手巻き寿司

帰ると、大学時代の友人のRが子供達の面倒を見ながら夕食の準備をしてくれていた。

Rとは大学、社会人と色々とよく遊び、よく飲んだ。結婚が決まり、夫の留学先のロサンゼルスで結婚式を挙げたときには大学時代の仲間を大勢引き連れて結婚式に参加してくれた。

それ以来、夫も含め男女ともに仲良くなったグループでそれぞれが子供が産まれてからも子連れでお祭りに参加した遊びに行ったりと楽しい時間を過ごしていた。

元々この日はその仲間で集い、夫に献杯を捧げる予定だった。ぎっくり腰ゆえに断ろうとRに連絡すると、

「奈美は一歩も動かなくていいから。全部やるから大丈夫。早めに準備に行くね。」と言い切られ、会は決行されることになった。

断ろうと思っていたのはぎっくり腰だけが理由ではなかった。弱りきってボロボロで惨めな自分の姿を仲間に見られるのが怖かった。ただただ隠れて暮らしていたかったが、Rはものすごい決意と勢いでやってきた。私はそれ以上断る気力もなく、そのまま鍼に行った。帰ると本当に準備にきていた。

「おかえり。」とRは我が家のキッチンで手巻き寿司の準備をしながら言った。

170センチと背の高い彼女にとって我が家のキッチンは手狭そうだったが、大きな存在が家にいることに不思議な安心感を憶えた。

「寝てな。みんなあと1時間くらいで来るって。」とRが言うので、そうさせてもらった。

自分の家なのに、仕事を丸投げしておもてなしもせずにただ横になるのは忍びなかったが、それしかできなかった。

「わかった。ごめんね。何もできなくて。」

そのうちKとNが現れ、手巻き寿司の会が始まった。

パパと同じような年代の男性の存在が嬉しかったようで、娘は終始はしゃいで、KとNにまとわりついていた。おんぶしてもらったり、抱っこしてもらったり、戦いごっこをしてもらったり、無邪気に健気に、いじらしくパパを模索する娘が不憫だった。

思いがけず久しぶりに賑やかな我が家はまるで見知らぬ誰かの家のようで、ずっとソファに寝たまま、ただただみんなを眺めていた。

みんなは次々と私にお寿司のネタやら飲み物やらを準備してくれ、申し訳ないやらありがたいやら複雑な気持ちでいっぱいになった。

私が何ができてもできなくても、ただ一緒にいてくれる友人がいることがとてもありがたく、手巻き寿司を頬張りながら、胸で湧いた涙が目からポロポロとおち、喉を詰まらせながらお寿司を飲み込んだ。


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