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凪良ゆう 『汝、星のごとく』 を読んで

凪良ゆうの『汝、星のごとく』を読みました。

この小説を読む間、高校を卒業して上京し、初めての一人暮らしを始めた時のことを思い出しました。最初は今までの人生の中で一番自由な生活に興奮して心を踊らせたものの、両親の温かい鳥籠の中で育んできた理想郷はどこにも無いことに気づき、打ちのめされた時期でした。

"完璧なものなどない" という当たり前の事実を受け入れるのが辛かったのです。

それは東京という、自分とは違う生い立ちを持つ人、そして多様な生き方が混在する環境で、自分が望む望まないに関わらず、あらゆる方法で比較・評価されることで起こりました。

他人の目なんて気にしなくてもいいよ、と世間はいうけれど、それでも気づかない間に学歴、経歴、性別で評価されます。ふとした時に「あ、私は今ここに分類されているのか」と気付かされる。そんな世間からの評価は止めることができないことにも同時に気づきます。

私は完璧ではない、周りも完璧ではない、私が心から感動して信じていた言語ですら伝えきれないものがある。

辛い。自分の理想通りに生きれない人生なんて、何にも意味を見出せなくて辛い。

上京後の数年間はそんな風に過ごしていました。でもそれすらも愛することができると、時間が経つにつれて受け入れられるようになりました。

この小説を読むことで、そんな自分の歩んできた道を振り返ることができて、そして自分を成長させてくれた人・ものを慈しむ感情に包まれました。


感想は以上になりますが、この小説には強くしなやかに生きるためのヒントがたくさん散りばめられているように思います。いくつか引用して今回の読書感想文は終わりたいと思います!

「自分の人生を生きることを、他の誰かに許されたいの?」
島のみんな、世間の目、でもその人たちに許されたとして、私は一体ーー。
「誰かに遠慮して大事なことを諦めたら、あとで後悔するかもしれないわよ。その時、その誰かのせいにしてしまうかもしれない。でも私の経験からすると、誰のせいにしても納得できないし救われないの。誰もあなたの人生の責任を取ってくれない」

p75

「使えるものはなんでも使えばいいじゃない」
瞳子さんはさっぱりと言い切った。
「結果を出せたんだから、少しは自分を褒めてあげなさいよ」
「わたしはなにもできませんでした」
「力のあるひとを味方にしている、ってことも力のひとつ。なんでも初めの一歩が大変なんだし、手段のクリーンさは次世代に任しちゃえば?」

p137

瞳子さんの人生観が伝わるいい言葉だなぁと思います。

「何度でも言います。誰がなんと言おうと、僕たちは自らを生きる権利があるんです。僕のいうことはおかしいですか。身勝手ですか。でもそれは誰と比べておかしいんでしょう。その誰かが正しいという証明は誰がしてくれるんでしょう」

p306

北原先生の今までの叫びや苦しみが凝縮されたセリフ。この小説の面白いところは、同じシーンでもプロローグとエピローグで受ける印象が全く違うということ。自分の価値観がアップデートされたことを身を持って体験することができました。

結局一番のがんばれる理由は『ここはわたしが選んだ場所』という単純な事実なのだと思う。

p323

終盤での暁海の言葉。彼女がもがき苦しみながらも、自分の人生の手綱を握ってきたからこそ辿り着いた価値観なんだと思います。

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