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未来を考えるためのプロトタイピングのプロトタイピング

エグゼキューションが大事。

アイデアに価値なし。

まずやってみよう。

そう分かっていながらも、動けない。ビジネスの現場においてミーティングを重ねて空中戦を繰り広げながら結局進まない…なんてことはよくあるはず。

体系化されたデザインプロセスの「プロトタイピング」に着目し、プロトタイピングのためのプロトタイプによって、エグゼキューションを加速させる。

はじめに

本書は、「武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第五回(5/10)八田 晃さん」の講義レポートである。

講師:八田 晃(はった あきら)
株式会社ソフトディバイス代表取締役。1996年よりインタラクションデザイナーとして、家電、情報機器、自動車などの先行開発を中心に様々なUIデザインに関わる。2007年同社CTO、2008年より現職。プロダクトにおけるUIデザインを「人のふるまいのデザイン」からの視点で捉え直し、プロセス上流においても作りながら考えるための簡易プロトタイピング手法を各種開発、実践の場として「softdevice LAB」を設立。



体験化させるプロトタイピングの尊さ

プロトタイピングは体験化、体験化は最良の確認作業である。頭でっかちにならず、作ろう、作り続けよう。そのようにこの大学院で教わってきた。


不立文字
禅宗の根本的概念。禅における悟りは文字や言語で伝達されるものでなく,心から心への伝達(以心伝心)と,生命をかけた本質への直視(見性(けんしょう))こそ肝要とする。つまり経論という文字をはなれ,ひたすら座禅により釈迦の悟りに直入する意。
出典:株式会社平凡社百科事典マイペディアについて

そして、その不立文字の事例としてファインマンの逸話を挙げたいと思う。


ファインマンの逸話

ファインマンはノーベル物理学賞を受賞したくらいなのだからさぞかし頭の良い人物なのだろうが、意外なことに子どもの頃は同年代の子たちから「頭の悪い子」と言われていたという。なぜそう言われていたのかというと、ファインマンはいろいろな物の名前を知らなかったのだ。

しかしそれには訳があって、じつは父親があえて名前を教えなかったという事情がある。
なぜ父親はものの名前を教えなかったのか。
……なぜ文字を立てなかったのか。

ファインマンの父親は、もし自分に男の子が生まれてきたら、息子を科学者にしたいと考えていた。だから生まれてきた男の子のファインマンをとても可愛がり、休みの日には親子でよく森に遊びに行った。しかし父親はただ森で遊ぶのではなく、なるべく自然科学の面白さを伝えようと考えた。たとえば、こんなふうに。

「ちょっとこっちに来て、あそこの木の枝にとまっている鳥を見てみなさい。あの鳥の名前は、アメリカでは〇〇と呼んでいる。けれども国が違えば名前なんてものはいくらでも変わってしまう。それぞれの言語で呼ばれるだけだ。だから名前なんてものをいくら覚えたって大した役には立たない。
それよりも、あの鳥が何をしているかをよく見ようじゃないか

そこでファインマンは鳥をじっと観察した。
すると鳥は、ときどき思い出したかのように自分の羽をくちばしでつついていた。しかし幼いファインマンはそれが何を意味する行動なのかという知識は持ち合わせていない。

「お父さん、あの鳥はさっきから羽をくちばしでつついているよ」「確かにつついているな。何をしているのだと思う?」
「うーん」
答えを知らないファインマンは考えるしかなかった。

「空を飛んできたから、羽がグチャグチャになったのかなあ」
「なるほど、ありえるな。もしそれが正しいとしたら、長い時間枝にとまっている鳥はもう羽を整え終わっているはずだから、羽をつつくことはないはずだ」
そこで親子は長く枝にとまっている鳥を観察した。すると、じっと休んでいるような鳥も、時折くちばしで羽をつついていた。

「ずっとつついているということは、羽を整えてるんじゃあないのもしれんなぁ」
「うーん、じゃあ、羽の中にいる虫を食べてるとか?」
「なるほど、ありえるな。でもそれはここから観察していても確認できないから、家に帰って鳥類学の本を読んでみるしかないな」
「じゃあ帰ったら調べてみよっと」
そして親子は家に帰ると、本で鳥の行動を調べた。

ファインマンは父親の助言を受けて、まずよく観察し、観察に基づいて仮説を立て、仮説が正しいか検証し、確かめきれないことは先人の見識を紐解いて確認するという体験を深めていった。こうしてファインマンは科学的思考を身につけていったのだが、名前を覚えるというような勉強はしなかったのである。

