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「みんなのジェンダー勉強会」はじめました #1「日本のジェンダー政策」回レポート

観て終わりではなく、語り合うことでつながり、次につなげる
はじめまして。「みんなのジェンダー勉強会」です。
いま、京都大学の男女共同参画推進センターの豪華講師陣による京都大学「ジェンダー論」8つの公開講座が無料視聴できることをご存知ですか?

ジェンダーについて問題意識を持ってきたし自分なりに学んできたけれど、一度体系的に学んでみたい。

私たちはそんな方向けに、自主勉強会を定期開催することにしました。

このプロジェクトのはじまり

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このプロジェクトは、男女共同参画について考え、行動するために集った「みんなの男女共同参画会議コミュニケーショングループ」という紹介・申請制のFacebookグループから生まれました。
京都大学男女共同参画推進センターが「ジェンダー論」8講座を無料公開しているという情報をシェアしたところ、「自主勉強会をしてみよう!」と有志5名が集まったのです。

この講座は、進化生態学から、歴史、政策や法制、男性学まで多岐にわたる充実した内容です。

全てを見たいけれど、一人では途中で挫折するかもしれない。
観ても消化しきれないかもしれない。
得た学びを誰かと分かち合いたい!

そんなメンバーの想いから、私たちの友人・知人も招いて語り合うことにしました。
この講座を通してジェンダーについて語り合って学びを深め、仲間と出会う場をつくっていきます。
仲間と出会うことで、どんな変化が起きるのか?は未知数です。未知数ですが、それぞれに感じたことや新たなつながりから、新たな行動に、ひいては社会の変化を促す力にしていけたらと願っています。


第1回課題動画
東京大学名誉教授大沢真理先生
「日本のジェンダー政策 ー男女共同参画基本法の起草を中心に」

動画講座は京都大学ジェンダー論講座のページからご覧いただけます(2021年)

開催日:2021年5月23日(日)
ファシリテーター:石井由貴(みんなのジェンダー勉強会主催メンバー)
スペシャルゲスト:竹内 慶至さん

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竹内さんについて
名古屋外国語大学現代国際学部 准教授
「ジェンダーの社会学」ゼミ
<著書>
自閉症という謎に迫る』(編著、2013年、小学館)
現代の高校生は何を考えているか』(分担執筆、2009年、世界思想社)
社会学で描く現代社会のスケッチ』(分担執筆、2019年、みらい)

ファシリテーターの石井さんは東京大学大学院在学中、大沢先生のゼミ生だったということで、今回の講座のサマライズとファシリテーションを担当してもらいました。さらに、その大沢ゼミの同期で、現在は名古屋外国語大学で教鞭をとられており、「ジェンダーの社会学ゼミ」を担当されている竹内さんをゲストにお招きしました。
大沢先生は1999年の男女共同参画社会基本法制定に関わっており、動画ではこの時の時代の流れ、背景、どんな意義があったのかが語られています。

外圧によって動かされる国、日本

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男女共同参画社会基本法は日本で17番目の基本法です。5つある基本理念の一つ「社会制度・慣行の影響を中立に」(4条)がポイント。
残念ながらというかいつも通りというのか、男女共同参画社会基本法も外圧から制定された経緯があります。国際的な流れで日本も女性差別撤廃条約を1985年に批准するため、男女雇用機会均等法制定したり、国籍法の改正をしていきました。
さらに、1994年に男女共同参画審議会を設置したというところから、この基本法の制定への流れができていきます。

ゲストの竹内さんからも、他の分野の法整備においても同じような経緯があったと補足いただきました。

外圧から動き始めたという基本法制定の経緯が、その後の男女共同参画の「進まない感」を悔しくも納得させてしまう材料となるわけです。


男女共同参画審議会の設置
男女の特性に由来する役割で違いを設けない

1994年、総理府に男女共同参画室、男女共同参画審議会が設置されます。大沢先生は専門委員(1995年〜)を務めていらっしゃったので、当日の審議会の活動スタンスも話にあがっていました。

審議会は「男女の特性すなわち生物学的機能の性差に由来する社会的役割の違いを前提とせずに男女平等の実現を目指す立場」であるとしています。それを政府も了承した上で、基本が必要であるという経緯があったわけです。

