30年前からの贈り物
30年以上前、父が私の名前で定期預金を作っていたことが最近になってわかった。
妹と半分こする為にその定期預金を解約しに銀行に行った。
受付で、
ハガキが届いたが心当たりがなかったこと、
確認の電話をしたこと、
解約の際は銀行の窓口で手続きになるとその電話で言われたことなどを話した。
番号札が配られ、窓口へ案内された。
「定期預金の分を解約して、出金したいです。電話では通帳はないと話していたのですが、あとで“これかもしれない”というものが見つかりまして…」
そう話すと銀行員の方が確認をしてくれた。
通帳には2回入金をした記録しかなかったが、もう1度入金していたらしい。
どうやら、銀行が統合した時にその統合先の銀行の通帳に移行していたらしい。
さすがにその通帳はなかったな。2回引っ越ししてるしな…。
「けっこう探したんですけど、どうしても見つけられなかったのですが…。」
そう言うと、持ってきた通帳で確認できたから大丈夫だと優しい声かけがあった。
30年以上前の口座でかなり時間が掛かったが、無事引き出すことができた。
「ありがとうございました。」
カバンに入れて持って帰り、家で半分に分けた。
定期預金があることがわかってから数日、このお金をどう使うのが正しいかを考えていた。
“お金に色はついていない”とあるように、どんな風に使っても特に問題はないのだろう。とはいえ受け取るのを想像すると、父の“何か”を感じると考えていた。
実際受け取った現金。
30年前からは1度お札のデザインが変わっている。
この現金は父が預けたお金そのものではないし、父の指紋が付いていることもない。
でもこの現金は何か特別だ。
そうだ、30年前からの贈り物なんだ。
現金をぎゅっと握って私は言った。
「今日このお金で炊飯器買おうよ。誕生日に買ってほしいって言ってたじゃん。」
母の誕生日プレゼントは妹に却下されて炊飯器から別のものになった。
『今日はこの後おばあちゃん家に行くから時間ないよ、炊飯器はまだ使えるし。』
秒で玉砕………。
しかし私は食い下がった。
「ダメ、もう決めたからね。この30年前からのタイムカプセルみたいなお金は家族で長くよく使うものにするんだからね。」
野暮用を片付けるのに精いっぱいで、まだ炊飯器は買いに行けていない。でも、すぐに買いに行けるように私はそっくりそのまま引き出しにしまっている。
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