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「わかる」ことは一生ないから、人としての感覚に目を向ける|二子玉川 蔦屋家電

こんにちは。美濃加茂茶舗です。
このマガジンは、「違いを分かる人」や「本物をわかろうとする人」を大事にしているわた したちが、読者のみなさんと一緒に「本物」を考えていくメディアです。

第五弾の今回は、二子玉川 蔦屋家電で商品のセレクトや管理を担当するお二人にお話を伺いました。

〈今回の「本物を知る人」〉
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岩佐さかえさん(左)
二子玉川 蔦屋家電BOOK 衣 コンシェルジュ。「衣・食・住」の衣のコンシェルジュとして、美容・健康・手芸などの本選びを担当。蔦屋家電オープン当初から西山さんと仕事をしてきたベテランバイヤー。
西山香誉子さん(右)
二子玉川 蔦屋家電 雑貨MDチームリーダー。蔦屋家電全体の雑貨仕入れを統括しながら、家電や本のコンシェルジュとともに雑貨のバイイングや販売戦略を担っている。

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伊藤尚哉
1991年生まれ。24歳のときに急須で淹れる日本茶のおいしさに魅了され、2016年から名古屋の日本茶専門店・茶問屋に勤務。2018年に日本茶インストラクターの資格を取得(認定番号19-4318)したことを機に、お茶の淹れ方講座や和菓子とのペアリングイベントなどを企画。2019年「美濃加茂茶舗」を立ち上げ。

2015年にオープンした二子玉川 蔦屋家電は「ライフスタイルを買う家電店」をコンセプトに、家電や本、雑貨などを通じて、コンシェルジュと呼ばれるスタッフが生活提案を行う、アート&テクノロジーに満ちた場所です。

街の人々の暮らしに寄り添いながら新たな発見を提供するためのサービスには、まるで個人店のように、温度を感じる「人間らしさ」が備わっていました。

二子玉川という街の人たちへ、何を提案していくか

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伊藤:蔦屋家電さんの空間って、すごく居心地がよくて好きなんです。
商品のセレクトも選び手の人柄が見えるというか…。
だから今日は、セレクトから販売の仕方まで、お二人が重視していることを教えてもらいたいです。

西山さん(以下、西山):ありがとうございます。まず役割として、蔦屋家電には各売り場ごとに商品のセレクトや売場計画を担当するコンシェルジュがいます。
そして、私のようなMD(マーチャンダイザー)は商品のバイイングや販売戦略のプロとして、コンシェルジュの企画実現のお手伝いをする立場です。

伊藤:蔦屋家電さんではただ商品を陳列するだけでなく、企画展のような形での商品販売もしていますもんね。

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西山:そうなんです。私たちはモノを売ることで「暮らしの提案」をしているので、商品の見せ方もそれに応じた企画を毎回考えています。

伊藤:商品のセレクトは、各コンシェルジュの方が属人的に行っているのですか?

西山:イメージとしてはそうですね。蔦屋家電の各コンシェルジュって、それぞれが強めの個性を持っていて(笑)。
そんなコンシェルジュに寄り添ってバイイングをしたり、販売戦略を考えていくのがMDである私の仕事です。

岩佐さんの商品選びって、すごく謙虚でクセがないんです。むしろそれが個性というか。
モノ選びって、やっぱり自分が好きなものや趣味嗜好に合ったものを選びがちなんですけど、岩佐さんはそこがいい意味でない。「二子玉川にいるお客様にこれを提案したい」っていう軸がすごい明確ですよね。

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岩佐さん(以下、岩佐):毎日試行錯誤していますけどね。
私は本のセレクトをしているのですが、家電や雑貨のある場所に本をポンと置くと、その方が目立ったりするんですよね。
例えばトースターの隣に『おいしい朝食』の本がある方が、お客様が「あ、この本いいな」って手に取る確率も高い気がするんです。

西山:私たちには、この街にお店を構えさせてもらったご縁があると思うし、ここに在り続けなきゃいけないという使命やプライドもある。
だから「二子玉川のお客様に何をお届けするべきか」は、モノ選びの根幹にあるかもしれません。

伊藤:二子玉川「らしさ」を体現するモノを選ぶために気をつけていることなどはあるのでしょうか?

