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職員が増えても仕事が楽にならない理由「パーキンソンの法則」【前半】

仕事がすごく忙しくい!
人手が足りない!
職員を増やして欲しい!

そう思っている人は多いです。

しかしながら、実は職員を増やすと、職員が増えた分だけ仕事も一緒に増えてしまう法則があります。

これを「パーキンソンの法則」と言います。

この理由を説明したいと思います。

1.パーキンソンの法則とは、書籍のタイトルです

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これは「パーキンソンの法則」の本の表紙です。

元々1人で行っていた業務の担当者が2人になり、3人になり、1つの課になってしまうというプロセスが書かれています。

かつてのイギリスにおいて、植民地が減っていった時期があります。

この時期は植民地が減るとともに、軍の兵隊の人数も縮小していきました。

ところが、軍が縮小しているにも関わらず、事務官の人数は一定のペースで増えていたそうです。

仕事が減るはずなのに事務官は増えていく。この状況を分析した内容がこの本には書かれています。

「パーキンソンの法則」という名前ですが、中身はイギリスの官僚機構について、皮肉とユーモアを交えて解説した、ライトなビジネス書です。

この本は古く、しかも外国の本であるため、現代の日本人には少しイメージが湧きにくい部分もあります。

そこで今回は分かりやすく説明するため、仮に「広報課のYouTube担当」という設定で説明していこうと思います。

2.現代版アレンジ!架空の市役所の「YouTube推進課」の場合

ある市町村に「広報課」がありました。令和元年の春、市長選挙が行われ、ある新人候補者が
「市をYouTubeでPRして移住者を増やそう」
などの公約を掲げ、見事に当選しました。

新市長は着任すると早速公約を実現するために、企画課の職員と打ち合わせをしながら新規事業の担当部署を割り振っていきます。

目玉事業の一つ「YouTubeによる市のPR」は「広報課」で担当することになりました。

広報課の課長は、企画課長から新規事業の打診を受けると早速、広報課の職員の中でもITに詳しく能力も高いAさんにYouTubeの検討を任せることになりました。Aさんは主に、市の公式サイトの管理を担当していました。

Aさんは、「僕だって忙しいのに」と思いながらも、「トップダウンだから仕方ないし面白いかもしれない」と、渋々、仕事を引き受けることにしました。

初めての事業なので、他の市町村の事例を調べたりしながら手探りで始めていきます。とりあえず、市町村のPR動画を作る実績のある業者をネットで調べたり、入札参加資格のある業者のうち動画制作も可能な業者を探して、見積りをお願いしました。1ヶ月後には3社からの見積りが揃い、Aさんは3社の特徴や他市町村での実績なども含めて広報課長に見せました。広報課長は「よし、これで来年度の予算に入れよう!」と答えました。

広報課長はAさんの用意した見積りを元に「PR動画作成業務」を実施計画に位置付けて予算を確保するように企画課に事前打ち合わせを申し出ました。市長の公約事業だから企画課も快くOKしてもらえるだろうと、広報課長は踏んでいました。

ところが、企画課の課長からは予想と違う答えが返ってきました。

「『とりあえず委託して動画一本作れば公約達成』とでも思っているのですか? 市長の目的は『移住促進』ですよ。一本で終わりではなく、定期的に動画をアップしていかないと誰も見てくれません。それに、市長はよく部長会議とかで『職員に市の営業マンになってもらいたい』とも言っています。要するに、広報課の職員が動画を撮影して定期的にアップするというのを、市長は考えているのです。」

至極真っ当な意見ですが、広報課長はそんなことを言われるとは思ってもみませんでした。「そんなの、今の広報課の人数でできるわけがない。今の業務量でも職員が足りていないんだ。職員を増やしてくれないとYouTubeは出来ない。」と回答し、その打ち合わせは終わりました。

後日、人事課と打ち合わせを終えた企画課長が広報課長の席に来ました。
「このことはまだ内緒ですが、来年度、広報課に担当者1人増やすことで人事課の内諾を得られました。来年度からYouTubeをスタートさせられるように、今から準備しておいてください。」

広報課長は「職員を増やす」という要望を通してもらった手前、YouTubeを来年度からやらなくてはなりません。Aさんには「申し訳ないけど、YouTubeは自前でやることになった。未公表だけど職員は1人増えるらしい。多分、来年はA君と新しく来る人にやってもらうことになると思うから、カメラとか編集ソフトとか、必要なものを調べて、見積りを取っておいてね。それにしても、企画課長は上しか見てないよなぁ。」

ここで、YouTubeの担当者は令和元年度の1人から、令和2年度は2人に増えることになりました。

令和2年度の4月がスタートし、YouTube担当となったAさんとBさん。2人で動画の撮影を始めます。

まずは手探りで、Aさんが頭の中で考えた動画の構想を口頭でBさんに伝えます。2人で現場に行き、住民にインタビューをしたり風景を撮影したりして動画を撮っていきます。

撮影現場から職場に戻ると、データをパソコンに取り込み、Aさんが編集を行います。Bさんはサムネイル画像を作ったり、効果音を選んだり、画像やモーションの素材を集めたりして、Aさんを手伝うような役割で作業を行います。

