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「Q」第五話

🌟こちらは、漫画原作として投稿した「Q」という物語のつづきです。

【あらすじ】

 姉と二人暮らしをしている啓太には、他の人に見えないものが見える。

 父を亡くした後に現れた謎の生物、「Q」を連れて新たな高校に編入した啓太。
 ある日、欠席を続けるクラスメイト・鈴子の家に行くと、彼女の部屋には、いつも見えるものとは比べ物にならない、嫌な気配の大きな「あれ」がいた。
 Qと啓太がピンチに陥ったその時、突然現れたのは謎の美しい男
 男がその場を落着させると、眼鏡を掛け、担任教師の日山の姿となった。

「僕は君の担任教師で、『神様』です」

 八百万の神様を辞めたいという日山は、自身の後継者を育てるため、「神」でも「鬼」でもない謎の生き物を扱うことのできる人間をクラスに集めたのだった。


《ここまでのお話は、こちらから》 
 ●第一話 ●第二話 ●第三話 ●第四話


《第五話》

 山の中で行われることとなった課外授業、もとい、日山を先に探し出したチームが勝ち、という「かくれんぼ」。

 宙に浮いた黒板に書かれた、それぞれのチームメンバーは、このとおりだ。


《Aチーム》
 沖本忍(&烏)
 水越間佐和(&蛇)
 八尾鈴子(&タコの姿のキャサリン)

《Bチーム》
 府木啓太(&Q) 
 風戸真之介(&犬の姿のケンタロウ)
 鼓李帆(&うさぎ)


「先生! このチーム分けおかしいです! どうやって私たちのチームに邪気の怪物と戦いながら先生を探せっていうんですか⁉」
 真っ先に声を上げたのは、李帆だ。

「どういうこと?」
 同じチームとなった真之介に顔を向けると、にっこりと笑顔が返ってくる。

「李帆が怒るのも当然だ。俺のケンタロウも、李帆のうさぎも、『攻撃型』じゃないからな」
「は?」

「ほら、朝練で『邪気』を倒しているのも、ほとんどが忍の烏か佐和の蛇だろう。俺たち個人の身体能力にそこまで差がなくとも、相手が『邪気』となれば補助がメインなんだ。ケンタロウも李帆のうさぎも、単独で『邪気』を倒したことはないからな。はははは!」

 いや、爽やかに笑っている場合じゃないだろう!?
 日山が結界を解いたら、どうするんだ? 褒章がどうとか言う前に、俺たちは確実に奴らに襲われて死ぬ。

 この学校に編入してから、自分の命を守ることとQのことに精一杯で他のことを気にする余裕がなかったが、確かにいつも好戦的なのは沖本と水越間だった。鈴子もきっと、キャサリンが元の大きさだった時はそうだったのかもしれない。

 真之介の傍らにいるケンタロウは、一見狼にも似た強そうな犬の姿ではあるが、よくよく見てみると、舌を出して息を切らせながら円らな瞳でこちらを見つめている。これは狼やドーベルマンというよりも、むしろ中身はゴールデンレトリバーだ。

「これ、絶対、フリスビー待ちだろ!」
 心の中でつっこむと、ケンタロウは尻尾を振った。


「まあまあ。君たちなら大丈夫だと、私は信じていますよ。死なない程度に頑張ってくださいね。……それでは、『かくれんぼ』開始です」
 日山は李帆を宥めるようにそう言うと、迷彩柄の服がそのまま森に溶け込んでいくように姿を消した。

「それじゃあ、私たちはあっちへ行くわ。これは勝負だから恨みっこなしよ」
「……勝負には運も必要ということだな」
「李帆、ごめーん! 私、キャサリンを元に戻したいから……、今回は助けなくても許して!」

《Aチーム》の沖本、水越間、鈴子の三人は、俺たち三人をあっさり置いて、日山の消えた西側の森へと進んで行く。すぐに三人の姿は見えなくなった。


「よし。こうなったら、一刻も早く、この山から下りて逃げることを優先しようぜ!」
 俺は李帆の足元で飛び跳ねていたQを両手で包んで回収すると、こう提案した。

 日山が消えた今、きっと結界も解かれている。『邪気』の奴らがやって来るのも時間の問題だ。
 あいつらは、人間の攻撃はまったく通用しないのに、向こうのでかい図体から繰り出される力はこちらにダイレクトに影響を与えるという、向こうにとって都合の良い条件でできている。

 真之介のケンタロウ(犬)、李帆のうさぎ、俺のQ。
 戦闘力が決して高いと言えない俺たちの選ぶべき最善策は、「逃げること」だ。


「え、逃げるのか? 俺はケンタロウを成長させたい!」
 真之介からは思わぬ反応が返ってきた。

「お前も補助系なんだろ? どうやって『あいつら』を倒すんだよ! 倒す前にケンタロウも俺たちもやられちまうだろ! 避けるだけなら、俺達でもなんとかなる。逃げるのが普通だろ! 李帆もそれでいいだろ!?」

「……嫌」
「え?」
「府木君、私、やっぱり、もう逃げたくない」
「李帆、何言ってんだよ!」
「キュキュ、キュー!」
 俺の手の中で、Qが何か訴えた気に鳴いている。

 逃げたいと思っているのは俺だけなのか? 李帆も真之介も、その場から動こうとしない。

──その時だった。

「グルルルル……」
 低い地響きのようなうめき声とともに、『奴ら』が現れた。

 キノコが急にいくつも生えだしたと思ったら、それが徐々に大きな塊になり、やがて黒い四つん這いで歩く人型のような形になった。ゴリラとも、サイとも、地底人とも取れるそれは、三体、五体、とだんだんと数を増してゆき、俺たちの周りを取り囲む。

「……これ、もう逃げれねえぞ」
 俺たちは後ずさりする。

「だから……、もう逃げないって言ったでしょ」
 李帆はひとり、前へ出た。

「キュー!!」
 突然、手の中から逃げ出したQが、李帆の左肩に掛けていたスクールバッグを目がけて飛んでいった。
 鞄のジッパーの引手金具に食いつくと、勢いでジッパーを開けていく。

 すると、そこから李帆のうさぎが飛び出した。


(つづく)

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