見出し画像

ブロックチェーンによるデータ共有プラットフォームの課題

この記事では、デジタル庁が実施している2023年度「Trusted Web の実現に向けたユースケース実証事業」の下肢運動器疾患患者と医師、研究者間の信用できる歩行データ認証・流通システムを参考に、ブロックチェーン実装時に課題になりがちな

  •  ユーザー(本ユースケースでは患者)

  • 参加主体(本ユースケースでは製薬会社と医療機関)

  • 全体設計(アーキテクチャ)

の3点に関して、ブロックチェーン実装に向けた考え方を紹介していきます。

この記事を読まれている皆さんの自社事業、とくにデータ共有部分に対し、ブロックチェーンの導入を検討する際の参考になれば幸いです。また本ユースケースの意義に深く共感し、その設計が様々な試行錯誤を経て形成されたことに対して、関係者の方々には強いリスペクトを感じております。

ユースケース

まずはユースケースを簡単に紹介します。このユースケースでは、ORPHE社が開発したスマートフットウェアで取得した患者の歩行データを、患者本人、医療機関、製薬会社の間で流通させるアプリケーション・システムを開発しています。システムにおいては、

  • 患者は、自身の歩行データを含む生体データ共有のインセンティブとしてトークンやNFTを獲得

  • 製薬会社と医療機関は、本人データである認証済の生体データの共有を受け、それぞれデータを研究開発や治療に活用

といったことができます。

ユーザー

データ共有のユースケース、データを共有する主体となるユーザーへのインセンティブとUX(ユーザーエクスペリエンス)の設計がとくに課題になります。本ユースケースでは、トークンやNFTをデータ共有のインセンティブとしています。

しかし、社会実装に向けては、

  • トークンやNFTをどのようにインセンティブとして機能させるのか

  • そもそも高齢者も多いと予想される患者がウォレットを持てるのか

  • 患者にウォレットを持たせない場合、誰がウォレットを管理するのか

といったことが課題になると考えられます。

私たちのこれまでの経験からいえば、インセンティブ設計を上手に行い、ユーザーが使いたいと思えるシステムにできないのであれば、実験止まりで終わってしまうことが多いことが分かっています。

そのため、私たちは、ユーザーに対しては、データの運用がセキュアかつ契約通りに行われていることを証明することには重点を置きつつも、インセンティブに関しては、ウォレットの付与は行わない、つまりインセンティブをトークンやNFT以外のやり方で付与をする形のをインセンティブにはしないシステム実装を勧めています。

参加主体

参加主体となる医療機関や製薬会社のインセンティブは、システムを通じて共有される患者のビッグデータにあると考えられます。ここで重要になるのが、医療機関や製薬会社が使いたい種類、使いやすい形式のデータになっているかということです。

対製薬会社に関しては、システムを通じて共有されるデータが、製薬会社が分析に用いるソフトウェアに組み込める形になっているかがカギとなります。そのため、例えば、トップシェアであるソフトウェアとの連携可否やソフトウェアの信頼性をみていくことが大事になります。

対医療機関に関しては、医師が診断に用いるデータの抽出や、診断支援システムなどのソフトウェアとの連携が重要になってくるでしょう。
また、製薬会社、医療機関いずれにおいても、本ユースケース内で患者から取得したデータだけでは十分な価値を出すことが難しいことも考えられます。その場合、他の必要なデータを外部のシステムから取得する必要があり、その連携の検討も必要になってきます。

みんなのブロックチェーンではデータ互換性の担保や連携のサポートも行っています。

全体設計

本ユースケースの全体設計は、ORPHE社が患者、医療機関・製薬会社の間に入ってブロックチェーンを管理するシステムとなっています。この場合、ORPHE社はシステムに介在することで、サービスの品質やシステム全体の透明性を担保する「監査」の役割を果たしていると考えられます。

ブロックチェーン活用の一哲学として、現在、分散型アーキテクチャの採用が議論されています。分散型の考え方は理想的ですが、常に最適解とは限りません。第三者(この場合であれば、患者、製薬会社・医療機関に対するORPHE社)がデータを預かることが、信頼性の面で適切な場合もありますが、真に分散化を目指すならば、第三者が介在しないシステムを考える必要があります。

仮に、本ユースケースを分散型アーキテクチャにするのなら、仲介者(ここではORPHE社)を置く代わりに、IPFS(InterPlanetary File System)やブロックチェーンの保守運用を行うことでSLA(Service Level Agreement)を担保することでビジネス運用できるように支援することになります。

みんなのブロックチェーンではブロックチェーン活用の哲学を具体化するためのサポートを行っております。

まとめ

これまで記載したように、ブロックチェーンを用いたシステムは、運営者の理想や目的によって、ブロックチェーンの使用の有無のみならず、ブロックチェーンの活用方法から運営者の関わり方まで変わってくることが分かったと思います。また、本ユースケースはブロックチェーンの導入におけるインセンティブ設計の難しさもを浮き彫りにしています。同時に、ブロックチェーンをどう活用していくかという明確な意思も全体設計に重要な役割を果たすことが分かったと思います。

みんなのブロックチェーンでは主にB2Bの枠組みの中で、皆さんのブロックチェーン活用の哲学に寄り添いながら、時には個人ユーザーをブロックチェーンに参加させつつ、また時には複数企業間での協力を通じて、既存技術では対応できなかった課題を解決していくことを目指しています。

この記事はブロックチェーン設計を考える時のポイントを解説したものです。本ユースケースのようにブロックチェーンを適切に扱ったプロジェクトがより良い評価を受け、正しいブロックチェーンに対する考え方が広まる一助となれば幸いです。

さいごに

みんなのブロックチェーンではBtoB向けブロックチェーンに特化したサービスを提供しております。要件定義・仕様・設計から開発マネジメントまでお気軽にご相談ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?