当初の目標としては「ゴールデンウィーク前に1本目の動画をアップすること」を目指していましたが、慣れない編集作業と、思いのほか最初の一本目から長い動画を撮ってしまったため、ゴールデンウィークは過ぎてしまいました。でも、なんとか5月下旬には1本目の動画をアップしました。

広報課長は「取り敢えず言われた通りやってやったぞ」とばかりに、一本目の動画をアップしたことを企画課長に報告し、企画課長も「できればゴールデンウィーク前にアップできたら良かったですね」とイヤミを言いつつも、取り敢えずは納得。一方で市長は1本目の動画の完成に大喜びで、YouTubeの動画を議員に自慢したり、自身のFacebookでもシェアしたりして、1ヶ月後には再生回数が300回を到達しました。

AさんとBさんは6月、7月、8月と、2本目の動画、3本目の動画を作っていき、徐々に作業に慣れてきました。その一方で、あることに気付きます。

Aさんの頭の中で考えたネタを元に、土日も返上で2人で現場に行き、現場から帰ってきたら編集。これでは効率が悪いし、何より忙しすぎで体が持たないと。

いつしかAさんとBさんの間では、「本来は企画書を作る人がいて、それに基づいて撮影する人、編集する人と役割分担すべき」というのが共通認識となりました。

そこで人事評価の途中面談の中でAさんはそれぞれ広報課長に訴えます。

「YouTubeをきちんとやっていくには人数が足りません。3人は必要です。それに、係長がいないのもおかしいです。判断に迷ったりしたら広報係長に相談するようにしているのですが、広報係長は広報紙を作るので手一杯で、YouTubeは君たちにお任せという感じです。」

実は、AさんもBさんも主任のため、何か決断する時には、担当外である「広報係長」にお伺いを立てていたのです。

これを聞いた広報課長は「そりゃそうだよな。これだけYouTubeに力を入れているのに係長がいないのはおかしい。人事課に話してくる。人事課の課長も『上ばかり』見ているタイプの人間だから、市長が気に入っていることを踏まえてうまく話を持っていけば増やしてもらえるかもしれない。」

広報課長は人事課長の席に行き「話がある」と呼び出し、話を始めます。

「YouTube担当のAとBのことだけど、忙し過ぎて毎日遅くまで残業している。土日も返上で代休も取れていない。最近Aは胃が痛いと言っているしBも眠りが浅くなっていると言っている。このままではメンタルを病んでしまうので1人増やして欲しい。」と若干話を盛りつつも、
「市長のアピールにもつながるから来年度から「YouTube係」みたいのを新しく作ったら良いのではないか。」と、上しか見ていないと評する人事課長を説得します。

めでたく、令和3年度「YouTube係」が誕生し、担当者は係長を含めて3人になりました。

令和3年度は仕事のスタイルが少し変わりました。新しく来たC係長が企画書を作り、それを元にC係長とAさんで撮影に行き、Bさんが編集、といった具合で分担しながら作業を行います。

動画アップのペースも月1〜2本から週1本に上がり、チャンネル登録者も5000人を超え、順調に進んでいきます。

ところが、順調に見えたYouTube係の3人も、内部で少し仲が悪くなってきます。

動画のカット編集、サムネイル作成、間に挟むモーションの作成、概要の文面の作成とアップロードの作業一式など、動画編集を全面的に担っていたBさんから不満が漏れます。

「自分の業務量は多すぎる。Aさんは撮影するだけだから当日以外はそんなにやることが無い。自分は休日出勤こそ無いものの、毎日遅くまで編集して目は痛くなるし、休みも取れていない。」

Bさんは先輩であるAさんに対する愚痴を同期の飲み会やフットサル仲間である職場の後輩に漏らしていていたのです。

このことが何となくAさんやC係長の耳にも伝わってしまったのです。

もちろんBさんは課内で面と向かって「Aさんがずるい」とは言いません。その代わりに、ことあるごとにC係長や課長に対して「最近、業務量が増えてキツいです。」とは言っていました。

そしてある時、Bさんは課長に言いました。

「このまま動画投稿のペースを増やしていくなら、動画編集の担当者を増やしてくれないと今度は本当にメンタル病むかもしれません。」

これを聞いた課長は、例によって、持ち前の話術で人事課の課長を説得します。

ところが、今度は「広報課ばかり増やすわけにはいかないんです。」と人事課長は後ろ向きな返答。それでもBに倒れられては困ると人事課長を説得し、最終的にパートタイムの会計年度任用職員を雇い、Bさんのサブとしてつけることになりました。