西山:街の人たちを良く見るようにはしています。この街の人たちが思う「お洒落」ってなんなのかとか、保育園のお母さんたちが何を身に付けているかとか。
そういうのを毎日チェックしていますね。街なかを歩いていると時々「あれうちのお店で買ってくれたんだろうな」みたいなものもあったりして(笑)。

伊藤:たしかに街の人の身に着けているモノだったり、生活の中において大事にしているモノは本当に場所ごとの特徴があるなと、僕も最近改めて感じています。

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伊藤:僕は名古屋で生まれ育ったのですが、名古屋と美濃加茂では、人々の着ているモノや、食事をする場所も全然違います。

だから多分、価値観も全然違っていて、たまに東京に来るとまた名古屋とも違ったり。

あと、大須や栄のような名古屋の繁華街では、モノトーン系でモルタル壁のお店はあまり流行らないのですが、僕の住んでいる犬山という城下町では、割とそういったお店が多かったりして。
街ごとの違いってすごい面白いなと思っています。

岩佐:実は、ここのお店に来る前は私も名古屋で働いていて、東京と名古屋の文化って全然違うなと思いました。どちらも大都会で何でも揃うんだけれども、相当なるカルチャーショックがあって。

いろんな都市と比較すると、ほんとに発見が多いですよね。

西山:それでいうと、二子玉川に住んでいらっしゃるお客様って、あえてこの街を選んでいると私は思っていて。
都心に近いけど緑が多くて家族の声がして、お子さんも多く、女性が元気な街。そういう街で日々の暮らしを大事にしている方に届ける店舗だからこそ、暮らしにフィットしていて、かつデザイン性があるモノのセレクトを意識しています。

伊藤:なるほどなるほど。

西山:それから、二子玉川のお客様はブランドをあまり重視しないんです。ブランド物も買われるんですけど、「ブランド物だから」買うわけじゃなくて、「いいと思ったものが、たまたまブランド物だった」っていう健全なモノ選びのステップをされる方が多い。
だから、作家さんの器やアクセサリーなど、二子玉川のお客様が出会われていない、でも暮らしにフィットしそうなモノのご提案は積極的には仕掛けるようにしています。

あるようでない、ないようであるブランドルール

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伊藤:ブランドのルールは定義付けられてるんですか?
これはやる、これはやらない、みたいに定義されているものとか。

岩佐:いい意味で、ないかもしれないですね。

西山:そうですね。もちろん絶対的には「暮らし」にちゃんと寄り添えるモノというのはあります。

でも、明確な定義はないからこそ複数の目線で「らしさ」を確認しているのかもしれませんね。やっぱり一人の怖さってあるじゃないですか、でもそれを二人がいいと思うなら、ブランドルールはクリア出来ているのかなって。

伊藤:先程おっしゃっていたように、この街にいる人たちの嗜好を観察した上で、「これ好きなんじゃない?」と提案をされているって感じなんでしょうか。

岩佐:そうですね。うちでは「絶対置かないもの」がコンシェルジュ一人ひとりの中にあることがすごく大事だと言われていて、それが何かっていうのが言語化出来るようにしています。

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伊藤:「これはやらない」の方を言語化するんですね。

岩佐:なかなか難しいんですけどね。でも、これって常に重要なんです。

私たちコンシェルジュも人間なので日々判断軸も変わっていくだろうし、そこは半年単位で見直さないといけないと思っています。

「やらない」をきちんと自覚しないと、自分でも無自覚でいつの間にかひどい品揃えの棚になっていたとか、「売れるからこれ置いちゃえ」とか…。

個性が強いコンシェルジュとしてやらせてもらっているからこそ、流されすぎないような線引が大事かなと思います。

伊藤:例えば、岩佐さんにとっての「これはやらない」って何でしょう?

岩佐:「タイトルだけがキャッチーな本を推しすぎない」ですかね。本質的かどうか分からないけれど、強い否定形の言葉を使っていたりする本のタイトルとか、たとえ目を引くとしても、何を根拠に言っているか分からない本はお客様にご提案するべきではないなって。

西山:私たちが大事にしているのは「ライフスタイルの提案」だから、最後に取捨選択するのはお客様です。そのためのいい選択肢をたくさんお用意するのが私たちの仕事。
岩佐さんの言うおように、すごく極端だったり、奇抜な方へと誘導するみたいなことはせず、常に本的な選択肢を用意しようと心がけています。

岩佐:売れているものを売るのは簡単なんですよね。だけど、ここではみなさんが知らなかった本を見てもらうことを、すごく大事にしたいんです。

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岩佐:一方で、どの本屋さんでも手に入るものを「どう売るか」っていうのも大事。
例えば本を50冊置いたとして、うちは店舗が広いので、工夫をしないと単なる「景色」になっちゃうんですよね。
だから、足を止めて手を出してもらうには、どう置いたら視覚的に訴えられるかなと気を使っています。「店長オススメ!」みたいなポップを書いたりはしないからこそね(笑)。

伊藤:蔦屋書店の居心地がよくて発見のある空間には、そんな設計がなされていたんですね。

潮目が変わる瞬間を見逃さず信頼を積んでいく

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伊藤:商品のセレクトや販売戦略って、「感覚」の部分も求められるお仕事だと思うのですが、そういった判断力はどう身に付けていかれたんですか?

