ぎっくり腰

次の日は梅雨らしいどんよりと重く垂れ下がる雲が重苦しい日だった。

朝から、来客の準備をする。

不思議なウイルスの時代で家族だけのお葬式だったため、連日色々な方々が個別に挨拶に来てくれていた。

毎日、あいも変わらず何も構わずに家を散らかす子供達に苛立ちながら、怒る気力もなく、ゲームをする息子の前をこれ見よがしに掃除機をかける。あと数時間でお客さんが来ても恥ずかしくない状態にしなければ、と頭の中は片付けモード全開だった。ソファの背もたれの部分のクッションを正そうと、クッションを持ち上げた瞬間、グキッと何か腰のあたりで変な音がした。

えっ。。。なに。。。

かがんだまま、動けなくなった。しばらくして腰を立ち上げて立とうとすると、今まで感じたことのない激痛が全身を走った。

「痛い、、、、、」

今度は直立不動の状態から動けなくなり、しばらく立ち尽くした。

ロボットのように立っている私をみて、子供たちはようやく異変に気づいた。

「ママ、大丈夫?」

「わからない。やばい、多分ぎっくり腰だ、これ。」

第二子を妊娠中に軽いぎっくり腰を一回経験したことがあったが、このレベルの痛みと動けなさは初めてだった。

立っている状態から歩こうとすると、足全体に激痛が走り、腰を曲げた。腰を曲げて歩いてみたがそれも辛く、四つん這いになって這って動くしかなかった。

妊娠中にぎっくり腰になった時、産科クリニックで鍼をさしてもらい、だいぶよくなったのを思い出した。

「これはなるべく早く鍼を打ってもらったほうがいいな。」と思い、夫が腰痛に悩まされていた頃通っていた鍼灸院を思い出した。

とりあえず携帯までなんとか這ってたどり着き、鍼灸院に電話をした。

私も夫と何度か通ったことのある鍼灸院の朴先生は、相変わらずの明るい声で「はい、朴です。あー、XXさん、こんにちは!」と独特の明るさと抑揚で応答した。私は事態と明るさのミスマッチに困惑しながら、ぎっくり腰になったことを伝えると、

「あー、ぎっくり腰ですかぁ、大変ですねー、今すぐ来て下さい。はい、お待ちしておりますー、はい。」と一方的に伝えられ、切られた。

こうして朴先生のところに行くことになったが、歩くことがままならないなか、どうやって辿り着けるのか検討もつかなかった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?