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[後編]300年前からずっと気持ちいい布-香川県/保多織-

今回、日本諸国テキスタイル物産店の広報紙「民ノ布」に登場した「保多織(ぼたおり)」は香川県高松市の伝統的工芸品です。
いつまでも丈夫で「多年を保つ」ことから、保多織。
そう名付けられた生地は、高松藩の門外不出の技で織られ江戸時代は殿様や上級武士しか着ることが許されなかったそう。
そんな秘蔵の生地は、いまでは一般庶民のわたしたちでも手にとり、身にまとうことができるようになりました。
今回は保多織を大切に織り続ける老舗「岩部保多織本舗」で県指定の伝統工芸士でもある四代目の岩部卓雄さんに生地の特徴や魅力、その歴史について、おはなしを伺いました。


普段非公開にしている工場の写真を送って頂いた。シャトル織機がメインだが、薄地はレピア(高速のシャトルレス織機)でも織っているそう。



柄が顔をだすときのうれしさ


民さん(以下/民)
ここからはインタビュー〈後編〉です。
岩部保多織本舗でうみだされる生地の
バリエーションと、その裏にある
創意工夫についておはなしいただきます。
どうぞよろしくお願いします。

岩部卓雄さん(以下/岩部)
後編もよろしくお願いします。
前回までで保多織の生地ができる
仕組みについてご説明してきましたが
ここからは、わたしどもが日々
製造している生地のことを
お伝えしていきますね。

前回、生地の種類は糸の違いで
厚地、中厚、薄地の3種があると
おはなししたのを覚えておられますか。


はい。太さの異なる糸で
厚みの違う生地ができる、と。

岩部
そうです。そして、その糸の色の
組み合わせで多種多様な柄の生地が
できあがるのですが、
日々、織りの作業をしていて
おもしろい!と飽きずに感じるのは
「柄が顔を出すとき」なんですよね。


柄が、顔を出すとき。

岩部
無地から縞柄、チェックまで
柄のつくりかたは、ほんとうに多彩です。
さまざまな想定をして準備をしておいて
さぁ、手を動かすぞとなったとき
目の前に柄があらわれた瞬間の
うれしさや、おもしろさは
何度体験しても実感することですね。


カタチになった瞬間のおもしろさは
ものづくりの醍醐味でもありますね!
ちなみに、保多織ならではの
特徴的な柄はありますか?

岩部
保多織は、その織り方がそもそも
独特なものですので、特定の柄はないんです。

ただ、「縞帳(しまちょう)」という
縞柄の資料は先代より引き継いで使っていて
その資料を元に、同じような柄でも
パターンをアレンジして
新たな柄を生み出したりもしています。

柄の流行りは時代によってさまざまですが
チェックや縞柄は最近人気が出ていますね。

保多織生地見本の一部。生地の厚さごとに綴じられている。




「新しい保多織」ができたとき


卓雄さんご自身が、この柄はお気に入り!
というものはありますか?

岩部
いま履いているパンツは保多織ですが、
このパンツで使った「新黒」という生地が
最初にできたときは
「新しい保多織ができた!」と
うれしかったですねぇ。

黒の生地なのですが、真っ黒ではないので
こすれに強く、洗濯しても色焼けしない。
そして、性別を問わず使っていただける
身にまとって気持ちよい生地なんです。

自分のお気に入りでもありますが
実際、お客様の評判も高いですよ。
服として仕立てたものだけでなく
生地売りもよく出ています。


生地ができたときに「うれしい」と
思えるって、ステキですね。

岩部
自分でも着てみて「いいなぁ」と
思うものを、「これ、いいですよ」と
図々しくも素直にオススメするのって
いまでこそ、できるようになりましたが
昔は、少し照れが入ってしまって
なかなかできなかったんですよね。

そういう点でも、生地の魅力を
自分の言葉でお客様にお伝えできる
対面販売はありがたい機会です。


岩部さんの生地は、現在は
高松の店舗と、全国での出張販売で
販売されるのが中心ですか?

岩部
そうですね。出張販売はこのコロナ禍で
数が減っていますが定期的に出ています。
展示会でおもしろいのは、お客様と対面で
おはなしできることももちろんですが、
会場で出会う各地の生地職人との交流も
自分にとってよい刺激になっています。

各地で行われる伝統工芸品の展示会では
弓浜絣や会津木綿など、さまざまな
伝統工芸品の作り手と直接はなせますし
各地に仲間ができるようでうれしいです。

そういえば。
主力商品のシーツについては
通販していただいているところもあります。


そうなんですね!

