希望を絶望にしないための戦い『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』シーズン4
【海外ドラマファンのためのマガジン第103回】
どんなときでも「希望」を心に抱いていたい、とは思います。
でも、ときに「希望」を持つことが「絶望」につながることがあると思うのです。
特に、自分の暮らす国の状況が全体主義になってしまった場合、自分の心の中にある「希望」を押さえつけて、おとなしく服従することが生き残る唯一の手段になってしまうこともあるでしょう。
このドラマは、ディストピア世界の中で、服従することを拒否した女性たち、「侍女」の物語です。
まず、ドラマの設定を簡単に説明しておきましょう。
マーガレット・アトウッドの小説を元にした、アメリカとカナダが舞台のディストピアドラマです。
アメリカはギレアドという国家になり、白人至上主義、男性至上主義的な思想を元にした全体主義の社会になっています。
司令官と呼ばれる白人男性の権力者たちの家で働くことになる「侍女」たちが主人公です。侍女には名前がありません。
たとえば、「フレッド」という名前の司令官に使える侍女は、「オブフレッド」と呼ばれることになります。
「of Fred」つまり、「フレッドに属するもの」という意味です。
侍女と言っても、家の雑用をするだけが仕事ではないのです。彼女たちにはもっと重要な使命があります。
ギレアドでは、子どもの出生率が著しく下がっていて、出産をしたことがある女性がとても特別な存在になっています。
侍女には、出産経験のある女性が選出されます。
司令官の家の侍女として派遣され、司令官との子どもを出産することを強いられるのです。
この世界になる前には、侍女たちにも名前があり、夫がいたり、レズビアンだったり、学者だったり、それぞれの暮らしがあったのですが、現在は、家族と引き離され、強制的に侍女の使命をこなすことを要求されています。
「儀式」と称された子作りの場で性交させられ、妊娠し、出産した場合には、赤ん坊は司令官夫婦の子供として育てられることになります。
任務完了というわけです。
そして、侍女たちは新たな司令官のもとで、また妊娠、出産することになります。
このような悲惨な世界から、「絶対に抜け出してやる」という「希望」を持ち続けた女性たち(侍女たち)がこのドラマの主人公です。
この絶望的な世界の中での「希望」は、ギレアドから、カナダへ亡命することです。シーズン3までに脱出に成功した侍女や子どもたちの数も増えてきました。
シーズン4では、まだギレアドに残っているエリザベス・モスが演じる主人公の侍女ジューンと、レジスタンスたちが、脱出できるかどうかが焦点になります。
アメリカでは、#Metoo運動の広がりを受けて、虐げられた女性たちの反撃という意味でも、侍女の服装(白い帽子に赤いマント)を着て抗議運動をする人たちが現れるほど象徴的な「戦い」のドラマにもなっています。
エリザベス・モス、サミラ・ワイリー、アレクシス・ブレイデルなどの侍女役の女優たちの「静かなる強い意志」を感じさせる演技に魅せられるドラマでもあります。
派手なアクションや銃撃戦だけがレジスタンスの戦いではありません。
侍女の、女性たちの戦いの物語は、じわじわと視聴者の心の中に迫っていきます。
そして、自分でも知らなかった心の奥底に隠れている「自分の中にある戦い」を目覚めさせていきます。
ドラマは、シーズン5への更新が決定済み。
本年度のエミー賞でも、21ノミネートという高評価で、特に出演俳優たちの評価が高く、10名が俳優賞にノミネートされています。
日本では、2021年8月27日からHuluでシーズン4が配信される予定です。
第73回エミー賞 【ドラマ部門】21ノミネート
ノミネート主要部門
作品賞
主演女優賞 エリザベス・モス(ジューン・オズボーン役)
助演男優賞 O・T・ファグベンル(ジューンの夫ルーク役)
助演男優賞 マックス・ミンゲラ(監視の目ニック・ブレイン役)
助演男優賞 ブラッドリー・ウィットフォード(司令官ジョセフ・ローレンス役)
助演女優賞 マデリーン・ブルーワー(侍女ジャニーン役)
助演女優賞 アン・ダウド(リディアおば役)
助演女優賞 イヴォンヌ・ストラホフスキー(司令官の妻セリーナ・ジョイ・ウォーターフォード役)
助演女優賞 サミラ・ワイリー(元侍女モイラ役)
ゲスト女優賞 アレクシス・ブレイデル(元侍女エミリー役)
ゲスト女優賞 マッケナ・グレイス(司令官の妻役)
監督賞 第10話「The Wilderness」リズ・ガーバス
脚本賞 第7話「Home」Yahlin Chang
【エミー賞ー作品賞コンプリート紹介を実施中。#3】
次回は、18ノミネートの『ラヴクラフト・カントリー恐怖の旅路』をご紹介します。
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