見出し画像

なぜ木なのか?なぜ人なのか?     \アーティストインタビュー/

港まちづくり協議会では、港まちのメインストリートである「江川線」から伐採した街路樹をアーティストと一緒に活用するプロジェクトが進行中。
今回、作品を制作中のアーティストは、彫刻家の松本崇宏さん。
スーパーギャラリーでは、その作品の一部を展示する「ROAD SIDE TREE」が始まっています。

街角にあるスーパーギャラリーに展示されている松本さんの作品

ーこの作品は「人(ひと)」って言っていいんですか?

そうですね。木で人体を彫ってますね。わりとよく「なんで人なの?なんで木なの?」って聞かれるんですが、もう最初から人体にしか興味がなくて、大学の課題ではモデルさんとかがいたんですけど、いざ自分の作品となると彫りたい人が見当たらなくて…。だから学生の頃とかは、自分の肖像画、セルフポートレートばっかり描いたり彫ったりしてました。(肖像画は)自分の周囲の人からすれば本人かもしれませんが、一般的には「ただの人」っていうか、誰だかわかんない。過去の作家でも、自画像を描いている人も多いし、自分的には、なんの違和感もなくやってたんですけど、それはそれで変わってたみたいです(笑)。

松本さんのアトリエ

大学でも彫刻で使ういろんな素材を一通り扱うんですけど、結局は木彫が肌に合っていたというか。性格に合っていたというか…。気づいたら選んでいたんでこれも漠然としちゃってる(笑)。めちゃくちゃオーソドックスなことをやっているんで、こういうことを説明するのはすごい難しいんですよね。「なんで描いてるの?」とか「なんで彫ってるの?」とか「なんで人なの?」とか。作品に明確なコンセプトがある作家はそこに触れなくていいんですけど。僕はそれ自体を探っているし、知りたいからやっているところがあります。


ー作家は、作品を言語化することが求められると聞いたことがあります。

はい。説明しないといけないこともあります。聞かれれば言葉にできる範囲では…でもね(笑)。僕的には人間が生まれてからやり始めたことの中では、わりと当たり前の選択肢の中にはあるもんだと思っているんです。

 
ー木を削ること、人の形を残すことが?

ん~、今、ちょうど自分で書いてみた文章があるんですけど「木を彫り、削ぎ落とすという行為を通して、人間を物質として存在させる」っていうのが根本と言うか、説明するのであればですけど。これは、丁寧に書いてますが、もっと簡単でもいいのかなって思っています。 …なんかでも、(手元の携帯で検索しながら)いろいろあるみたいですけど、今のところ世界最古の具象彫刻だと、これ(ビーナス像)3万年前、象牙ですけど人。確かラスコーの洞窟壁画が2万年前とかですよね。そんで、木彫で最古と言われているのはこれ(シギルの偶像)で1万年前くらいですね。

Wikipediaより引用:シギルの偶像

ー言葉で考えるよりも前というか、不思議な感覚がありますね。

以前は、立体を作る前に紙の上でしっかりイメージを成立させて、それを平面図というか、元にして立体を彫っていたんです。それを並べて展示したりもしてました。同じ形のものが同じ大きさで平面と立体で並んでいて。必要な事だと思ってやっていたんですけど…。

 
ーけど?

うん。けど、それだとその自分が意図した範疇から出られない。いつまでもその紙やキャンバスの範囲で考えてしまっていて。なんとなくそんなことを思っていたときに、急遽作品をつくらなくちゃいけないことがあり、たまたま手元にあったこの木(クスノキ)があって。いつもは使わないような大きさ、形ということもあって数年放置してあったのですが。時間もなっかったし見切り発車だったんですけど、図面を描かずに直接というかいきなり木を彫り始めて、だからこの二股に分かれるカタチも…いつもなら図面があって、それに合った木を買ってきて。図面に無いところは落としちゃうんですけど、残して…で彫ってみたら…うん…。で、まぁこれが出来たんです。


ー木から人が生まれた

まぁ、そうですね。こっち(ベンチの上に立つ作品)のは、ケヤキのやつです。はい、先日一緒に運んだばかりの丸太からです。これももう完全に木のカタチというか大きさに合わせて彫ってっます。まだ切り立てなんで、展示中に水分が滲み出すかもしれないです。


ー色も塗って…

うん。塗ってますね。でも、これも敢えてラフにというか、いい感じにするぐらいにしてます。以前は、もっときっちり塗って、しっかり仕上げてって考えてたんですけど…。古い仏像とかも、もともとは綺麗にぬってあるものがほとんどで。時間の経過、劣化に魅力を感じていて、なんとなく同じスタートラインから始めないといけないと思って。それが長い年月のなかいろんな事、いろんな人に触られて、塗りも剥がれていって、だんだん風合いが出るみたいな。だけど、それ何百年後のことなの?って思うと「俺見れないじゃん!」みたいな気になってしまって(笑)。

 
ー作品だから触ったりとかは…。

まぁ、危ないんでアレですけど、個人的には注意して(倒れないように)もらえれば、本当はアリかなぁって思ってます。木は乾くと割れるし、ヒビも入るんで、エイジングというか、そもそも変わっていくもんだし、それが自然だと思っています。


・・・

ウィンドーギャラリーの中で、異彩というか特別な存在感を放つ松本さんの作品。 遠くからだと一見奇妙なものを目撃してしまったような感覚に襲われるのは、私だけではないだろう。でも、ぜひ近くに寄って見ていただきたい。すると不思議と時間を忘れて、じっと見入ってしまう。この感覚もまた、私だけのものではないだろうとの予感がある。
考えてみれば、他人の顔を間近で見つめるような機会はあまりない。しかし、それをしてみると案外と気になってくるのは、とても個人的な自分という人間の中にある他者性だったりする。これは私だけのことなのだろうか。ギャラリーの中の作品は、全て江川線で伐採された樹木から生まれています。街の風景の中にあったものが、アート作品として街のギャラリーに再来するのって、何だか嬉しいですね。


展示概要


日 時 | 2022/3/19(土) – 4/16(土) 11:00–19:00
会 場|Super Gallery
休館日|日・月・祝
料 金|無料
主 催|港まちづくり協議会

*ウインドーギャラリーのため、休廊日でもご鑑賞いただけます。
*新型コロナウイルスの感染状況によっては、変更や中止の可能性があります。
*最新情報については、ウェブサイト・SNSでお知らせします。



松本崇宏
Matsumoto Takahiro

1986年愛知県生まれ、一宮市在住。愛知県立芸術大学彫刻科卒業。
個展
2011年 松本崇宏展 picante labo/愛知
2014年 松本崇宏展 hairdesign Primogenito/愛知
2016年 IF YOU KNOW WHO YOU ARE HHH gallery/東京
Takahiro Matsumoto The Sessions/愛知
2017年 「かたちにあう」 awai art center /長野
2021年「書庫と彫刻」書庫と○○/愛知


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?