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臨時企画!こんな時だからこそ英語の勉強03: Black Lives MatterはなぜAll Lives Matterではないのか

ここ最近のニュースで「Black Lives Matter」という言葉を聞かない日はありません。今全米においてジョージ・フロイド事件のことを知らない人はいないでしょう。歴史的な背景はもとより、フロイド事件の直前にここ最近立て続けにあったアフリカン・アメリカン迫害、殺人事件が、コロナウィルスで溜まったフラストレーションの中でさらに加速してドミノ倒しのようにここまでの大きな動きになっています。

詳しいことは多くのメディアで伝えられているのでここでは書きませんが、この方のnoteで全体像をつかめると思います。

さて本題のBlack Lives Matter。一体この言葉にどんな意味が込められているのでしょうか。

日本と違うMatterの使われ方

Matterという単語は、日本で働いていた時に、「これキミのマターね!」なんて、「仕事のタスク」や「検討事項」という意味で使われていたような気がします。けれどもアメリカではこのような使い方はあまり聞いたことがありません。ですからもし英語で「これはキミの仕事ね!」と言いたい時は、例えば“This is your responsibility.”というのが正解でしょう。

では、実際英語でこのMatterという単語はどういう使われ方をされているのでしょうか。状況にもよりますが、簡単にいうと「関係がある」「重要である」と訳すのが適切かと思います。そしてその会話や文章の中には根本的に「意味があるかないか」、すなわち「価値があるかどうか」という話手本人のジャッジの意図が入ります。

例えば、夫婦の会話の例:

“Should I wear a dress today? Can I wear jeans to the party?”
“It doesn’t matter. You are beautiful no matter what you wear.”

この返答の方には2つのmatterが使われています。これを訳すと、
「今日はドレスを着た方がいいいかな? パーティだけどジーンズでも大丈夫?」
「どっちでもいいよ。キミは何を着ても美しいから。」
となります。
matterの使われ方を理解するために丁寧に解説すると、前半のmatterは「それはmatterではない[重要ではない]」、つまり「どっちでもいい」となり、後半のmatterは「着る物はno matter[着るものが重要なのではなく]」、つまり「何を着ても」となったわけです。

他にも例えば、こどもが大声で泣いて親に駆け寄ってきた時に
“What's the matter?”
「一体全体どうしたの?」(=何がmatter[重要な心配事]なの?)と使うこともできます。

では、Black lives matterの場合はどうでしょうか。この記事(ハフポスト、日本版)には、「『黒人の命も大切だ、軽視するな』や『黒人の命を守れ』などの意味)」と書かれています。これで本当に良いのでしょうか?

わたしはこの「も」という言葉に引っかかります。もちろん「黒人の命だけが大事だ」というのがこの運動の意図ではありませんから、自分たちのことも認めてくれという意味で「黒人の命も」と書きたくなる気持ちもわかります。ただ、もしこの運動が“Black lives matter, too”(「黒人の命『も』大切」)だったとしたら、アジア人も大事だし、白人も、ヒスパニックも、動物も、「すべての命は大切だ」というとてもジェネラルなメッセージになってしまうと思いませんか?

なぜAll Lives Matterではいけないのか?

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(写真:Wikipedia)

では、「すべての命は大切だ」と置き換えることの何が問題なのでしょうか? 実は、Black lives matterに対してAll lives matterと反発したのは、共和党や、外でもない白人至上主義者達なのです。(Wiki、英語)

トランプ大統領は、「All lives matter.(すべての人の命が大事だ。)Black lives matterは対立を煽る言葉である。」と言いました。(ワシントンポスト、2016年、英語)

こういったコンテクストでは、All lives matterは改革ではなく、敵対としての意味しか成しません。ヒラリー・クリントン氏は民主党ではありますが、彼女でさえもかつて黒人を主体とする協会でAll lives matterと発言してバックラッシュを浴びています。(NYタイムズ、2015年、英語) つまり、All lives matterは、今やアメリカで白人が使うと、むしろ差別語と判断されてしまうわけです。

『なぜ「すべての命が大切だ」というのを止めるべきかを説明する9つの方法』(VOX、2016年、英語)↓

ここでスターウィーズの黒人俳優ジョン・ボイエガさんのプロテスト集会における、力強いスピーチを引用します。

“This is very vital! Black lives have always mattered! We have always been important! We have always meant something!”
「この活動は重大なことだ!黒人は(今だけじゃなく、いつの日だってこれまでずっと)matter[価値がある存在]なんだ!俺たちはずっとずっと大事な存在であり続けたんだ!俺たちの存在には意味があるんだ!」

ここではmatterと同列に使われている言葉として、vital(極めて大事、致命的なこと)、important(重要である)が使われ、そして彼は「私たちはmean something(意味があるもの)なんだ」と言っています。そしてそれが現在完了で使われていることによって、「昔からずっと今に至るまでずっとこうして生きてきた命ある大事な存在なのに、不当に扱われてきた」という強い意味が込められています。アジア人であるわたしでさえもこの映像を見ると涙が溢れます。

「すべての命に意味がある」なんていうことは当たり前です。けれどもここであえてBlack lives matterというその意味は、それがアメリカにいる黒人にとっては当たり前ではないからです。疑いようのない白人至上主義の社会において、アフリカン・アメリカンは奴隷から始まる歴史の中で、2020年の今でさえも人として扱われるどころか、価値も意味もない、虫けら扱いをされてきたからです。