西山:身に付いているかと言われると難しいんですけど、やっぱり毎日毎日そのことを考え続けるってことなのかなぁって。
ここがオープンしてから5年間、24時間365日心のどこかで無意識に考えているんです。

それって仕事としてやっているわけではないし、別にやらされている感じとかでもなく、「ここで何を伝えたいか」や「何を表現したいか」っていうこと。

そう考えると、この仕事は私の人生の大事な時間でもあるから、すごく大切にしていきたいなと思っています。

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西山:あと、私の趣味が、毎日決まった時間までに何が売れたかを追うことなんですよ(笑)。

「今日はこれが売れているんだな」っていうのを一日何回も確認していると、潮目が変わる瞬間っていうのがあるんです。

この日、この気温、この風向きでこういう風に売れ方が変わるんだっていうのがだんだん見えてくるのも面白いですよ。

伊藤:それってお茶も同じかもしれないです。お客様にお茶を淹れていると、若い方とご年配の方だと好みが違ったり、雨の日と晴れの日でも求められるお茶の種類や飲み方が違ったりとか。

やっぱり同じ人でも気分や気候によって求めるモノが違ったりするので、それを想像しながら淹れ方を微調整したりして。
その結果お客様に対して「なんとなくハマったな」って感じると、嬉しいです。

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西山:そうなんです。「今この気候の日に表現すべきものってなんだろう」みたいな、細かくて物流本意じゃないことを、ちゃんと丁寧にやっていけるかどうかが大事かもしれないですよね。

岩佐:西山さんは本当にずっとお店の流れを見ていらして、その日売れたものを時間単位で把握してますもんね。朝売り場を整えてから売り場の動きを見ていて、夕方になると売れたモノをちゃんと補充しに行く。

それって「ライフスタイル提案」とか「良いもの選ぶ」こととはまた別で、お店をやっていく上ですごく大事なことだと思うんです。

西山:お茶屋さんなんて接客業だからもっとそうでしょうけど、お店は信頼の積み重ねだと思うんですよね。一度来てダメだと思ったらお客様ってもう二度と来て下さらないじゃない。

伊藤:本当にそうですね。一回一回が勝負というか。

西山:そこの怖さがあるからこそ、「お客様のためになる生活提案を」という軸がハッキリしている必要があるんですよね。

「わかる」ことは多分一生ないから、「人」としての感覚に目を向けていたい

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伊藤:お二人のように「良いもの」がわかって、お客様に提案するまでには、どんなプロセスを踏んでいったらいいのでしょう?

岩佐:それでいうとね、良いものを「わかってきた人になりたいな」って思っているって感じですね、我々は。

西山:そうですね、「わかった」の域までは全然、多分一生辿り着かないんじゃないかな。だから、そのプロセスをMDとして追いかけ続けてる。

毎週ね、岩佐さんとミーティングするんですよ。もうね、ほんとボヤキ大会というか(笑)。

岩佐:定例のミーティングがあるんですけど、その前後に二人で心のミーティングというか。

伊藤:心のミーティング…どんなお話をしているんですか??

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岩佐:なんだろうな。西山さんとの関係は特別で、いわゆる社内では上司っていう関係でもあったんですけど、人生としては私の方が歳上で、子育ての経験もありましたし。

子育ての悩みがあっても、西山さんはあまり周囲へ弱みを見せず、しっかりお仕事をされるんですよ。そんな中で、私は公私いろいろな話をさせてもらってきていて。

西山:「今の自分はこう思う」とか、それぞれその週の困っていることって、公私含めてあるじゃないですか。

そういうのをとりとめもなく話し合いながら、「そういえばこういう商品っていいんじゃないか」」みたいなことが思い浮かぶ感じですね、ちょっと不思議だけど。

伊藤:お二人の個々の悩みなどから、お客様の需要が見えてきたりすることもあるんですね。

西山:私たち自身も、この街でお客様と似たような暮らしをしているからかもしれませんね。

岩佐さんはお客様に一番多い年代の方でもいらっしゃるし、私もこの近くに住んでいて、私みたいなファミリー層もこのお店はとても大切にしているお客様。なので、私たちが日々感じていることや困っていることの中に、ご提案できるもののヒントってあるんです。

