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かすり傷を経験して、その中から大切なことを学ぶ成長プロセス

1.精神科医としての仕事とマインドフルネスとの出会い

インタビュアー:
まずはバックグラウンドについて教えていただいてよろしいでしょうか。

安藝さん:
精神科医をしています。

インタビュアー:
精神科医というご職業にあって、今回講師養成講座を受けられているのは、なにかマインドフルネスが大切だなと思われたということだと思うのですが、その辺りを教えていただけますでしょうか。

安藝さん:
精神科医としての治療というのは、薬で治す、対話で治す精神療法、社会的な処方で治すといったアプローチがあります。そのなかで私は精神療法のアプローチの重要性を感じていて、患者さんの役に立つものがないかと探していました。そのうちマインドフルネスというのがあるということを知りました。徐々に使われているというのは知っていて、勉強したり、実際に使えないか試したりはしていたのですが、まとまって勉強をする機会がありませんでした。

そのころ、受け持っていた精神疾患を持つ患者さんがお亡くなりになるという事がありました。それはその方にとって勿論とても残念な出来事でしたし、その上、自分がその方をうまくサポートできなかったという思いで、自分自身が苦しくなりました。次にこういう患者さんにあったときに助けになる精神療法を探しているうちに、マインドフルネスの講座を受けに行ったところ、そこで気づいたのは、何よりまずは自分自身についてのことでした。

自分は、うまくやらないといけないとか、人より優れていないといけないという思いが強くて、それに縛られていることに気づいたのです。先の患者さんが苦しまれていたこともそうだし、自分自身も苦しみに縛られているということに気がついて、マインドフルネスを学ぶことで、患者さんにも自分のためにも役に立つのではないかと思ったのです。

そうして様々な講習に出た中の一つがMBSRで、講師養成で正式な資格も取れるのであれば、自分の出来ることを広げていきたいという思いで参加しました。

2.体験重視のMBSRで、何もしないことの大事さに気づく

インタビュアー:
MBSRというプログラムを体験されて、ここまでのところどのような感想をお持ちでしょうか。

安藝さん:
私は、もともと理論から入るタイプなので、プログラムで理論が明確に示されているほうが、受け入れやすい傾向にあります。私が最初にマインドフルネスに触れたプログラムは、その辺りの理論を明示するタイプのものでした。そしてその後にMBSRを受けたのですが、こちらは体験重視だと感じました。自分には、理論が明示されたプログラムを先に受講した、というこの順番が合っていたのだと思います。これが逆だったらもしかするとうまくマインドフルネスにうまく馴染めなかったかもしれません。

ただ、最終的には、この体験重視というのがマインドフルネスの醍醐味だと思います。マインドフルネスを学び始めた頃は、自分が伝えるときにも理論を多く伝える傾向にあったのですが、MBSRに触れたあとは、理論を伝えるというよりは、一緒に座って、こうやって練習を続けてみましょう、そして経験をシェアしてみましょう、というような伝え方をしています。マインドフルネスに触れていくのは、その人によって適した順番があるとおもいますが、最終的に行き着くところはこの体験のところだよね、という気はしています。

私は、これまで、自分の体や内側の声をしっかり聞いてあげるということが少なかったように思います。それが、昨年11月のAmir先生の講座を受けて、人生の中における豊かな経験になったなと感じます。何かを得たいと思ってMBSRに参加したんですが、結局、何もしないということが人生にとって如何に大事なことなのか、ということを学びました。そうして人生が充実してきていると感じています。

3.MBSR講師養成は、かすり傷を経験しながら、大切なことを仲間と一緒に学ぶ成長プロセス

インタビュアー:
前回インタビューした受講者Aさんからは、今回のIMA/IMCJの講師養成は、先生が知識を教えていくと言うより、体験から学んでいくというスタイルだというお話がありました。ご自身が、いま教えるところを学び始められて、どのように感じられていますか。

安藝さん:
受講者の立場としては、通常、先生の上手なガイドを聞く機会しかありません。たとえばYouTubeでガイドをきくとすると、自分にあわないものは聞かずに他の音源を選ぶことも出来ます。それが、今回の講師養成では、お互いにペアになって練習を行うので、そうもいきません。

