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【インタビュー】さかたのみかん様

ミニーアンキラではさまざま業界・業種の方にインタビューを行い、その思いや取り組みを紹介しています。

今回は福岡県で肥料の製造販売とみかん農家を営むさかたのみかんにお話をお伺いしました。果物農家としての現状や課題だけでなく、私たちが生きていく上で忘れがちなことに気づくきっかけを得られました。

みかんと原点

編集:
突然ですが、坂田さんのところのみかんは「微量要素を重視」という、なかなか消費者からすると聞き馴染みのない特徴が見られます。まず、この「微量要素」についてお伺いしたいと思います。

坂田さん(以降坂田)
微量要素はわかりやすくいうと農作物が本来必要な栄養を指しています。「ミネラル」と言えば馴染み深いでしょうね。農作物を育てるには窒素(N)、リン酸(P)、カリ(K)、微量要素などを気にしながら栽培を行います。うちはこの農作物に欠かせない要素が重要だよ、ということを意識してみかんを生産しています。

編集:
本来は植物や農作物に欠かせない要素にあえておもきをおく。ここにはなにか理由があるのでしょうか?

坂田:
うちの会社はみかん農家であると同時に液体肥料のメーカーとして昭和40年頃から商売をしています。だから、農作物に必要な栄養とか、肥料の散布については強いです。やっぱりよりよい肥料について調べたり考えたりしていくなかで、原点に立ち返るってことは大切で。そのなかで微量要素の重要性を改めて感じたんです。

さっきも言ったように、微量要素って農家からすると基本的すぎるため、重要なことは理解していますが、NPK(窒素・リン酸・カリ)に比べれば少しだけ意識から外れやすいと思います。うちは肥料メーカーだからこそその大切さがわかる。だから微量要素の大切さを伝えています。アピールポイントとしてはインパクトが薄いんですけどね(笑)

編集:
農家で肥料メーカーで、となると、いち消費者としては無敵の存在に思えます。普段ガーデニングや家庭菜園をしない人間からすると農業のすべてを知り尽くしたように思えるのですが…。

坂田:
農業に親しみがない方って、野菜も果物も、なんなら花も全部一緒くたにして「農家さんに聞けば大丈夫!」って思われるかもしれません。でも、実はそんなことないんですよ。たとえば、私の場合はおいしいみかんの作り方についてはよく喋りますが「坂田さん、トマトってどうやったら甘く育ちますか」って言われてもからっきし(笑)

一括りに農家と言っても、作物によって扱いが違うんです。だから他の農作物についてはノータッチです。だから野菜や果物の農家さんが集まっても、ある程度共通の話題はあるけれど、一歩踏み込むとみんなお互いに「?」となる。そんなもんです。

確かに、農作物はトマトもスイカもみかんもマンゴーも大きな植物という観点では一緒。だけど各々が生産するものだけに心を砕き、汗水垂らして向き合っているんです。

だから、私が肥料屋として相談を受ける場合はアドバイザー的な立ち位置ではなく、おこがましいのですが、第三者的な視点を大切にしながら、かつ私のみかん栽培での経験も含めた会話を心がけています。

「こうしたらいい」と一方的に話すのではなく、相談者が自分で気づいていくようなことができればと心がけています。

編集:
確かに、農家さんだと聞いたらつい農作物全般の話題を振ってしまっていました…今思えば恥ずかしい。お話を聞いている中で、農家さんって「職人」に近いのだなと感じました。ひとつのことに真摯に向き合い送り出す。ひとつのこと(農作物)を極める。そう考えると、もっと食物のひとつひとつを丁寧に味わって、感謝していきたいと思いました。

農家と消費者

坂田:
農業って「消費者と離れている」という認識がなんとなくありませんか?だからよく「この野菜は私が作りました」ってパッケージに書かれている。作った人が見えるとなんとなく安心することもあるのは分かります。

でも、「顔が見える」ってそういうことでしょうか?
パッケージに顔写真が貼ってあるだけが「見える」なんでしょうか?

