協働とネットワーク

(1)社会参加型の民主主義モデルとは何か
公共的価値の実現を担う主体は、代議制民主主義を政治制度の根幹とする限り、今も昔も行政府であるが、豊かで活気のある民主主義社会を創っていくうえで、行政府以外の公共的価値の実現を担う主体、いいかえれば、市民活動団体やNPOなどによる市民活動もその役割も果たす。
こうした状況は、公共的価値の実現を担う主体が多元化することを意味しており、このような状況、あるいはこのような状況を理念とする考え方を、「新しい公共」と呼んでいる。
この「新しい公共」論の背景は、新自由主義思想等を背景にした経済理論や手法によって市場経済を分析しようとする考え方から、市場性の成熟の主要因として社会科系資本の役割を重視する考え方へのシフトがあると考えられる。
これまでは行政府が一元的に公共サービスの提供を行い、住民はその受け手でしかなかったが、市民活動団体やNPOなども公共サービスの担い手として参入することで、住民は様々な公共サービスの提供を受けられるようになり、豊かでうるおいのある自立的(自律的)な社会が創られることになる。
市民による社会参加型の民主主義によるガバナンス構造で、このモデルでは、代議士/行政府による公共サービスに加えて、市民活動団体やNPOなどの中間団体もまた公共サービスの担い手として位置づけられている。これらの中間団体の活動は、市民活動として行わているものであり、社会参加―実践(学習)―公共サービスの提供(公共的価値の実現)という過程では「共助」のサイクルが展開している。こうしたガバナンス構造は、アメリカの民主主義を原型とする。

(2)なぜネットワーク化が必要か
現代社会が直面する緊急かつ社会的な課題は「現代的課題」と呼ばれており、その解決に向けて様々な取り組みが求められる。
「人々が社会生活を営む上で、理解し、体得しておくことが望まれる課題が増大している。ここで言う現代的課題とは、このような社会の急激な変化に対応し、人間性豊かな生活を営むために、人々が学習する必要のある課題である。」
これらの課題の多くは、次に掲げるような共通の性格を有していると考えられる。。
現代社会が直面している多くの課題を解決に導くためには、それに関わるセクターが連携協力し、連絡調整を得ながら、実践的な学習課題として取り組んでいかなければ進展しない。ここに、社会全体がネットワーク型の課題対応を必要とする理由がある。もちろん、コミュニケーション・ツールとして様々なメディアが発達・普及していることや、公共性の実現主体が多元化していること(「新しい公共」の登場)なども、ネットワーク型の課題対応の前提条件として、密接な関わりを持つ。連携協力や連絡調整という作業は、これらがないと進まないからであり、社会全体が「ネットワーク化」しているのである。

(3)シティズンシップ教育とは何か
ブレア労働党政権時代に、バーナード・R・クリックらがまとめた「シティズンシップのための教育と学校で民主主義を学ぶために」に示されている教育のことである。シティズンシップ教育は、次の3つの柱で構成されている。①社会的・倫理的責任 ②コミュニティへの関わりや参加 ③政治的リテラシー イギリスのシティズンシップ教育は、日本の公民教育とは若干異なる。すなわち、日本の公民教育の場合は、民主主義社会に関する知識を覚えたり理解したりすることが中心になっているのに対し、イギリスのシティズンシップ教育では、社会参加のスキルやコミュニケーションの手法、さらには合意形成の方法を学ぶというようなことも含まれている。こうした点で、イギリスのシティズンシップ教育は、日本以上に実践的な性格を持っているといえる。

<参考文献>
笹井宏益・中村香『生涯学習のイノベーション』玉川大学出版部,2013

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