最初はみんな未熟なのですが、まずはやってみるというスタイルなので、完成されていないガイドを受ける機会もあります。必ずしもその人が上手か下手かは別にしても、自分にあわないというケースもあって、例えばそういうボディスキャンのガイドをうけると、ボディスキャンをやるのも辛い体験になります。逆に言うと、自分がガイドをする場合にも、相手を苦しめる可能性がゼロではないということです。それを体験して、自分がどういうガイドをすべきなのか、というのを考えるきっかけになりました。

お互い未熟な状態で練習をして、うまくいかないという体験もすることで、幅が広がる感じがします。このプロセスを経て、自分なりのイメージを作り上げていくことができるように思います。これが、先生から、バシッと決められたものを提示されると、幅がなくなって面白みもなくなるように感じます。

ひな鳥が口を開けていたら親鳥が餌を全部入れてくれるというようなスタイルではなくて、お互いにかすり傷を経験をしながら、一緒にレベルを上げていくというような感じです。探索しながら学んでいくというのが、自分自身のこれまでの学びに少なかった部分なので、新鮮で楽しんでいます。

インタビュアー:
大怪我しないように安全な範囲で、お互いかすり傷を負いながら身体で学んでいくことで、本当に安全で本質的なものを体得していくというのは大事な体験ですね。

4.医療における今後のマインドフルネス活用についての期待

インタビュアー:
今後、精神科の領域では、どのようなところでマインドフルネスが活用されていくとお考えでしょうか。

安藝さん:
私自身としては、まずは自分に近い経験した方からお伝えしていきたいと思います。日本文化の特徴で、周りの方を気にして、自分をおろそかにしがちで、苦しくなっているような方々です。そういう方々が、気持ちを取り戻して、前向きに生活しやすくなるように慣ればと思います。

そして、そういうところのサポートをしたいと思う人が集まると、精神科領域でどういう場面で活用できるのかということもより深く考えることができると思います。たとえば、一度お仕事を休まれた方が療養後に仕事に戻っていくときに行うリワークの場面で、どういう心の持ち方をするか、といった場面でも活用できると思います。日本では十分なトレーニングを積んでマインドフルネスのコースを提供できる人はまだ限られていると思いますし、医療の中でエビデンスに基づいて使っていけるものも少なかったのではないかと思います。

今後、MBSRを提供できる人が増え、医療現場で徐々に使われていくと、日本人に対しても効果があるかのデータが出るようになっていって、より注目が集まるようになるのではないかと思います。

現実的に使われやすいところでは、リワークや、再発予防、発症予防という領域だと思います。このままいくと精神疾患をわずらってしまいそう、という人に予め使っていく。そういうところに、専門性をもつ精神科医や心理士が一緒に組んで行くといいですね。

インタビュアー:
ある若手研究者の方が、日本ではまだMBSRを提供できる講師が少ないが、この数が増えると研究の事例が増えて、日本におけるMBSRの評価も変わってくるのではないか、とおっしゃっていました。

安藝さん:
海外と日本では、効果の測定に使うスケールのとり方や、疾患の診断についての基準がちがったりもするので、日本の中で実際にそのような検証が行われるというのは、やはり意味があることだと思います。

5.同じ受講者の専門家でタッグを組んで医療現場へのマインドフルネスの適用を考えていく

インタビュアー:
今回の1期生の方は医療関係の方が多くいらっしゃいます。私はこれまで一人で海外に行くことが多く、学びを継続するのに苦労したり、それを分かち合う人も少なかったので、一緒に学ぶことの大事さを感じています。

安藝さん:
先程の、マインドフルネスをどう医療の現場で使っていくのか、というあたりの話も、今回の受講者の中には心理士の方も私以外の精神科医の方もいますので、みんなで一緒にグループになって、検討もしていければいいなと思います。一緒にそういうことを話せる仲間がいるというのはいいですね。人数が多すぎて誰が誰だかわからないというのではなく、同じ1期生の精神科の誰々さんと一緒に理念について話そうとか、声をかけられる相手がいることはとてもいいことですし、今私の住んでいる関西にも講師養成の受講者の方が何人かいらっしゃるので、地理的に近いところで今後先々コースを開講される方がいらっしゃれば、お互いに受講者の方に行き来してもらったりもできるかなと思っています。

インタビュアー:
これからも一緒に学びを続けていきましょう。本日はありがとうございました。

MBSR講師養成にご興味のある方は以下より↓

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