ファインマンはこのような幼少時代を過ごし、鳥の名前も知らないバカな子どもと言われながら優れた科学者に成長していった。これは記憶重視型の授業を展開する日本の教育界に、痛烈な一撃を見舞うエピソードと言えるのではないだろうか。

出典:【禅語】不立文字〜文字で真理は語れない〜

子供が砂遊びをするように、ものごとを体験化していく作業。それがプロトタイピング。

一旦自分の考え、暗黙知を体外に出して触れるようにすると、ものの良し悪しが正しく判断できるようになると言う。自分の外に出すとそれは概念ではなくなり、暗黙知が感情で判断することが出来るようになる。感情は判断を間違うことを防ぐことができるのだ。

過去の偉人たちも、とにかく体外に出して体験化しようと言う。

" 何かを学ぶためには、自分で体験する以上にいい方法はない "
アルベルト・アインシュタイン過去の偉人たちも、とにかく体外に出して体験化しようと言う。

" 真実の中には、個人的な経験を経て初めて本当の意味が理解できるものも多い "
ジョン・スチュアート・ミル
" 知恵は経験の娘である "
レオナルド・ダ・ヴィンチ
" 真実は体験するもので、教わるものではない "
ヘルマン・カール・ヘッセ

プロトタイピングのプロトタイピング(prototyping prototype)

プロトタイピングの意味が拡大している。

プロトタイピングをプロトタイプすることを、八田氏は自社のウェブサイトをこう説明している。

POSITION
ヒューマンインタフェース = 人のふるまいのデザインと位置付ける事でソフトウェアとハードウェア、サービスとプロダクトの区別なく一体的に提案できることがわたしたちの強みです。また、この分野の黎明期から培った経験と独自の手法によって、ヴィジョン策定時や要件定義前の段階での先行デザイン、プロトタイピングを得意としています。

PROCESS
わたしたちのデザインプロセスでの最大の特徴は「Sketch」です。検討のかなり早い段階からスケッチを描くようにラフなプロトタイピングをおこないブラッシュアップを重ねます。常にユーザーが得る体験に近いかたちでプロセスを進めることで提案のクオリティを大きく引き上げます。その検討の幅を広げ、また共有するための場として、LAB.を併設しています。

観察から始めても、アイデアが出にくい場面は多々ある。
わたしたちのデザインプロセスでの最大の特徴は「Sketch」です。検討のかなり早い段階からスケッチを描くようにラフなプロトタイピングをおこないブラッシュアップを重ねます。常にユーザーが得る体験に近いかたちでプロセスを進めることで提案のクオリティを大きく引き上げます。その検討の幅を広げ、また共有するための場として、LAB.を併設しています。

紙ベースの企画書や机の上で議論するだけだと、いつまで経っても空中戦になるが、ちょっとでもモノがあると、一気に腹落ちする。

通常のプロトタイピングはデザインプロセスでユーザー評価のフェーズとして位置付けられるが、プロトタイピングのプロトタイピングは、リサーチやコンセプトフェーズの上流において、ペーパーワークになりがちな領域で使うことで効果を発揮し 、そのカタチから得られる感覚を掴むことを可能にする。

“The best way to predict the future is to invent it.”
「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」
アラン・ケイ

未来を考えるためのプロトタイプが、プロトタイピングのプロトタイピングである。


初期のアイデア出し段階の上流において、ラフ中のラフの状態でとにかく体験を作り出すことで、ディスカッションベースの空中戦の突破を後押しする。

この未来を考えるためのプロトタイピングは、誰でも出来てしまうラフな性質を持ち、デザイナーだけじゃなくみんなで参加できて一緒にやることが出来るし、その場でどんどん変えることも出来る。

デザイナーではない多くの人がこのプロトタイピングに参加することみんながデザインプロセスに参加することが出来る。レポートみたいなものにまとめるのではなく、考えるための材料を作っておいて、一緒に作って変えて考えることが出来るようになるのだ。新しい議論の形が、この考えるプロトタイピングにはあるのではないだろうか。

おわりに

どう構想するか、どう造形に落とし込むか、それの一連をどう推進するか。多くの人が悩みながらビジネスの現場で奮闘していると思う。そんな時は、まず作ってみる。暗黙知を体外に出して、感情で判断してみる。それをみんなで一緒にできるようになることは、とても大きな価値がある。

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