もっと詳しく映画が見れる?! 映画に隠された技術「イマジナリーライン」編 (高橋)

こんにちは、高橋です。

元美大生の僕が映画をもっと楽しく見るために、映画理論について書いてみるシリーズ第1弾です(2弾以降があるとは言っていない)。

今回は映画のカット割りに関する話から「イマジナリーライン」について話してみたいと思います。


映画を撮るうえで超重要なルール!!

映画は、1カット1カットを重ねていくことによって映像が流れていきます。その映像の流れをどう作るかが、いわゆる「カット割り」となります。例えば、話しているAさんのカット→聞いているBさんのカットといったように映像を切り替えていくことで、カットを進めていきます。

カット割りは他の芸術には基本的にない、映画特有のものとなります。舞台では観客は定点であり、カット割りは存在しません。写真も一枚絵なので、そもそもカット割りが発生しません。漫画はコマ割りがあるので映画に近いところがありますが、コマ自体の大きさから自由に決められたりと、映画とはまた少し違うルールに沿っていると思います(漫画のコマ割りについて詳しいわけではないのであしからず)。

映画におけるカット割りは非常にセンスが問われる部分であり、製作者によって様々な形があるのですが、ある1つのルールはほぼすべての映画で守られています

そのルールこそ「イマジナリーライン」です。


イマジナリーラインとは

下の図をご覧ください。

画像1

これは、向かい合って喋っている2人を上から見た図です。黒いものはカメラ、そこから出ている線は映っている範囲を表しています(特にここは重要じゃないので適当です)。

このように、Aさん肩越しにBさんを映す1カット目を撮影します。上の画像ではBさんの顔が映っています(このように肩を通して向かい合ってる人間を映すショットを「肩なめ」といいます)。

さて、次にAさんの顔を映す2カット目のときには、実はどこでもいいわけではなく、理論上正しい位置が決まっています。

正解はこちら。

画像2

さて、なぜここになるのか。そこにがあります。

まず、AさんとBさんを、2人の中心を通る1つの線で結びます。すると、2人の間には上から見て線より右側と左側が生まれます。そして、今回のように左側からスタートした場合、カメラはこの左180度の中であれば安定した映像を撮ることができます(線より右側で撮影を始めた場合は右側が安全地帯となります)。

画像3

このように範囲を設定しないと、カットが変わったときに色々不都合が生まれます。この、カメラが安全に動ける範囲を定めるために人物(など)同士を結ぶ線がイマジナリーラインです。


実例

僕たちが以前撮影した自主映画「strange」より例を挙げてみます。

まずはこちらのショットからスタートします。

画像4

このショットに対応するイマジナリーラインを守った次のショットはこうなります。

画像5

上から見るとこんな感じですね。

画像6

カメラはイマジナリーライン内からしか撮影していないので、整った映像が撮れます。

次にこちらをご覧ください。

画像7

まずはこちらの1ショット目。そして⋯⋯。

画像8

こちら。

さて、2人は同じ方向を向いているように映っていますよね。

実はこれ、イマジナリーラインを破ったカット割りなんです。本当はこの2人は向き合っているのですが、視線が絡み合わず、まさか対面しているとは思えない形になってしまっています。

このように、イマジナリーラインを破ると本来の向きがカメラのせいで画面上で狂ってしまいます

誰がどこを向いているかということは映画にとってかなり大事で、イマジナリーラインは空間表現のために最低限守るべきものとなっています。

ちなみに実際のショットはこちらです(※先ほどは2ショット目を反転させていて、映画内だとこの下の2つが本来のカット割りです)。

画像9

画像10

こうすると、お互いが向き合ってますよね。

このように、イマジナリーラインを守ることは観客が「正しい方向」を瞬時に判断する助けとなります。

逆に、イマジナリーラインを破ることで向き合っているはずなのに同じ方向を向いているように見せたりと、あえてルールを破ることで、表現上効果的な使い方をすることもできます。

まとめ


映画のカット割りは、最低限このルールに沿って撮影されていることがほとんどです。

今後映画を見るときは、是非気にしてみてください。「あ! カメラがイマジナリーラインを守ってる!」という今までよりも深い見方ができると思います。

また、今回の話は、映画を自分でも作ってみたいと思った人が、カット割りを決めるときの大事な知識にもなると思いますので、そういった方も是非活用してみてください。

解説動画

追記:


高橋

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