痛み

「着替え終わりました。」とカーテン越しに伝え、診療台に横たわった。

「さ、さ、うつ伏せになってください。」と入ってくるなり鍼のパッケージを開けながら、通常の診察に進んで行った。

朴先生は私の腰を触診しながら、「あぁ、ここですね〜」といいながら、鍼をさした。

その瞬間、強烈な電気が腰から太ももの裏にかけて走り、

「痛い!!!!!!!!痛い痛い痛い、痛い!」

自分の叫び声にびっくりしながら半狂乱状態で叫び続けた。

「はい、はい」と朴先生はやめる様子もなく、淡々と、あっという間に鍼を
さして行った。

全ての鍼をさし終えると、「はーい、じゃあこのまま寝ててくださいねー。」と言って人体骨格模型の隣にある自分の机に戻り、いつも通り中国語の医療書物を読み始めた。

赤外線治療器の温もりを腰に感じながらぼーっとしていると、右目から涙が流れた。その涙が呼び水となり止めどなく涙が流れ出した。痛みと、虚しさと、惨めさと、不安と、哀しさと、言葉にならないたくさんの感情がぐちゃぐちゃになり胸を締め付けた。このまま死ねたらいいのに。夫は死ぬ時、どんな感じだったのだろうか。痛かったのだろうか。苦しかったのだろうか。私がもう少し早く気づいていたら救えたのだろうか。

「そんなに泣かないんですよ。」と朴先生は啜り泣く私の声を聞いて言った。

「 XXさんは朝起きたら冷たかったんですね。心臓ですね。そういう死に方は苦しくないんですよ。寝ていて、気づいたら死んじゃってた、という感じです。彼のタイミングだったのです。」

まるで私の頭の中の声が聞こえていたかのように、私の沈黙の投げかけに勝手に答えていた。

「大丈夫です。死んでもいますから。」独特のイントネーションで朴先生は言い切った。

この人は何を言っているんだろう、と私は空っぽの目で彼を見つめたが、その独特の発音のせいか、妙に真実味を帯びていた。



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