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別府モデル【私の個別避難計画4/5】

進まない「個別避難計画」の策定

 総務省消防庁の資料によると、2020年(令和2年)10月1日現在、つくば市における「個別避難計画」の策定状況は、「一部策定済」です。
 全国的に見ても、「個別避難計画」の策定は進んでいません。
 高齢者や障がい者など、災害時に支援が必要な方の名簿を「避難行動要支援者名簿」と言いますが、全国の1741団体(市区町村)のうち、「避難行動要支援者名簿」を策定した団体(市区町村)の数は1727団体(市区町村)であり、策定率は99.2%にも上ります。しかし、「避難行動要支援者名簿」を策定した1727団体(市区町村)のうち、「個別避難計画」を全部策定した団体(市区町村)の数は167団体で、策定率は9.7%にとどまります。

全国の「個別避難計画」の策定状況 総務省消防庁の資料を基に作成

 「個別避難計画」の策定が進まない原因としては、

  • 高齢化が進み、身近に支援を頼める若い人がいない。

  • 支援者として「個別避難計画」に名前を載せることへの心理的な負担。

  • 自治体が「個別避難計画」作りを地域に一任してきたため。

などが考えられます。

 そこで、「個別避難計画」策定の先進事例として注目されているのが別府モデルです。大分県別府市は、南海トラフを震源とした巨大地震と、これに伴う津波による被害が懸念されています。


別府モデルとは

 別府モデルのポイントは、高齢者の日常のケアプランを作るケアマネジャーや、障がい者のサービス利用計画を作る、相談支援専門員の福祉専門職に、防災研修を行った上で、「個別避難計画」の作成に参加してもらうことです。

別府モデルの概念図

 別府モデルにおける「個別避難計画」作成の概要は、以下の通りです。

  1. 支援が必要な人(高齢者や障がい者など)と福祉専門職(ケアマネジャーや相談支援専門員)とが話し合い、災害時にどんな助けが必要かを洗い出します。

  2. 支援が必要な人と福祉専門職が地域の自治体や自主防災組織の会合に出席し、必要な支援を告げます。そして、地域側と共に、どうすれば避難できるかを検討し、「個別避難計画」を作ります。

  3. 「個別避難計画」は、本人の同意を経て、関係機関で共有されます。助けられる側と、助ける側の橋渡しは市が担います。

 別府モデルを基に、兵庫県は18年度から同じ取り組みを始め、20年度から全市町に広げています。また、国が昨年度に設けたモデル事業には、34の市区町村が手を挙げました。18の都府県がこれをサポートする立場で加わります。別府モデルを、地方から全国に広げる動きが出ています。

イラスト:illustAC

 今後、つくば市は、「個別避難計画」の策定が既に完了した方の再認定を含め、ケアマネジャーなどの活用を検討していくとしています。また、避難支援については、福祉専門職や民生委員の協力を得つつ、最終的には、市の職員が直接訪問することを検討しています。

つくば市役所


大切な地域の人たちとのつながり

 「個別避難計画」の策定は、高齢者や障がい者を災害から守るために大変有効です。ただし、災害時に支援者がそばにいるとは限りません。ご高齢の方や障がいをお持ちの方は、平時から地域の防災訓練やお祭りに積極的に参加し、近隣の人たちとの交流のなかで 協力を頼めるような関係づくりをしておくことも大切です。私も自治会の防災訓練に参加しています。

イラスト:いらすとや

 災害から災害弱者を守るために最も必要なのは「心のバリアフリー」です。「心のバリアフリー」とは、バリアを感じている災害弱者の身になって考え、行動することです。避難所までの避難経路は、ハザードマップ上では安全であっても、災害弱者にとっては、道の小さな段差でさえもバリアになります。
 平時にできないことは、災害時にもできません。助ける側の人(支援者)は、ご高齢の方や障がいをお持ちの方を見かけたら,災害時だけでなく,日頃から,ちゅうちょせずに,「心のバリアフリー」を働かせて,「何かお手伝いできることはありますか?」と声をかけてみましょう。私は、目が不自由な方の誘導を、3回ほど行ったことがあります。完ぺきではなかったと思いますが、なんとかできました。

イラスト:いらすとや

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
 来週は「避難経路の安全確認」について書きたいと思います。来週もよろしくお願いいたします。 


参考文献など

朝日新聞.(社説)「阪神」27年 防災と福祉を一体で.2022年1月18日.(参照日2022年6月18日)

朝日新聞.東日本大震災3.11震災・復興 災害時、高齢者や障害者どう避難? 個別計画の作成、進まない事情.2022年2月1日.(参照日2022年6月18日)

産経新聞.障害者・高齢者・ベビーカー…遠慮せず「何かお手伝いできることありますか?」 配慮の指針「ユニバーサルマナー」.2017年10月31日.(参照日2022年6月18日)

産経新聞.高齢者避難計画250万人分策定 自治体支援 5年間で180億円 小此木防災担当相.2021年3月12日.(参照日2022年6月18日)

政府広報オンライン.知っていますか?街の中のバリアフリーと「心のバリアフリー」.平成30年(2018年)12月10日.(参照日2022年6月18日)

総務省消防庁.避難行動要支援者名簿の作成等に係る取組状況の調査結果.報道資料,令和3年(2021年)3月30日.(参照日2022年6月18日)

つくば市.障害がある人と支援を行う人のための防災ガイドブック.(参照日2022年6月18日)

つくば市.避難行動要支援者名簿.(参照日2022年6月18日)

つくば市議会だより TSUKUBA-28.要支援者の「個別避難計画」作成は丁寧に.2021年11月1日,No.168.(参照日2022年6月18日)

西日本新聞.高齢者の避難、再び課題に 熊本豪雨、犠牲者の7割は70歳以上.2020年8月4日.(参照日2022年6月18日)

日本経済新聞.災害避難の「個別計画」進まず 作成済み市町村、1割未満.2021年5月18日.(参照日2022年6月18日)

NHK ハートネットTV.災害時の高齢者・障害者の避難 「2倍の死亡率」を繰り返さないためには?.2018年3月30日.(参照日2022年6月18日)

NHK ハートネットTV.【特集】東日本大震災10年(1)  逃げられなかった“要支援者”.2021年3月25日.(参照日2022年6月18日)

NHK ハートネットTV.【特集】東日本大震災10年(2)  誰もが助かる地域をめざして.2021年3月25日.(参照日2022年6月18日)


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