「アリスとテレスのまぼろし工場」すごくない?(ネタバレ)

アリスとテレスのまぼろし工場、なんかめっちゃ好きだったんだが
という話

何も整理されていない評論家気取りオタクのメモ書きです。


実は序盤段階では内心「うーん」と思っていた。
そんで、「なぜ自分はこう感じているだろうか?」と冷静に分析していると

・空がひび割れてるらしいけど、割れるとどうなるか分からない。
・キャラクター全般に感情移入できずに、よく知らない人たちがなんかやってるとしか感じれなかった。

という結論に至った。
世界観を優先しすぎたインディーズアニメを高級作画でやってるみたいな印象。
これは期待外れかな…

と思いきや!


中盤以降、世界観が明らかになっていくにつれて、「なんか面白くないか?」
キャラクター描写が積み重なっていくにつれて、「こいつ好きだな」
終わってみれば、思わずスタンディングオベーションしたくなる物語の着地の仕方。
中島みゆきの主題歌も相まって、なんかすさまじい作品な気がしてきたぞ。というか実際そうなんじゃないか?分からんけどさ!


まず、世界観の話
周りから隔絶されて、時間も止まってしまった異空間に取り残された街という設定自体は割とメジャーだと思う。そこから、自分確認票みたいなのが出てきて「自分を変えてはいけない」という基本設定が開示された辺りで、作品の軸が「変化」なのかなぁと勝手に想像してた。
多分、主人公が色々あって「俺は変わる!」ってな感じで元の世界に戻って終わるんやろなぁ……

えっ?違うんですか?


そう!ここがよくあるシナリオと違うところで、主人公サイドの世界が明確に取り残されてて戻るとかそういう次元じゃない。
ひび割れの向こう側に、普通に時が進んでる現実世界が見えた瞬間に世界観の捉え方が急に変わって、「あっ!この映画好きだ!」ってなったよね。

とはいえ、世界観自体はそこまで唯一無二という訳ではないかも。製鉄所に鳥居があるのとかすごい好きですけどね。
それこそ、僕の好きなSunny Boyってアニメなんかでも似た展開だったりする。

本作が一番すさまじいと思ったは作品の着地のさせ方。要するに終わり方ですよね。
中島みゆきの主題歌の歌詞でもあったけど「未来へ、君だけで行け」という視点が新鮮で、この作品を唯一無二のものにしてる。

これって、一定の年齢層以上の気概のある日本人は考えていたりするのかな?なんて考察したりしてたんですけど、「俺たちはダメだけどお前だけでも」というのを主人公サイドがする訳ですよ。
ある意味、主人公側は諦めというかマジでどうしようもないんですよね。だから、現実世界での娘である”いつみ”を逃がして自分たちは助からない(多分)という展開。

このおかげで、作品の持つメッセージの説得力がとんでもなく増すというか、「これを見てる君たちも本当はどこにでも行ける、何にでもなれる。俺たちは叶わないけどさ」というやっばい作品になってる。
もちろん、似たメッセージは他の作品でも扱われてるんだろうけど、主人公もヒロインも脇役も皆がいる世界が「叶わない」側になるのは見たことがなかった。

やば!(語彙力消失)


いやでも、このままだと「叶わない」側である主人公たちがあまりにも報われないよな……
というところで恋愛パートですよね。

主人公は14歳で中学生。じゃあ、すっごい甘酸っぱい青春パートが待ち受けているはずだと思いきや、脚本は岡田摩里。そうはいかない。
助手席に座っただけで好きになっちゃう地味子があまりに岡田摩里すぎる。延々とおっぱい云々話してるのも男子中学生すぎる。生々しい!

中盤には主人公とヒロインの長尺キスシーンもあるので、家族で見に行けば気まずいこと間違いなし。でも、冷静に考えるとあの場面本来の時間では十数年経ってるから14歳同士のキスシーンとも言い切れないですよね。

あと、いつみが主人公に惚れるのって近親……いや。現実世界に帰ってから変な感じにならないといいけど。
このあたりの恋愛と性の描き方は同じ岡田摩里原作の「荒ぶる季節の乙女どもよ。」が素晴らしいのでお勧めです。

基本的に恋愛は生々しさはあまり求めない派なので、この辺りはそこまでぶっ刺さった訳ではないんですけどね。
形而上の恋愛こそ至高(社会不適合者)


いやぁ、でもやっぱりストーリーがあまりに印象的すぎて長文感想書いてしまうね。
時間が進んだ現実世界では、製鉄所がほとんど取り壊されて、街も衰退してるってのがね。
おじいちゃんが、時間が止まった空間に閉じ込められたのを、「罰が当たったのではなくて、一番いい時を残したかったから」と言っていた通り、現実世界が希望に満ち溢れてる訳でもないというのが本質すぎますよね。

大体、こういう世界観の物語だと未来に進むことは良いこととして描かれがちだけど、実際問題、時間を進めることは地域の衰退と同義で、それは今の日本の大多数の地域で言えることなんですよね。

「生きること」「変化すること」をテーマとして扱う作品は多いけど、これほど真に迫った、自己犠牲のさらに一段上をいく描き方はすごいね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?