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音楽がなぜ面白いのか考えたことがありますか?

 まず、「音楽」という言葉を辞書でひくと

音による芸術 。拍子(ひょうし)・節・音色・和声などに基づき種々の形式に曲を組み立て、奏すること。器楽と声楽とがある

『広辞苑』第六版

と説明されています。一文目に、「芸術」という言葉が出てきましたね。「芸術」といえば音楽以外にも演劇や文学、絵画、建築にいたるまで、様々なものがあります。それぞれに面白さはあると思いますが、今日は人間の発達的側面から、芸術の一つである「音楽」がなぜ面白いのか、探ってみたいと思います。


人間が好むもの 

-絵の場合-

 手始めに、芸術の1つの形である「絵」を人類が発達的にどのように受容するのか、ということを考えてみます。
 絵に対する人間の反応については発達的に非常に分かりやすく、発達心理学者のファンツ(Robert L. Fantz)は、赤ちゃんがどれだけ長い時間「図形」を見続けるかによって、赤ちゃんにも絵の好みがあることを明らかにしました。この「選好注視法」と呼ばれる方法で明らかになったのは、絵であっても「人の顔」をしたものを赤ちゃんはよく見ているということでした。

ファンツの実験

 赤ちゃんがアンパンマンを好きな理由が何となくわかりますね。短絡的ですが、人間は肖像画を本能的に好んでいるということでしょうか。少しカジュアルに考えると、ポケモンやサンリオのようなキャラクターを「かわいい」と思うのは「顔」があるからとも言えるのかもしれません。逆に、いや、自分はそうは思わないぞ!と思った方、顔のないキャラクターの名前をいくつあげられるでしょうか? 私は映画泥棒くらいしか思いつきませんでした。

―音の場合-

 さて、ここからは音楽に話を戻して考えてみましょう。

赤ちゃんは生後数日から、大きな音がするとまばたきをしたりモロー反射*がでたりします

『育ち合う乳幼児心理学』p92
*モロー反射=赤ちゃんが急にびくっと動き両手をあげ抱きつく動作をすること

とあるように、赤ちゃんは生後すぐから「音」に対して反応します。また、愛着形成(アタッチメント)の一つとして、赤ちゃんは月日を経るごとに「母親の声」に対しても親しみを持つことが知られています。泣いている子どもが親や兄弟の声を聞いてホッとする様子は想像しやすいと思います。これらを総合的に見ると、赤ちゃんは音に対しても一定の好みがあることがわかります。なんとなく「歌」に関しては、人の声として本能的な「好み」がありそうですね。

「知っている」は「興味深い」

  しかし、「音楽」とは歌だけではありません。 オーケストラを初めとする「器楽」に関してはどう説明したらいいのでしょうか。ここからは少し成長させて幼児の目線で考えてみましょう。そもそも、「知っている」というのは、人間にとって興味深いことです。
 例えば、「いないいないばぁ」に新生児が意図を持って面白いと思うのが「対象の永続性」(対象(親など)が見えたり聞こえたりしなくても、その物は存在するという考え)についての発達が始まってからであることは知られています。対象の永続性の認知を十分に獲得していない新生児にとって、物に布や手で覆いをすると、存在しないものとして興味を失うことがあるそうです。つまり、「いないいないばぁ」には「隠してあっても、顔があるぞ」と理解する必要がある、認知的に少し高等な面白さがあるのかもしれません。  そして、さらに成長すると上位概念(「豚・馬・牛」に対する「動物」のような、高度に抽象化された概念のこと)の形成の過程でなぞなぞやクイズといった形で、「知っている」あるいは「わかる」ことに対して強く興味を持つことが知られています。

いないいないばぁ

音楽が面白いのは。。。

 さて、話を戻してこの「知っている」ことを音楽に当てはめると、「知っているメロディ」「知っているリズム」「知っている和声」があると人間はその音楽を面白いと感じるのではないでしょうか?
 
流行歌は三番まであって、メロディはそのままで雰囲気を変えられて「エモい」などと感じますね。クラシックで言えばベートヴェンの運命などは、誰もがそのリズムを知っていますね。逆にジョン・ケージ作曲の「4'33」は「音が鳴らない」点で面白いと感じるものです。これは私たちが「知っている」ことをひっくり返される刺激による、また一つ上の段階の面白さなのでしょうか。いずれにせよ「音楽」は「音がなるものだ」という知識、常識は必要になりそうです。

 さて、いろいろな方向に話が膨らみましたが、音楽が面白い理由としては、「知っているから」というのが一つの結論ではないかと思います。
 逆に言えば「知らない」ことはつまらないことに繋がってしまうと私は感じます。少しここで注意をしておくと、「知らない」というのは「聞いたことがない」ではないことです。流行歌も最初は誰も知りません。ですが、ある程度歌の構成にしたがっていたり、何となくサビで盛り上がったりという「知っている」部分がありますよね。
 例えば、アルノルト・シェーンベルクOp.25を聞いてみてください。

 恐らく、よく分からなかったかと思います。これは「12音技法」といって一つの旋律の中で#♭を含めた全ての音を使用する作曲方法なのですが、私も正直よく分からなくて、他の音楽を聴くのは大好きでもこれだけはあまり聞く気になれません。そして、オーケストラをよく知らない・聞きに行かない人も、この「よく分からない」心理状態なのではないかと私は考えます。今オーケストラは下火になりつつあることは皆さんも薄々ご存じかとおもいます。その一つの理由は、オーケストラの楽曲に日常から触れる機会が減ってしまったからではないでしょうか?

 最後に、宣伝にはなりますが、そうした「知らない」から面白くない・オーケストラを楽しめない人が少しでも「知っている」「なるほどだから面白いのか」となるような演奏会を目指して「みんなのオーケストラ」は企画プログラムを組んでいます。ぜひ、演奏会で「知って、面白い」という感覚を感じてみてください。団員一同、心よりお待ちしております。
長文にお付き合いいただきありがとうございました。



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