Bahram Mansurov "Plays Azerbaijan Mugams" (1984年、旧ソ連アゼルバイジャン)


ムガムという音楽をご存知だろうか。アゼルバイジャンの伝統音楽だが、我々が知っているところのイスラム圏・中東の民族音楽の一種である。
このLPレコードはタールと呼ばれるアゼルバイジャンの民族楽器によって奏でられたムガムの演奏が収録されている。その音色はいわゆるアラブ圏の楽器ウードと類似性があり、三味線・大正琴とインドのシタールを足して2で割ったような音である。演奏はどこか高揚感があり、演奏者、リスナーを妖しい遠くの世界へいざなうようなオリエンタルなものだ。
アゼルバイジャンはイスラム圏・中東の国ではあるが、かつては旧ソ連の一部だった。上のジャケットを見て欲しい。いかにもアラベスクなオリエンタリズムが前面に出たデザインだ。
崩壊前は世界一の面積を誇った旧ソ連。ヤクートやチェチェン、ウズベク、トルクメンなど様々な民族が包括されていた国だった。しかし主要民族であり地理的にもヨーロッパに近いロシア人にとっては上記の民族からは何か「異質な」ものを感じるのだろう。適切な例えではないかもしれないが、ちょうど東京の人間が沖縄の文化に異質なものを感じるように。
旧ソ連時代ではヤッラといったウズベキスタンのバンドやグネシュといったトルクメニスタンのバンドが各々の民族性をサウンドに反映させたが、果たして日本のYMOのように西洋人がイメージする東洋の間違ったイメージを逆手にとって海外進出したように、ヤッラやグネシュたちもまたオリエンタリズムを敢えて前面に出してロシア人のリスナーに売り出そうとしたのだろうか。しかしその民族的多様性が当時の旧ソ連の音楽を豊饒なものにしていたのではないか。あまりにも広い国家は、その音楽的世界それ自体も広大だ。

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