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三番歌 生みの苦しみと喜び


三番歌

あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の
ながながし夜を ひとりかも寝む

柿本人麻呂


柿本人麻呂という人は、和歌の世界では天才歌人でしたが、
下級官吏で身分は低かったそうです。


百人一首は、順番にも意味があり、
一番目と二番目に天皇の歌がきているのなら、

中世の身分制度を考えると、3番目には、
もっと身分の高い人が来るであろうはずが、
下級官吏の人麻呂であるということは、

日本では古来から、身分や家柄よりも
才能や能力を重んじる伝統があり、それに基づいて
百人一首が編纂されていることを示しているそうです。


この歌の解釈の多くは、

「山鳥の垂れ下がった尾が長々と伸びているように、
秋の寂しい夜を一人で寝るのだろうか」

といったものだそうですが、

それでは、まったく奥深さを感じませんね。


「あしびきの」とは、「足引き」であり、
足を引きずるような、険しい山道を表しています。


なので、上の句は、
「なかなか辿り着けないような深い山奥にいる、
山鳥のしだり尾(長く垂れ下がった尾)」
と読み取れます。


下の句の、「ながながし夜」は、
「長い長い夜」のことで、

「ひとりかも寝む」は、
「一人眠れない夜を過ごしています」


天才歌人の人麻呂が、夜中眠れずにいるということは
歌の創作をしていたからに違いありません。


「骨折ってようやく辿り着けるような山奥にいる、美しい山鳥」
の意味するところは、

良い歌を詠もうと悩みに悩んだ末に
見つけることができるであろう、素晴らしい歌の表現のこと。


人麻呂は、美しい歌の表現に辿り着こうと、
一人悶々と、眠れない長い夜を過ごしている。

つまり、考えに考え抜いて、「ひらめきを得る」までの
創作過程を表したものなのだそうです。


人から「天才」と呼ばれる人麻呂でさえも、
新しいものを生み出すときは、
このように眠れぬ夜を過ごしながら、
全身全霊で取り組んでいるわけです。


身分の低い人麻呂の歌が三番目にきていることは、
身分よりも才能、そしてその才能は、真剣になって打ち込む
「努力の先」にある、ということを、
百人一首は伝えたかったのではないでしょうか。


この歌は、歌人たちが一つ一つの歌に全精力をかけ、
深い意味を詠み込んでいるのだということを
教えてくれています。

ねずさんの 日本の心で読み解く「百人一首」 より参照。)


この解説を読んで、一番歌のところでも紹介させてもらった、

日本人に知られていない天皇のお姿

の中で抜粋した、現在の上皇様が即位中のときに
たくさんの御製をお詠みになっていることを思い起こしました。


そこに書かれていた文章を、ここにも載せておきます。
「天皇家150年の戦い・日本分裂を防いだ”象徴”の力」
P188-193 より。


平成に入ってから、天皇陛下は戦争に関わる
数多くの御製をお詠みになっている。

皇太子時代のお歌にも、戦争に関わるものがないわけではないが、
御即位後は怒涛の勢いと形容したくなるほど、
戦争に関する御製が増えた。

。。。(14の歌の紹介)

陛下は、それだけ常に、原爆や沖縄や戦没者やその遺族のことを
お考えになっているということなのだ。


なぜなら、歌を詠むというのは、
心を集中して自分の言葉を紡いでいく、
非常な精神力を要する営みだからだ。

歌は思い付きでは詠めないし、忙しくても詠めない。


自分の心を正確に表現するのが歌というものだから、
これだけ戦争の歌を詠み続けられているというのは、

原爆や沖縄や、戦没者や遺族にどう向き合ったらいいのか
ということを、お忙しい中でもずっとずっと
思い続けていらっしゃるということを意味する。


苦労した国民に向かい合う。
苦しみや悲しみの話をひたすら聞く。
これは、実は皇室が努め続けてきたことである。


「苦しみや悲しみを共にする」と、言葉で言うのはたやすい。
だが、実際に苦しむ人と向かい合うのは
大変な労苦を伴うことだ。


陛下は、戦没者や戦没者遺族と向かい合うという形で、
戦争という問題をご自分で引き受けてこられたのだ。


百人一首の時代の天智天皇から、現在に至るまで
千年以上もの間、天皇陛下は代々
大変な精神力をかけて、歌を詠んでこられ
その時々の思いを綴られてきた。


ただでさえ、日々激務をこなし続けている天皇陛下が
こんなにも歌を詠まれているということは
自分のことを考える暇など一切ない程に

歌を通しても、「おほみたから」である国民と
思いを共有されようと、
この伝統をずっと受け継がれている。


それを思うと、
純粋に、真摯に、尊い伝統を守り抜いている
日本の皇室ってなんてすごいんだろう、と
畏敬の念に圧倒されそうになります。


最後までお読みくださり、ありがとうございます!


これを読んでくださったあなたが、
あたたかな光に包まれて、
毎日を送ることができますように。

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