肩書きなんてあてにならないよ
あまり知られていないようですが、大学教員の職階は、各国で微妙に違います。これが実は、けっこうややこしい。まぁ、一般の人にとってはどうでもいいことでしょうが。
イギリスでは、基本的には大きく分けて、
Lecturer (講師)、Senior Lecturer (上級講師)、Reader (教授の一歩手前)、Professor (教授) の4段階に分かれています。
イギリスの大学では、職務内容は職階に関わらずほぼ同じです。
教育(講義とか卒論の指導)の割り当て時間とか、大学から支給される研究助成費の金額も講師から教授までほぼ同じで(少なくともうちの大学では)、講義をするかたわら、研究をするのが主たる仕事です。
当然、職階が上であるほど、質・量ともにすぐれた研究成果を上げることが必要です。
対外的に表示されることはありませんが、「Lecturer (講師)」はランクが A, B と2ランクあって、A が初級レベルで、Bのほうがランクが上です。講師B は通常、tenure (終身雇用資格) をもらっている人です。
教授職においては、大学にもよりますが、3~5ランクあります。うちの大学では、A, B, C, D, E と5段階に分かれていて、Eが最上級です。これも、組織内での階級(給与レベル)なので、公にされることはありません。
一方、アメリカやヨーロッパ大陸の大学では、「Assistant Professor」, 「Associate Professor」, 「Professor」の3教授制の職階をとっているところが多いです。イギリスの大学でも、この欧米式を採用する大学が増えてきました。
なにがややこしいかと言うと、イギリスの「講師 A」は、欧米での「Assistant Professor」にあたります。
そして、イギリスの「講師 B」、つまり、対外的には「Lecturer(講師)」 で通っている階級は、欧州大陸の大学における「Associate Professor(准教授)」とほぼ同格です。
もちろん、これは比較する大学のレベルにもよりますし、「准教授」という職階のなかでも細かく給与レベルが設定されているわけですが。
ヨーロッパ大陸の大学でいうところの「Associate Professor(准教授)」は非常に幅が広く、イギリスでの「講師 B」「 Senior Lecturer (上級講師)」「Reader」が、ぜんぶ「Associate Professor(准教授)」の枠内に収まる感じです。(というか、イギリスの大学は職階を細かく分けすぎな気がする)
大学の種類とレベルによって異なる
あと、日本の方々にとってはもっとわかりにくいであろうと思うのは、欧米(この点についてはイギリスも含めて)の大学では、研究中心の大学と教育中心の大学と2種類ある、ということです。大学の世界ランキングで上位に入っている大学は、だいたい(というか間違いなく)研究大学です。
イギリスでは、最近とくに大学間での競争が激しいので、研究大学が、「うちらは学生ほったらかして研究ばっかりしてるわけじゃなく、ちゃんと教育にも力を入れてるよー」とアピールしたり、そうかと思えば、どうひいき目にみても研究成果のない教育中心の大学が、「研究も頑張ってます!」と強調してたりします。
こればっかりは、その国の各大学の質とレベルを理解していないと正しく判断しきれない部分です。
で、これらに加えて、大学のランキングが関わってきます。
トップレベルの研究大学の「講師」の研究業績のほうが、下位ランクの大学や教育大学の「教授」よりもずっと優れている、なんてことはザラにあります。
大企業に勤める係長のほうが、中小企業の部長より給料が高い、というのと同じです。とはいえ、後者のほうが、組織内での権限が大きかったりするので、どちらがいいとは一概に言えません。向き不向きもありますし。
肩書きよりも大事なこと
何が言いたいかというと、肩書きって、ひとつの目安にすぎない、ということです。なのに、日本人って肩書きにこだわる人が多くないですか?
肩書きなどまったく無意味だとは言いません。重要な役職についた人は、それなりに努力されたんでしょうし、それは評価されるべきだと思います。
でも、世の中には、肩書きがついてなくても重要な仕事はいくらでもあります。大切なのは、その仕事を通して、
なんらかのかたちで社会に貢献しているか
自分が職業人として、あるいは人として、成長しているか
ということです。
この勤労の本質をないがしろにして肩書きにこだわりだすと、「働くこと、働けること」が恵みではなく、重荷になるのだと思います。