Tomo Ogino
アメリカの「何も買わない運動」から考える、地域コミュニティのあり方と子どもたちに残せる未来
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アメリカの「何も買わない運動」から考える、地域コミュニティのあり方と子どもたちに残せる未来

Tomo Ogino

今住んでいる街に引っ越してきたのは、2016年のことでした。それまではコンドミニアム(日本でいうマンション)に住んでいたのであまり気にしたことがなかったのですが、ここでわたしは改めてアメリカのコミュニティという概念を肌で感じることになりました。今日はその中でも一番好きなコミュニティのあり方の一つを紹介します。

FacebookにBuy Nothing(バイ・ナッシング)すなわち「何も買わない」という名前のグループがいくつもあります。これはグローバルな動きですが、ひとつひとつのグループはメンバーが実際に住んでいる地域に根付いたグループです。わたしが住んでいる地域にもありました。簡単にいうと、要らないものを欲しい人がもらい(貸し)、欲しいものを要らない人からもらう(借りる)、というお金もゴミも発生しないという究極のエコを目指すグループです。(公式サイト

Buy Nothingのミッション

ミッションはこのように公式サイトに書いてあります。
“Post anything you’d like to give away, lend, or share amongst neighbors. Ask for anything you’d like to receive for free or borrow. Keep it legal. Keep it civil. No buying or selling, no trades or bartering, we’re strictly a gift economy.”
「近所の人になんでもあげたいもの、貸したいもの、シェアしたいものを投稿してください。そしてなんでも無料で欲しいもの、借りたいものを投稿して尋ねてみてください。合法的に。礼儀正しく。売ったり買ったりはありません。トレードもバーターもありません。わたし達は厳格なギフトエコノミーです。」

これは2013年にワシントンのローカルで始まり、それから数え切れないくらいの小さな地域グループが派生しました。今ではいくつもの国に渡っており、合計50万人のメンバーがいるといいます。このコミュニティに属する人は、その地域(市町村)に住んでいる人でなくてはなりません。Buy Nothing XYZという形でXYZのところに地名が入ります。東京にはありませんが、もしあるとすればBuy Nothing Yoyogi-UeharaとかBuy Nothing Kichijojiとか、そんな具合です。

どんなものが出されているの?

例えばどんなものがあるかというと、机、本、クリスマスオーナメント、要らなくなった赤ちゃんグッズというようなありそうなものから、DVDプレーヤーとか手作りタンスなんてものもあります。面白いのは、ドッグフード割引クーポン、使いかけのマニキュア、ハロウィンで配ったキャンディの残り、卵の空きパッケージ、間違って買ったパン、ゲイのための8カ国語の旅行英会話の本(内容も載ってましたが、ここに書けません...。表紙がマッチョ男性のビキニ姿)、ビール片手のろくでなし風のex-husband(離婚した夫)のイラストが付いてるブードゥークッション(胸に刺す針のピン付き)などなど。見てるだけでも飽きません。

「こんなもの誰がいるの?」というものでも、大抵誰かが「ください!」と名乗りを上げます。わたしもいくつも出しました。例えば、ジャムなどが入っていた空の瓶を10個くらい出した時(冒頭の写真)は、「学校のプロジェクトで使う」という人が持って行きました。授乳初期におっぱいが出なくて困って使っていた、おっぱい促進用のお茶も、使いかけだったけれど、妊娠中の女性が持って行きました。増えすぎた多肉植物をあげたこともあります。何か捨てそうになった時、その前に一度投稿すれば、ほとんどの場合、誰かが名乗りをあげるので、満足度がとても高いのです。無駄にしなかった、ゴミを出さなかった、ガレージに何年も放置してあったものがついに誰かの役に立った。その気持ちが、このコミュニティをやみつきにさせるのです。

さらに、「貸して」や「ください」も投稿できます。例えば、先日は経済的に困窮している子持ち家庭が、「子供の誕生会をしたいので、公園で使える誕生日グッズをください」と募集していました。仮に経済的に困窮していなくても、買うのは無駄だと考えた時になんでも聞くことは自由です。わたしが先日息子の幼稚園のドネーションイベントで10個のズッキーニブレッドを焼かなくてはいけなかった時は、「型が足りないので、余ってたらください」と言ってみたところ「貸してあげるよ」という人が5、6人返事をしてくれました。

