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July.9 強い男

 昨日後回しにした分もあり、今日はだいぶ帰りが遅くなってしまった。もう日付が変わっている。さすがに寝ただろと思いつつ、玄関のドアを開ければまだリビングの電気がついていた。
 消し忘れか? さすがに起きてるわけねぇもんな。などと考えながらリビングに向えば、
「遅かったですね。待ちくたびれましたよ」
 いた。ガクが本を読みながらソファに座っていた。
「おぉ……ただいま」
 いると思っていなかったので若干面食らいながら返事をすれば、訝しげな表情を向けられる。
「いや……いると思わなかったから」
「別に僕がどこにいようがいいでしょう?」
「あぁまぁそうなんだけどよ」
 でもこんな時間なら寝ていてもおかしくないし、たとえ寝ていなくても自室にいそうな気がするんだけどな。こいつの性格的に。
「とりあえず荷物置いて風呂でも入ってきたらどうです? 僕はもう寝ます」
 ガクは本を閉じて立ち上がった。そのままリビングを出て行く前に、気になったことを聞く。
「もしかして待っててくれたのか?」
「は?」
 ガクの動きが止まった。いつも通り「自惚れないでください」などとすらすら言葉を並べてくると思っていたので、意外な反応である。
 こいつ、理解できないことがあると「は?」って言って固まるんだよな。……今日はいつにも増して硬直が長いな。そろそろ声かけるか……?
「酔っ払って帰ってくる貴方が悪いんですよ」
「待て、なんの話だ……?」
 しばらく黙っていたかと思えば、急に俺のせいにしやがった。酔っ払ったときの俺がなんかしたのか? そんなことしてたら翌日くどくど言うくせに。今回の件に関係ありそうなことは何も言われてないと思うんだが……。
「まぁ何だっていいんですよ。じゃあおやすみなさい」
「あ、おい――」
 心当たりについて考えている隙に、ガクが足早にリビングから去って行った。
 ……まぁ心当たりもないし、誤魔化された可能性が高いな。ということは、本当に俺のことを待っててくれたのかあいつ。素直じゃねぇなと思いつつ、荷物を置き鼻歌交じりに風呂場へ向かった。今日は気分良く風呂に浸かれそうだ。

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