【小説】止めたって待ちぼうけはどうせ私。
ラリーを止めた。だから私と彼女のLINEのトークルームは今、彼女のメッセージで終わっている。
【だからやっぱりさ最高だと思うのよバケツはさ】
最近、なんとかっていうプリン専門店が人気で、そこのプリンにハマっている彼女。私は行ったこともないからよくわからないのだけど、メニューにバケツプリンとかいうのがあって、それを褒める内容のメッセージ。
心底どうでもいいと思った。……いや、いつもならどうでもいいなんて思わなくて、きっと【私も食べてみたい】だとかって心の底から思いながら返事をしていたところだけど、今は本当に心底どうでもいい。
このメッセージの直前、彼女はこんなことを送ってきた。
【どっちゃり食いたいのよぷりんぷりん(^ω^)】
おい顔文字ついてんぞ、一体誰に送ってんだ?
いやわかっている、彼女はさっきまでお気に入りのYouTuberのライブ配信を彼女の友人とLINEしながら見ていたわけで、そのノリを引きずって私へのメッセージに顔文字をつけたのだ。
私とLINEするとき、彼女は顔文字を使わない。
……彼女に腹を立てている理由、小せえな、と思ったか?
それだけで。ただそれだけのことで止めたのかおまえは、それまで軽快に続いていたラリーをって。
幼稚だと言われれば頷くしかない。これで私はもうすぐ三十になる女である。そんな女が、彼女の「友人向けの顔」を少し目の当たりにしたぐらいでこの態度。
ぶっちゃけ自分でも思う、これこそ心底、心底面倒な女ってやつだ。こんな面倒な女とよく付き合えるもんだと彼女に尊敬の念を抱く。……まあ彼女はこういうとき、腹を立ててLINEのラリーを自分から止めておいて、そのくせ彼女からの追いLINEを待っている浅はかな女――つまり私に、決して追いLINEなどしてこない女だった。私が眠いのを我慢して我慢して我慢して、待って、だけどいくら待ったところで。彼女はとうに夢の中。
そんな性分だから彼女は、私と付き合っていけるわけだ。
それだからラリーを止めたって、待ちぼうけはどうせ私なのだ。
わかっているくせにそれでもこれを繰り返す私の頭の悪いことよ。仮に自分の友人が私と同じことをやっているだなんて打ち明けてきたら、なんだそれ馬鹿だな、あんたそんなことやってんのみっともないからやめろよだとか、そもそもそんな顔文字つけてきたとかつけてこないとかで怒るかよ中学生高校生でもあるまいしってドン引きだった。
けど、人間って不思議なもので、自分のことになるとどうしても、いわゆるあれだ。心がまるで言うことを聞かない、自分のものじゃないみたい。
ほーんとうに、どうしようもない。
◇
翌朝、彼女に【おはよ】とLINEした。すぐに既読がついて返事がきた。
【おはよ~おはよ~】
やる気のねえLINEだな。友達にはもっと愉快な感じのメッセージ送ってんだろ、顔文字だの絵文字だのつけてさあ、私とこうしてLINEしてるくせに同時並行で別の子ともやってんでしょ、それでまた近いうちに私に間違って顔文字でもくっつけてくるんだろそうに決まってんだろ馬鹿。
……それでも。
【ね~おはよ見てんでしょ?】
【見てんだなおい??】
【こら既読をつけなさい見ているね??】
前日にやり取りできなかった分を埋め合わせるみたいに、本当は昨日こういうことをやってほしかったのに、私が諦めてLINEした途端飛びついてくる彼女のことが、どうしようもなく。どうしようもなく。どうしようもなく。……ああ、やだやだ。
今日の待ち合わせは遅刻してってやろ。五分ぐらいスマホと睨めっこでもして待っとけ。
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