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西山:もちろんそれって突発的に出てくるものじゃなくて、岩佐さんはいろんな展示会に行ったり街を見たり、私もいろんな街に足を運んだりSNSをチェックしたりしながら、情報収集をして、ポケットにたくさん引き出しが入っている状態。

それはいつ出すべきなのか、はたまた出すべきものなのかっていう答えはその時は分からないけれど、とりとめもない話を二人でしている中で、「そういえば、こんなことあったな」って思い出す感じですね。

伊藤:なんだか、ドラえもんの四次元ポケットみたいですね(笑)。

岩佐:そうかもしれないですね。そんな風にして1年前や昨日よりは成長していたいとは思っているんですけど、やっぱり「到達」はないですよね。

西山:残念ながら分かったとは思えないかな。でも、数年前の我々を思うと、いろいろと試行錯誤重ねてきたのかもしれないとは思いますよね。

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伊藤:このお店の立ち上げが最初のお二人の出会いだったんですか?

西山:そうです。私たちは立ち上げ時からずっとこのお店に関わってきて、オープンした瞬間もいましたし、長いお付き合いなんです。

岩佐:4年前なんて、今考えるとよくお店を回せてたなと思いますよね。お店とともに、作家さんとともに、お客様とともに、それなりに成長してきたと思う。
ときには大ピンチな事件が勃発したりもしたけれど、それを二人で乗り越えてきたからこそ、信頼関係が深まった感じはありますね。

西山:うんうん、問題を解決していく過程で、次のいい出会いがあったりとか。

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岩佐:なんでもそうだと思うんですけど、一人では絶対に何もできないんですよ。
そして、組織が大きくなればなるほど関わりあう人って多くなるでしょ、その時に絶大な信頼をおける人が居てくださるのはとてもありがたいです。そういうのも、お店として見えている部分だけでなく、裏側としてすごく大事かな。
伊藤:なんだか、蔦屋書店という大きな組織でありながら、よいセレクトの根底にあるのが人対人の個人的な関わりであるという事実にすごく感銘を受けました。

無風の時期も、誰かが必ず見てる。

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伊藤:最後に、30代前後のうちにしておいてよかったことや、この経験をしておいた方がいいと思うことがあれば、ぜひ教えていただきたいです。
今のお二人から、30代手前の自分に言っておきたいことってありますか?

西山:うーん、失敗はいっぱいしておいた方がいいのかなって思います。
結局失敗の中にしか成長の種がないってよく言うけれど、本当にそうだなと。

さっき、トラブルを乗り越えるお話もしましたけど、究極のトラブルの時ってめちゃくちゃしんどいですよね。渦中にいるときは投げ出したいなって思ってしまうこともあるんだけれども、そのあとに次が見えるので。

トラブルや失敗も、もしかしたら人前で泣くことも、20代ってまだ許されたりするじゃない。そういうのをいっぱい経験しておくと次への活力になると思うから、「失敗してもオッケー!」って言いたいかな。

岩佐:私は「好きなものをたくさん見つけて」って言うかもしれないですね。若い頃、好きでやっていたことが今になって活きていたりするので。

昔、バレエをしていたんですが、今度バレリーナとのイベントが出来そうなんです。他にも手芸が好きだったから、今も手芸の本のセレクトを楽しくやっていたり。
好きなものがいっぱい増えれば、それだけ引き出しがあっていろいろできたりするので、そういうものをたくさん見つけておいてねって思います。

伊藤:収集の時期というか、いろんなものを吸収するというか。やっぱりそういうことが大事な時期なんですね。

西山:20代から30代の頃を比べると、実は大して成長していないかもしれなくて、どこまでいっても自分は自分なのかもしれません。
でも紆余曲折しながら感じるいろんな葛藤の先に多分、見えるものは絶対あると思う。

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伊藤:ここで培ったものが30代以降で花を咲かせるためのエネルギーになって、知識や自分の強さを作るものなのかもしれないですね。

西山:うんうん。評価されたり成長が感じられれば、自分に対して納得感はあるんだろうけれど、意外とそれまでの「無風の時期」って長いじゃないですか。
誰からも評価されないし、私のやっていることは正しいのだろうかって時期が続いたり。
でもね、それって必ず誰かが見ていてくれて、パッと次のステージに上がれるときが来るんです。だから「無風」をいかに踏ん張れるかが大事なんじゃないかな。

伊藤:確かに、毎週のミーティングでなかなか自分の成長を感じられなかったり、売り上げが伸び悩んでいる「無風」の時期ってあって…。
だけどその時にチャレンジする回数を増やしたりとか、失敗するって改めて大事なんだなってすごく感じました。

[取材・文]山越栞/[編集]とみこ/[撮影]川島彩水

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