アフリカン・アメリカンとして生きることとは

「そうは言ってもアフリカン・アメリカンになったことがないから、その意味がよくわからない」という方は、このゲームをしてみませんか。TikTokで広まった「どのくらい自分が特権を持っているか」のテスト(Upworthy、英語)

やり方は簡単です。両手をパーにして前に向けて出します。そして、次の質問に対してもし自分が当てはまると思ったら、一本ずつ指を折っていきます。

1. Put a finger down if you have been called a racial slur.
誰かに人種差別用語で呼ばれたことがある。指を一つ折ってください。

2. Put a finger down if you have been followed in a store unnecessarily.
お店で無意味に(警備員や店員に)後を追ってこられたことがある。指を一つ折ってください。

3. Put a finger down if someone has crossed the street to avoid passing you.
向かいから来る人が自分とすれ違うのを避けるために、道を渡ったことがある。指を一つ折ってください。

4. Put a finger down if you've had someone clench their purse in an elevator with you.
エレベーターに乗り合わせた人が、(自分を見て)カバンをぎゅっと握りしめるのを見たことがある。指を一つ折ってください。

5. Put a finger down if you've had someone step off of an elevator to keep from riding with you.
たまたま一緒にエレベーターを待っていた人が、エレベーターが来ても自分と乗らずにやり過ごしたことがある。指を一つ折ってください。

6. Put a finger down if you've been accused of not being able to afford something expensive.
高いものを買うことができずに責められたことがある。指を一つ折ってください。

7. Put a finger down if you have had fear in your heart when being stopped by the police.
警察に止められて心底恐れを抱いたことがある。指を一つ折ってください。

8. Put a finger down if you have never been given a pass on a citation that you deserved.
(警察からの)召喚を免れて忠告だけで済んだことがない。指を一つ折ってください。

9. Put a finger down if you have been stopped or detained by police for no valid reason.
正当な理由もなく、警察に職務質問を受けたことがある。指を一つ折ってください。

10. Put a finger down if you have been bullied solely because of your race.
人種のせいでいじめを受けたことがある。指を一つ折ってください。

11. Put a finger down if you have been denied service solely because of the color of your skin.
自分の肌の色だけが理由でなんらかのサービスを断られたことがある。指を一つ折ってください。

12. Put a finger down if you've ever had to teach your children how not to get killed by the police.
これまでに自分のこどもに「どうやったら警察官に殺されないで済むか」を教えたことがある。指を一つ折ってください。

さて、あなたの指は何本残っていますか? 残った指が多ければ多いほど、あなたは恵まれているということであり、アフリカン・アメリカンが日常的に経験していることを実体験として経験したことがないということになります。このゲームをするのに、彼らには指が10本では足りないのです。

この世界を生きる彼らの苦しみを体現するスローガンBlack lives matterを「黒人の命も大切だ」と訳すのでは軽すぎます。本当の意味は「黒人に人権を!」であり、それは「黒人はモノじゃない。人間としての存在を認めてくれ!」という魂の叫びなのです。ですから、ここでAll lives matterに代表されるように「他の命も大事だよね」とか「アジア人差別もあるよ」「病気で差別されている人もいるよ」とかいうのはナンセンスです。様々な差別が世界中で横行しているのは明らかで、アフリカン・アメリカン達は、「アジア人は大事じゃない」「白人は要らない」などと言っているわけではありません。彼らはただ自分たちの存在、人権を認めて欲しい、肌の色で判断されない、純粋に平和に幸せに生きる権利が欲しいとメッセージを発しているのです。それを「自分の人生も大変だし...」と自分ごとに置き換えてしまうと、このメッセージは濁ってしまいます。すべてのことを自分ごとにするのではなく、ただただ耳を傾ける。それが今この世界で必要なことではないでしょうか。

違いを恐れるのではなく、違いを尊ぶということ

今回のnoteは、自戒も込めて書きました。わたしが今まで知らなかったこと、実体験として感じてこなかったことを、自分の中で理解、整理しようという試みでした。これからも学び続け、自分をアップデートしながら、少しでも理想的な世界を子供達に残していけたらと思っています。

最後に。差別とは、自分の中の恐れから生まれるものであるとわたしは思うのです。自分の姿や理解と違うものに対して、「得体が知れない」と怖がるその気持ちは、人を過剰に暴力的にしてしまいます。その恐れを、どうやったらわたし達は拭うことができるのでしょうか。

こども向けの本をご紹介します。
A Kids Book About Racism by Jelani Memory
作者本人がこの本を読んでいます。

“Being different is actually good. Really really 1000% good.”

「人と違うということは良いことだ。
1000%良いことだ。
だって違えば違うほど、誰かとお互いにシェアできることが増えるから。
援助
アイデア
強さ
技術
創造性
人生
忍耐
尊敬
コミュニティ

知識
経験
考え方
洞察力
多様性
知恵
優しさ
独創性。
この違いこそが、わたし達をより良いものにしてくれる。
ずっとずっと良いものに。」

違いを恐れるのではなく、違いを尊ぶということ。そんな世界を目指して。

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