ここで、男女共同参画社会基本法の基本理念の一つ、「社会制度・慣行の影響を中立に」がなぜ盛り込まれているのかが明白になっていきます。


「標準モデル」が前提とされた社会

戦後作られてきた制度は、「男性の稼ぎ主」と「女性の専業主婦」というペアが基本。このモデルを標準としたシステムが問題なのです。

しかし、税制度、社会保障の制度はこの「標準モデル」を前提として作られています。講義の中でもジェンダーによって受ける影響がかなりあるという問題提起がされています。

加えて、現役世代への現金給付が貧弱だったり、社会サービス給付が薄い、働くシングルマザーの貧困率がOECD諸国で最悪という問題もあります。

所得の再分配機能がうまくいっておらず、シングルマザーに関してはむしろ再分配されない状況になってしまっているのです。

この「標準モデル」前提の社会は、性別を軸に社会的役割が固定されているということです。これを是正をしていくことで、男女ともにより生きやすい社会が私たちの目指すところです。

成立の後の経緯
ジェンダー平等項目の低さは圧倒的

講義では1989年成立後の経緯と近年の状況もお話しされています。
これまで、男女共同参画社会基本法の基本計画は、第二次、第三次、第四次と出されました。防災科学技術の項目が増えたり、「生活困難に手当てをする必要がある」という文言が入るなどの動きがあった一方で、第四次では「女性の活躍」という文言が入り、「見直しをしなければいけない」という言葉が「整備する」に後退したという話もありました。そして、実際の専門調査会の数が減ってきているというのが近年の状況。

1994年に男女共同参画室、男女共同参画審議会が設置され、盛り上がってこれからどんどん進んでいくかと思いきや、27年後の今の日本の男女参画は全く進んでいません。
今の日本は、SDGsの「ジェンダー平等項目」が圧倒的に低い国です。下の図で言うと、オレンジの全く棒が立っていない。ジェンダー平等の達成までは非常に遠い道のりです。

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その後、2001年にDV法が成立し、2018年に政治分野における男女平等、男女共同参画推進法ができましたが、実効しているのかは非常に疑問です。罰則規定がなく、守られていないのが非常に残念な点といえるでしょう。


講座で語られなかったこと
「ジェンダーフリーバッシング」

ファシリテーターの石井さんが最後に共有してくれたのは、2000年代のバックラッシュ(揺り戻しの動き)について。

男女共同参画社会基本法ができた前後で、教育関係の業界から「ジェンダーフリー」という言葉が出てきました。保守層がそれについて叩くようになったのだとか。これがいわゆる「2000年代のバックラッシュ(揺り戻し)」です。

保守派は「ジェンダーフリー」という概念に対し、「男女の違いをなくすことである」「男女一緒に着替えさせることである」、「行き過ぎた性教育をすることである」など、事実ではないことも含めてバッシングしました。そういった主張をする保守派は、実際にある程度政治的な力をもっており(中心的な人物に安倍晋三氏がいるなど)、ついに政権を取るにまで至ったことを私達は目撃してきています。


絶望しないと希望は生まれない(竹内さんより)

ゲストの竹内 慶至さんは、大学で「ジェンダーの社会学」ゼミを担当されています。竹内さんも大沢先生の講義動画を見て、コメントを寄せてくださいました。

1)多様性は良い面と悪い面がある
男女共同参画社会基本法を成立させた同じ国会で、国歌国旗法案(日の丸を国旗とし,君が代を国歌とする法律)も成立しました。普通に考えたら矛盾では?と考えられますが、抽象的な話として考えるならば、実は「多様性を重視している」という意味で同じ側面であると思っています。
保守にもリベラルな層にも目配せしつつ、八方美人的な形でやっている時代。「多様性を重視しなくてはいけない」ということが、そういう政策を招いている側面があります。多様性を重視するのは、良い面と悪い面があるということです。
2)男女「共同参画」という表現
「男女共同参画社会」が否定的に語られるときもあります。なぜ、男女「平等」ではないのかと。「平等」という言葉を日本の政治家は使用したくなかったと論じる人もいますが、制定にかかわり、内部にいた大沢先生から見ると「アクティブな理念」として「男女共同参画」が掲げられたということは発見でした。
3)日本は弱者を「罰している社会」
(税制、社会保障の側面で言うと)日本の社会は、弱い立場の人に対してとても冷たい社会だであるというのは、常日頃思っています。大沢先生の働く女性や子育てすることを「罰している社会」という表現は、かなり強いけれど、本当にその通りだなと思いました。
4)教育投資を家庭が担っている
日本の社会福祉や教育保守政策を考えると、非常に家族主義的になっています。対GDP比の教育費は先進諸国の中でもっとも低いです。教育というのは、「国家100年の計」と言われますが、国家ではなく家族が担っていて、個々の人が頑張れとなってしまっています。

男女共同参画については、つい悪い要素を挙げ連ねてしまいがちですが、竹内さんは最後に、ネガティブな要素はありつつも「いちど絶望しないと、そこから希望が生まれないだろう」とおっしゃっていました。絶望からの、希望について語りたいですね。

講義内容、すなわち、男女共同参画社会基本法制定の経緯とその後の状況を鑑みれば、今の日本の状況に対しては非常に否定的です。皆さんはどう感じますか?

