運命か、偶然か

髪を切って少し軽くなったからか、朝から出かけたくなった。

相変わらず梅雨にもかかわらず気持ちの良いカラッとしたお天気が続いていた。あてもなく家を出て歩き出した。

木々は新緑を宿し、まだ幼い葉は眩しい若草色を放ちながらキラキラしていた。紛れもなく初夏だった。時は確実に進んでいた。

気づくと、夫が昔一人暮らしをしていたマンションの近くまで歩いていた。

交差点の角に位置するそのマンションは夫が社会人になってからずっと住んでいた場所だった。お互いまだ社会人数年目で付き合い出して、お互いに忙しい業界に身を置きながら、なんとか時間を抽出して、少しずつ育んで行った関係だった。都会のど真ん中にありながら、そのマンションに二人でいると全ての喧騒が消えていくようだった。もう遥か遥か昔、違う人生でのことのようだった。

そんなことを思い出しながら歩いていると、彼がよく通った珈琲屋さんが見えた。その珈琲屋さんは夫が毎朝仕事に行く前、もしくは終わった後に立ち寄る場所だった。一見強面で下町の血が流れる昔気質なマスターは言葉少なで誰に対しても気さくに話すような人ではなかったが、情に厚く、私は彼のお店にいると不思議と落ち着いて好きだった。そんなマスターの元に集まる常連さんのコミュニティが出来上がっていて、みんなでマスターの実家のある深川の例大祭ではみんなでお神輿を担ぐのが恒例となっていた。

結婚が決まった年は三年に一回の例大祭が行われる予定の年でもあった。私は私で別の友人を介して深川のお祭りとは縁があり、お神輿を担ぐ予定だった。

お互いに同じお祭りでお神輿を担ぐ予定だということがわかったとき、何も知らない私ははしゃいで「わー、お祭りで会えるね!一緒にかつげるかもね!」と言った。

もう過去に2回お祭りに参加した彼は、

「何言ってんの。富岡八幡宮のお祭りがどれだけの規模か知ってる?120基もお神輿があるんだよ。一緒にかつげるどころか、会えるかさえもわからないくらい人がいっぱいいるよ。」

「えー。そうなの?つまんないのー。」

なんていう会話をして、お祭り当日を迎えた。

夫はマスターの家で準備をさせてもらい、私は私の友人の家で法被に着替えた。

そしていざお祭りが始まり、集合場所にいくと、私が担ぐお神輿と彼が担ぐ御神輿は前後の関係にあり、あっけなく会えてしまったのだ。

「やっぱり私たち、運命だわー」と私が言うと、

「ただの偶然でしょ。」と彼は笑った。

そんなことを思い出しながら、気づいたら私は珈琲屋さんの扉を泣きながら開けていた。

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