロナウイルス感染拡大を契機としたテレワークの急速な普及に伴い、働く場所の多様化が進んでいる。一方で、オフィス環境という物理空間がなくなるわけではない。本論文では、物理的なオフィス環境と人間関係や知識創造などのソフト面との関係性に着目し、ウェルビーイングとワークプレイス(ソフト面も含めた職場環境)について重点ポイントを踏まえ解説する。また、今後の働き方の変化も踏まえて働く人と企業経営の双方にとって望ましいワークプレイスを展望する。

➢政策における職場環境の現状~「労働条件・職場環境に関するルール」厚生労働省~
└労働安全衛生の観点から、以下の4つに分類される。
➀オフィス環境や作業環境、②人間関係、③業務量・業務内容、④事故裁量権

➢ウェルビーイングと職場環境
【就職活動中の学生が就職先に望む勤務条件(経済産業省,2018)】
第1位「福利厚生の充実さ」44.2%
第2位「従業員の健康や働き方に配慮している」43.8%
第3位「企業理念・使命に共感できる」38.1%
→若者世代にとって、職場環境の重要性がうかがえる結果に。

【健康経営のメリット】
・健康経営銘柄取得企業は、東証株価指数(TOPIX)との比較において、株価が優位に推移し、高い市場評価を獲得している。
・従業員の欠勤率低下、運動や食事の改善による仕事への集中力の向上などの効果がある。

【ウェルビーイングという考え方の進化】
21世紀に入り、ポジティブ心理学において実証的研究が進められてきた。以下の研究結果が示されている。
・職場の人間関係が仕事の満足度向上を通じて、人生全般のウェルビーイングに大きく影響する。
・ウェルビーイングを決定する要素には、仕事・人間関係・経済的・身体的・地域社会の5つがある。(Rath&Harter,2011)
・ウェルビーイングの測定判断基準=「持続的幸福度」は、ポジティブ感情・没頭・人間関係・意義・達成の5要素で構成される〈PERMAモデル〉。(Seligman,2014)
・ウェルビーイング度と生産性には正の相関があり、ポジティブ感情が高い方がより豊かな創造性を発揮する。(Achor,2012)
・ポジティブ感情は注意を向ける範囲や志向を拡げ、創造性を高め、遊び心を刺激し、行動は範囲を広げることで更なる思考の拡張を生み出す〈拡張・形成理論〉。(Fredrickson,2001)

➡上記の意識や行動の変容には職場環境が複雑に影響する。
例)
・劣悪な環境下では業務効率が下がる→個人のストレスが溜まる→組織の雰囲気悪化
・オフィスレイアウトが固定席で気軽なコミュニケーション空間が無い→組織の風通しの悪さ

➢これからの働き方「ワークプレイス2.0」
これからの働き方のニーズに合わせて、オフィス環境を再構築することが重要(※業種や職種による差異は考慮する必要あり)

オフィスからワークプレイスへ

➢ウェルビーイング達成に向けた職場環境のポイント
・ユーザー(社員)を職場環境を構築・改善するプロセスに巻き込む
・年代、ジェンダー、職種などにおいて多様性のあるチームをつくる
・カジュアルな交流などのアクティビティから包括的に考える
・組織としてのウェルビーイングとは何かの共通言語をつくる
・小さな取り組みからでもやってみる:積み重ねが重要

メモ📝
|N/A
ウェルビーイング経営と健康経営の定義を再度確認
→違いを理解した上で、本研究における定義づけを行う

|中間研究発表(7月6日)までに読んでおきたい論文
〇上田和勇(2023)
「Well-being経営の構成要因と事例分析」『専修ビジネス・レビュー』18巻1号 p.15-31 
〇中根雅夫(2023)
「ウェルビーイングに関する一考察」『国士舘大学系研究所紀要』53号 p.189-206
〇山下正太郎(2019)
「職場環境におけるウェルビーイング」『サービソロジー』5巻4号 p.10-15
〇奥本英宏(2019)
「社員のキャリアオーナーシップを育むために、企業は何をすべきか」『Works Review「働く」の論点2019』p.56-61
〇津野陽子・尾形裕也・古井祐司(2018)
「健康経営と働き方改革」『日本健康教育学会誌』26巻3号 p.291-297

随時更新

6月29日:文献調査

上田和勇(2023)
「Well-being経営の構成要因と事例分析」『専修ビジネス・レビュー』18巻1号 p.15-31 

【文献選択理由】
本論文では、ウェルビーイング経営と健康経営の類似点と相違点が検討されている。前回に自身の課題として挙げた、「健康経営」と「ウェルビーイング経営」の違いを理解し、本研究における再定義を図るための参考文献となると考えた。

【要約】
➢健康経営について
経済産業省「健康経営の推進について」(令和4年6月)によると、健康経営とは
「従業員等の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」
とされている。
➡経営管理と社員の健康管理を統合的に捉えるアプローチ
➡個人の健康と企業の収益性を結び付けるものであり、これら2つの重要な目標の橋渡しをするもの(1991年・米臨床心理学者Robert Rosen『The Healthy Company』より)

日本では…
2016年~健康経営優良法人制度の認定制度を導入(経済産業省)。

目的の一つである「将来的に収益性等を高める投資」という側面に着目した際の、健康経営の効果として
●2020年の離職率
全国平均10.7%に対して、健康経営優良法人では4.9%
●健康経営銘柄2021に選定された企業の平均株価とTOPIX(東証株価指数)の推移を比較(2011 年 9 月~2021 年 9 月の 10 年間)。
選定企業の株価は TOPIX(東証株価指数)を上回る形で推移している。

➢ウェルビーイング経営について
ウェルビーイング経営とは、
「社員の身体的、精神的、社会的健康などの推進を通した幸福感の醸成を企業の重要な経営課題と捉えると同時に、収益性向上にも結び付け、統合的に捉えようとする経営手法」である。

そのために…
●会社および社員が関わるリスクを最小化する
●社員の持つ潜在的能力を最大化する
●幸福感を醸成する企業文化やマネジメント・プロセスが必要
➡単に身体的健康のみでなく、職場での仲間やサプライチェーンとの関係の中でのモチベーションや幸福感の醸成が重要課題となる。

➢健康経営とウェルビーイング経営の比較検討結果
類似点
└社員の身体的・心理的健康に配慮する点が類似している。
相違点
└取り組みによる到達目標が異なる。
ウェルビーイング経営…社員の職場/人生での「良好な状態」「満たされた状態」を目標とする。
健康経営…「社員の健康を通して、将来的に企業の収益性を高めること」を目標とする。
社員視点か、経営者視点か、の違いといえるのでは?
➡結果的に、両者ともに持続的な会社経営に繋がることには違いない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?