それもひとつでしょうけど、

「農家がどんな人なのか?」
「作物をどのような考えや思いで生産しているか」

それが見えることが本当の意味での「顔が見える」ということではないでしょうか?

ただ顔が見えるだけだと、それこそ余計なイメージまで膨らむ可能性もあります。極端な例ですが、「私が作りました」って写真にうつっている生産者が金髪でアロハシャツを着ていたらどうでしょうか。

写真だけだと「この生産者は大丈夫かな」って思いませんか?

だけど、その生産者がマイナーな野菜や生産量が減少している果物を広めるためにあえてその風貌を意識していたら?

「何あの人!ちょっと調べてみよう」と興味を持ってもらえるかもしれない。そしてつながったSNSで作物に対してのこだわりや熱い意志が見えてくるかもしれません。

最初は間違った印象を与えるかもしれません、だけど目にとまることで農作物や農家への正しい情報を提供できる可能性もあるんです。

農家が消費者側に意識が傾きすぎると、農家そのものの生計が成り立たなくなるし、十分な品質で農作物を提供できなくなると思うんです。
だから、近すぎない方がいい。

だけど、距離を取りすぎていてもいけない。正しい情報を伝えなければさまざまな偏見が憶測を呼んでしまう。

実際に、肥料とか農薬とかについて農家と消費者の方の間では認識の違いが大きいなと思います。

編集:
確かに。農薬が危険だとか、根拠がないデマも散見されますね。「発がん性が!」なんて過激なあおりも見かけます。

坂田:
発がん性とインパクトが強い言葉で言われるとどうしても動揺しますよね。そこから根拠を確認したり、実際にお問い合わせにつながれば認識の違いを説明して安心いただけるのですが、バイアスがかかってしまっている方にはどれだけ丁寧にお話しても信じていただけないこともあります。(笑)

もちろん、消費者の方にとって農薬を使っている作物か、そうでないかを選ぶ権利はあります。

だけど、変なバイアスがかかってしまうのは非常に危険ですね。

編集:
農薬だけでなく、SNSやメディア、さまざまな方面において根拠のない話がひとり歩きしていますよね。

今回、農薬のお話を聞いてあらためて自分で真実を確かめることの大切さを感じます。

農家×SNS⁉

さて、ここからは少しテーマを固めて「これから農家を目指す方」向けにお話を聞いていきます。最近、若い方や脱サラで農家を始められるケースを多く見かけますが、未経験から農家になる際の心構えを教えてください。

坂田:
これから農家を目指す場合、各作物の基本的な知識が第一に必要です。だけど、常日頃から栽培や販売をするなかで、近年はSNSとうまく付き合う力が欠かせないなと感じています。

編集:
坂田さんとのご縁もTwitter(現在はX)でしたね。
農家×SNSは異色の組み合わせに見えるのですが…。

坂田:
安定した収入を得るため、ブランディング、農家にとってSNSは大事ですよ。SNSをやる力ね。

栽培上のことは試験場や農協さんに聞けばいいんです。テキストだって豊富にありますしね。未経験から始めるなら、公的な機関や研修中にちゃんと知識を蓄えておくのが大切ですよ。まずは知識を蓄えてほしい。

動画とか個人ブログでみた程度の下手にかじっただけではなくて、基礎から知識を蓄えてくださいね。

その後の実技はもうね、先輩に聞いてください。農家って教えたがりの人間が結構いますよ(笑)だから聞いてくれたら良いんですよ。知識はつけたうえでね。

だけどお客さんは待っていても現れません。自分からみかんをPRしにいかなきゃ。説得力のある商品を作り、「坂田さんのだから」と買ってくれるお客さんに出会うことが個人販売を行う上では非常に大切です。
生活もできないし(笑)そこでSNS。
マーケティングの一環として大切です。