岩部
雑誌『暮しの手帖』の通販サイト
「Green Shop」です。

編集部の方が保多織のシーツを
使って気に入ってくださったことから
和布団用シーツとピローケースの
取り扱いが始まったのですが
実はわたしの母が『暮しの手帖』の
長年のファンでして。

確かな商品をこれまでも扱って
おられるところにわたしどもの商品も
加えていただけて、母も喜んでいました。

時代にあわせた試行錯誤を


インタビューのしめくくりに、
今後展開していきたいことや
取り組みたいことについて
お聞かせいただけますか?

岩部
そうですね。いま取り組んでいるのは
保多織に特化した服を手がける
香川発のファッションブランド
ツムギ」さんとの共同開発です。

柿渋や藍などの天然染料で
染めることで生地に
新たな価値を足してみたり、
「スラブ糸」という表情のある糸で
織ってみたりと、新しい保多織を
うみだすさまざまな実験を
ツムギさんと一緒にしています。

岩部さんと「ツムギ」デザイナー平川めぐみさん(左)



おもしろそうですね!
スラブ糸を使った新しい生地は
どんな特徴があるのでしょうか?

岩部
スラブ糸は、糸の一部に太い部分をもつ
ムラのある糸なのですが
その糸で保多織を織ると、仕上がりが
昔の手織りのような風情になるんです。
これまでの保多織とも少し違う
おもしろい生地になるといいなと思います。


ちなみに、卓雄さんのようなベテランも
試行錯誤することはあるのでしょうか?

岩部
そうですね……。試行錯誤の数が
できるだけ少なくなるように
これまでの経験と知識をベースに
工夫しながら実験している、
という表現になるでしょうか。
限られた時間のなかでも、やっぱり
成果はしっかり出したいですから。


卓雄さんは四代目とのことですが
次の代は、どうなりそうでしょうか。

岩部
五代目は、わたしの息子が
継いでくれておりまして
工場などで一緒に仕事しています。


それはよかったです!
次の代へのバトンタッチが
難しいというおはなしを
前回取材した職人さんからも
お聞きしていたので…。

岩部
次の世代もそうですが、機械の問題も
みなさん抱えていらっしゃいますよね。
わたしどもも、その問題は
もちろんありますし、
交換パーツがなくなったものを
今後どうするかという悩みにも
実際直面しています。


五代目となるご子息や
共同開発で関わるツムギさんなど
次世代との交流から
新たな展開も期待できそうでしょうか。

岩部
そうですね。ツムギさんとの
つながりでいうと、ツムギさんの商品から
保多織を知ってくださったお客様も
いらっしゃいますし、逆にこちらから
ツムギさんをご紹介することもあり、
お互いにいい関係を築いていけたらと
考えています。

また、ツムギさんからのご紹介で
2020年春に香川県内でオープンした
新しい宿泊施設で保多織のシーツの導入が
決まったうれしい事例もありました。
若い世代とのつながりで
保多織の魅力の新しい伝え方を
模索していけたらうれしいですね。

20/16の太めの糸でしっかりと織られた保多織のシーツ。シングルからダブルまで取り揃えている。



保多織は歴史ある生地ですが
昔からずっと「気持ちいい生地」として
発展してきていますよね。
昔の人が工夫していた保多織の使い方を
いま改めて取り入れてみたい、
というようなことも考えていますか?

岩部
絹、綿、麻など、昔の人はもっと
生地の素材の使い分けや、厚みの違いで
自由に組み合わせて重ね着して
使いこなしていたんだろうなぁと
思うことはありますね。

先ほどお伝えした「新黒」の生地は
糸が太めで、生地も厚めなんですが
実は、真夏に着ても気持ちいいんです。

暑い時期に厚手の生地を使うなんて
意外かもしれませんが
そもそも織り方でさらっと仕上がりますし
汗をよくとり、肌離れもいい。
夏でも使っていて具合がいいんですよね。

保多織ならではの特徴をお客様に伝えつつ
いまの時代にあわせて使いこなせるような
ご提案をしていけたらと思います。

作り手による生地解説〈後編〉まとめ

家業を継いで50年以上の岩部保多織本舗の
4代目、岩部卓雄さんのおはなし〈後編〉では
生地づくりの工程でのおもしろさや
ご自身で保多織の衣類を身につけることで
実感した生地の魅力をおはなしいただきました。

インタビュー中も、お気に入りの生地の
パンツの触感を手のひらで確かめながら
「ほんとに、いい生地なんですよ」と
笑顔で語ってくださった岩部さん。

50年にもわたって生地をうみだす職人
その人がほれこんだ、ずっと心地いい布。
そうやって江戸時代から代々、大切に
織り続けられてきたのだと知ることで
歴史に裏打ちされた「良さ」の
間違いなさを実感するインタビューでした。


岩部保多織本舗(香川県高松市)
取材日:2021年5月28日
取材・執筆:杉谷紗香(piknik/民ノ布編集室)
撮影:岩崎恵子(民ノ布編集室)

Instagram:@taminonuno



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