ここで令和4年度、YouTube係は3人の正職員と1人の非正規職員の合計4人になりました。

令和4年度、4人の体制でスタートし、週1〜2本のペースで動画をアップしながら順調に進んで行きました。

Bさんも自分のサブに会計年度任用職員Dさんが入り、9時〜15時というパートタイムではあるものの、頼めば快く引き受けてくれるので気分良く仕事をしていました。

ところが今度はAさんから不満が上がります。

「Bはずるい。自分の方が忙しい。」

実際は、Bさんにサブが入ったとは言え、それでもまだAさんとBさんではBさんの方が業務量が多いのが客観的な事実です。

しかしながら、Aさんにしてみれば、BさんがDさんに雑用を任せている姿を見て、「あいつは仕事をほとんどDさんに押し付けて、自分は何もやってないじゃないか」と、嫉妬しているのです。

相変わらず、Aさんは休日出勤しつつも、代休はきちんと取り、取材が無い日は定時に帰ります。一方でBさんはDさんに仕事を任せている部分はあるものの、週に2〜3日は残業して編集をなんとか終わらせるという日々を過ごしています。

Aさんは課長に言います。

「取材に行くときは基本的に僕とC係長の2人ですが、正直、ほとんど自分がやっているんですよね。取材に行く前にも日程調整とか会場の手配とか、取材の当日も相手との打ち合わせとかもあるし、意外にやることが多いんです。」

また、係長で企画立案担当のC係長も

「本音としては、自分は企画立案に専念して、作業はAさんとBさんにやってもらいたいんですよね。でもAさん一人で取材に行ってもらうわけにもいかないし、Bさんはいつも忙しいのでどうしたものか。」

課長は正直、そう言った愚痴を聞くのが面倒くさくなってきました。

元々、広報課は広報紙を発行することと、町の公式サイトの管理以外は、それほど重い仕事はありません。

ところが、YouTubeを始めてからというもの、議会の一般質問が2回に1回のペースで当たったり、市長もちょくちょく課長に指示を出したりと、広報課長にとっては、新規事業の「YouTube推進係」は若干重荷になってきました。

そこで課長の頭には次のことがよぎりました。

「YouTube係を手放したい」

広報課長は人事課と企画課に相談に行きました。

「YouTubeは係の領域を超えてきている。最近はYouTubeばかりで、本来の広報紙や公式サイトの管理が疎かになってしまっている。YouTubeは市長公約の目玉の一つなのだから、来年の市長選挙の前に、“YouTube推進課”を作ってはどうか。」

表向きには「公約を推進するため」ですが、広報課長の心の中は「早くYouTubeを手放したい」が本音です。

とりあえず人事課長から市長に聞いてみるとのことで、その打ち合わせは終わりました。結局、市長の鶴の一声で、YouTube推進課を作ることに決まりました。

令和5年4月、今までの4人に加えて、新任課長1人、Aさんのサブの役割として1人(Eさん)増え、6人のYouTube推進課が発足しました。

【この章のまとめ】

元々1人が片手間でやっていた業務が、6人の課に拡大しました。業務量は6倍に増えたかというとそうではありません。
確かにYouTubeの更新頻度が増えたりクオリティが上がることで業務量は増えましたが、今回のこの「YouTube推進課」の業務量を人工(にんく、工数)としてシビアに計算すると概ね次のとおりだと思います。
企画立案:0.5人分の業務量(C係長)
撮影:0.5人以下の業務量(A主任)
編集:1.5〜2人分の業務量(B主任+非正規Dさん)
合計すれば、本来は3人前の業務量です。

実質的な業務は3人分なのに、課には6人いる。

3.人が増えたのに誰もラクになっていない

では、6人中3人が仕事をして3人は仕事をしていないのか?

新任課長1人、Aさんのサブ1人(Eさん)、端数分0.5人×2人(C係長とA主任)は、元々、業務量の点で言えば必要なかった人数です。

じゃあAさんのサブとして新しくきた1人(Eさん)は何も仕事が無いのかというと、Aさんのやっていた仕事を押し付けられて忙しくしています。

AさんはAさんで、インタビューの段取りや撮影の準備の仕事を今までよりも丁寧に細かくやるようになり、残業は少ないものの勤務時間中はフル稼働しています。

Cさんは企画立案担当なので実質的な業務はそれほど多くないと思われるかもしれませんが、〆切前には必ず残業してクオリティの高い企画書を仕上げています。他市町村を出し抜くためには、斬新なアイデアを出し、動画の構成や見せ方も勉強しながら工夫する必要があるため、終わりの無い仕事です。満足のいく企画書を作るためには、時間はいくらあっても足りないのです。

また、新任課長も、AさんとBさんの人間関係の調整、議会対策、マスコミ対応、部長からの頼まれごとなど、そこらの課長よりもよっぽど忙しく仕事をしています。元々の広報課長は、このYouTube推進課の新任課長の姿を見て「YouTubeを分離させて良かった」と常々思っています。

4.業務量はアウトプットに比例せず職員数に比例する

つまり、アウトプットだけ見れば3人分の業務量しか無かったとしても、6人いれば、6人分の仕事に拡大し、しかも、6人みんなが手抜きすることなく一生懸命働いているのです。

これが「パーキンソンの法則」の真髄で、実質的な成果(アウトプット)に関わらず、職員数が増えれば増えただけ、業務量は拡大し、しかも、誰一人ラクにならず、みな忙しく仕事をするというのが事実なのです。

(続く)


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