「反対派」の人たちにどう働きかけるか?

講義のまとめと竹内さんのお話しがあった後は、グループワーク。
数人ずつで話をした後に全体で話し合ったこと、感じたことを共有しました。
参加者からはこんな感想が。

地元で活動をやってきているけれども、自分は何もできていないのでは?という無力感に苛まれています。無力感で、みんなが政治を諦めていくということが起こるのでは。それでも、これやっぱ大事だよねということを話し続ける。相手がいるとか、つながる仲間がいるということはやはり希望だなっていうのを、今日改めて感じています。そうやって気持ちをつないでいけたらいいなと思っています。

また、一連の「男女共同参画」に反対する保守層に対してどんな働きかけができるのか?についての意見も。

オルテガ著『大衆の反逆』を読んだことがあります。難しいのは、多分そこ(大衆)との距離感なのかなと思っています。実際に行動を起こして、仕組みを整えてくれてる人がいて、賛同する人も確実に増えていて、力をかけていこうという人はいます。一方で、そこから全く乖離している層、そういったくくりがあるように思っています。その層をどう取り込んでいくのかが、一番の課題なのかなって思ってるんです。
(男女共同参画、その活動の大切さを)教え込むというよりは、共感しながら誘導していく感じ。あなたは本当は何が嫌なの? どう考えてるの?っていうのを見つけていくのをお手伝いするがいいのかなというのが、今、自分の中の結論です。

それに反応して自分ごとに変換していく参加者も。

今日のグループワークでは、男性育休についてロビイングしてきた話をしました。男性育休の反対派も、「私は別に夫がいなくても育児できた。」という女性や、「俺は育休取ってないけど、育児してた。」というパパたちの声が、当初反対派として大きくて。その方たちの気持ちに「そうだよね、大変だったんだよね。頑張ったんだよね」と寄り添うことがきっと必要なんだなと思って取り組んできたことと、今のお話は近いのかもと共感しました。何を次世代に渡していきたいのかという対話を続けていきたい。


個人の経験を大切にすることと、次世代に何を残すかは相反しない

一方で、個人の経験と社会、政治のことは切り離して考えられがちだという話が出ました。

個人の経験、感じたことや経験したことが大切ではあると思います。でも、それを政策や行政という全体の大きな方向に話をもっていくときに、(話をした相手は)「感じ方が違う」、「価値観が違うよね」と考えてしまう。なかなか話が大きくなっていきづらい。
「自分はこういうふうに頑張ってきたんだ」っていうのは、何ら否定することではないです。これからどうしていったらいいのか、次の世代に何を残したいのかにつながった話をしていかないと、政治的な動きや政策には結びつきにくい。
個人の価値観を否定したいわけではなく、世の中として、動きとして、どんなふうにこれからしていくかという議論を政治家だけに任せてしまうと、歴史的に見てもこんなにも進まないんだと感じた。これからも再生産されていってしまう。やり方を変えるとか、プロセス、アプローチを何か変えていく必要があるのではないか。

そして、具体的にどう関わっていくかという話題に。

自分は、こういう学習・議論ができる場を自分が取り組んでいる自治体である川崎市内にも作って、行政の政策決定とつないで行こうと改めて思いました。
男女共同参画審議会にいるといろんな人たちがうまくつながりきれてないと思うことがあります。共同参画センター自体がどう思ってるのか理解しきれてない部分もあるし、学識者の方々もみんな想いはあるけれど、個人レベルでの活動にとどまっています。パイプが詰まってる感じがあるんです。単純に、「今日のような場がありました!」と見せることから行動していきたい。

連携して大きな波にしていきたい

大沢先生の講義を見て、法律というなかなか馴染みのないことが、実は私たちの生活の土台になっていること、そして、政治的な動きに大きく左右されることをあらためて感じました。

そして、このイベントは、いろんな道を辿ってきながら、同じような絶望、悔しい思いをしてきた仲間たちと出会う場にもなりました。気持ちや考えを伝え、相手の話を聞くことは、自分の中の希望を探すことにつながります

こんな声もありました。

今日もいろんな立場の人が参加している。まだ、うまくつながりあえていない気がするけれど、もっと連携して大きな波にしていけたら大きな力になるのではないか。

大きな社会課題に向き合うとき、困難さを前に「かかわらない」選択をしてしまうこともありますよね。でも、仲間がいることで「諦める」よりも「できることを探す」ことができるのかもしれません。

次回のご案内

次回の「みんなのジェンダー勉強会」は7月11日10時〜11時半
伊藤公雄先生の講義についての学習会を開催します。
友人・知人の紹介制となりますので、気になる方は主催メンバーにお声がけください。


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