優しさのリレー

このコミュニティのすごいところは、完全に善意で成り立っているところです。日本にいると、要らないものは捨てるか、売るか、リサイクルをすると考えるのが普通ですが、アメリカ人の物に対するあり方は少し違います。まず、アメリカには要らなくなった物を大量に寄付するドネーション文化があり、そこら中にThrift Shopと呼ばれるセカンドハンドストア(中古屋)があります。また、助け合い文化が強いのは、キリスト教の博愛主義に基づいているという人もいます。さらに、昔からRound Robin(ラウンド・ロビン)という、要らなくなった物(子供服、大人服、化粧品などテーマごと)を袋に詰めて、次に回して、欲しい人がとって、要らないものを詰めて、また次へ回す、というような地域に根付いたエコシステムもあります。こういった文化的背景もこのコミュニティのアイデアの源泉なのかもしれません。

このコミュニティで見た、わたしが感動した二つのエピソードを紹介します。

このコミュニティの中で、「Big Ask, Small Ask」というスレッドが立ったことがありました。大きなお願いと、小さなお願い、一つづつ書いて、何が起こるか見てみようというスレッドでした。一人の人がSmall askとして「今、出張で教えているんだけど、家にいる僕の妻に誰かオートミルクカフェラテを届けてくれないですか?」という人がいたんです。そしたら、なんと「今日〇〇(ローカルコーヒーショップ)に行くからいいよ!」という人が現れて、見事にラテを奥さんにドロップオフ。もちろんラテの代金も車代も配達代も、何にも発生しないんですよ。ただ街を離れて妻のことを思っている夫が、遊び心で知らない近所の誰かに妻へのサプライズを頼んで、その誰かが無料で善意で遂行した。それだけです。読んでいて心が温かくなりました。

もうひとつのエピソードは、それと同じスレッドに、Big askとして、「誰かわたしのゴミ袋を回収用のコンテナに入れてくれませんか? 週一か週二で。体が動かずにゴミが捨てられないのです。」という人がいました。すると、なんと立て続けに三人も返信があったのです。「わたしがやるよ」「水曜日ならできます」「学校で通るから月曜と火曜の朝ならできる」など。仕事でもないし、なんの見返りもないのに、見ず知らずの人のために、毎週このコミットメント、なかなか勇気がいります。

この二つのエピソードは、もうすでに「要らないものをあげる、欲しいものをもらう」以上のものであり、経済活動や資本主義にどっぷり浸かっているわたし達に、忘れてしまった何かを思い出させてくれる気がします。

子どもに残したい未来とコミュニティのあり方

このコミュニティが好きすぎて、長々と書いてしまいましたが、最後に、グレタ・トゥーンベリによる2018年のTEDトークの引用をここに記して終わりたいと思います。

「私が百歳まで生きるとしたら、2103年にまだ生きています。将来のことを考えるとき、みんな2050年以降のことは考えません。順調ならその時点で私はまだ人生を半分も生きていません。その先何が起こるのでしょうか? 2078年には私は75歳の誕生日を迎えます。子供や孫がいたらその日を共に過ごしてくれるかもしれません。皆さんのことを聞くかもしれません。2018年頃に生きていた人たちのことを。まだ行動を起こせる時間があったのに、なぜ 何もしなかったのかと、たずねるかもしれません。(中略)励ましやら、明るいアイデアなら、30年聞かされてきました。残念ですが効果はありません。効果があったら今頃CO2排出問題は解決しているはずです。でも解決してません。確かに希望は必要です。もちろん必要ですが希望よりも必要なのは行動です。行動を始めれば希望で溢れます。」
TED公式サイトより講演全部が視聴できます。

彼女の数々の演説を、「経済活動を無視している」と嘲笑う人は多いです。しかし、子どもの未来を考えた時、経済だけがわたし達が残すべき未来でしょうか? そして長く愛されるコミュニティ、自分の人生を過ごしたいと思う場所とは、あなたにとってどんなものでしょうか? そしてそのために今わたし達ができることはなんでしょうか?

誰か知らない人からもらう善意を、他の誰か知らない人に返す。優しさのリレー。Pay it forwardの精神。Buy Nothingを日本でも広めたい方は公式サイトから申し込みをどうぞ。あなたが日本第一号のBuy Nothing Projectのアドミンになれるかも。

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Tomo Ogino
「みんなだれかのこども」をテーマに、ロサンゼルスに住む日本人ママが、アメリカの教育、子育て、子どもにまつわるオススメ情報、日米の違いなどをシェア。デザイナーとして、そして日米を頻繁に行き来する家庭ならではの視点も取り入れています。息子はピコロくん(あだ名)として登場。