そんなことを言うのは、私が営業畑出身なせいもありますね。うちは肥料メーカーもやっているんで、私は若いときに営業の経験もあるんです。自社の扱う肥料の飛び込み営業をしていて。「俺が売る!」って血気盛んでしたね。

だけど、元気なだけじゃダメなんですよね、営業って。説得力も必要です。

たとえば、「さかたのみかんってどんなかんじ?」ってお客さんに聞かれたときに私が「食べたらわかるよ」って一見説得力がありそうですが、「どうやって食べてもらうか?」と問われたら、ぐうの根もでませんよね。

そりゃあ糖度とか大きさとかを数値で出すことはできますが「他のみかんと何が違うの?」って言われたら全員を納得させるのは難しいでしょう。

目の前にみかんがあるわけでもないのに。そりゃそうだ(笑)

じゃあどうするかって、まず農家は原点にかえってまずはおいしいみかんを作るしかないんですよね、結局。

毎日木の様子を見て、作業をして、目の前で起こっている変化に都度対応していく。みかんにとってベターな状態を作っていく。

日々の積み重ねが大事なんです。そして、それをSNSを使って地道に発信していく。まずはそれを始めることかと思います。

あとは、供給量と供給先の安定も欠かせませんよ。出荷先があるからお客様につながるんだし、安定した供給ができるから取引先も快く商品を置かせてくれる。

そしてブランディング。ここは生産量が安定してから力を発揮します。もちろん希少性を重視する商品もありますが、私たちみかん農家は3ヶ月の売上で残りの月数の生活費を確保しなきゃいけない。
だからまずは生産量の安定、そして「さかたならでは」の良さを出していくんです。

編集:
なんだかマーケティングの講習を受けている気分になります。希少価値でパンとアピールするだけでなく、まずは生産量の安定なのですね。農作物の管理と販売管理。難しいですよね。

坂田:
そうですね。私の場合はセールスマンとしてのスキルが役立ったのかもしれないです。やっぱり供給量を安定させることができてからようやく価格を自由に設定できるようになるんです。
だからベテランの農家さんは供給量を安定させられるからこそ継続できているんです。その上で付加価値をつけている。

要となる栽培技術がカチッと固まっているから安定につながるんですね。販売元も安心して取引できますし。まずは知識と安定ですね。

だけど最近思うのは、SNSやECサイトの広がりから個人に売り込むときはまた違うんだなと。根本的な品質部分では変わりませんが、人間性が重視されるように思います。

この世の中、商品がいいのは当たり前、おいしいみかんはいっぱいある。だけど「なぜ坂田さんなのか」「この人のだからこそ買いたいんだ」そう思ってもらえることが大切だと思います。

具体的には、何かしら毎日発信して心にとどめてもらうこと。
農家同士では昼間にラジオ代わりに交流したり。作業しながらスペースで話すんですよ。みかん収穫しながら(笑)

そんな何気なく発信していることで、私たちの人柄とか、雰囲気を伝えわり、そこで「良いな、食べてみたいな」と思ってもらえた方からみかんを買ってもらえる。こんなにも嬉しいことはないです。

まずは正しい知識、そして安定した出荷量、最後に人間性。価格は自分で決める。今から農家を目指す人たちにはそこをわかってもらえたらなと。

必要なのは農家が日々職人として作物に向き合うこと。そして自慢の一品を知ってもらうこと。
もちろん売りつけるんじゃなくて「相手の立場を考えて売る」ことが大切ですね。

編集:
農家さんは美味しい作物を育てることが仕事、と消費者は漠然と考えていました。しかし、私たちが食べるまでには農家さんが日々作物と向き合うこと以外にもさまざまな過程があるとわかりました。

SNSが発達した現代だからこそ販売の選択肢は増えています。
だけど、それを活かすか殺すかはその人の人間性が大きく関わることを今回のお話で痛感しました。

♥Special thanks!:さかたのみかん
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