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【映画鳩】ボーはおそれている

好きな映画に「ミッドサマー」を挙げるタイプの鳩です。最初は「ヘレディタリー」を、トレーラーの映像美に釣られて観たのですが、あっちは普通にホラーなのでね……怖いネ……(ホラーはあまり好きではない)。でもミッドサマーは好き。まあともかくそんな感じですので、今作「ボー」は、情報が出た当初から待ち構えていました。万全の状態でアリアスター監督に嫌な気持ちにされに行く覚悟を決めていざ映画館。


(注:以下ネタバレあります)


内容は、今までの作品の中で一番マイルドでしたね。ボウの人生を振り返りつつの旅路。「息子の実家への旅」が今回の主軸だということだけは情報を仕入れていたのですが、思ってたのとだいぶ違った。旅路ったってこれじゃあもうほぼ強制である。
要所要所で必ず様子のおかしいことが起こってはいるのですが、特段変わったところはない(監督に慣らされてしまってるだけかも……)ため、淡々とボウの旅を見守っていきます。いくつかの章に分かれており、ひとつひとつたまに長いなと感じる部分もあれど、全体的には集中力を散らせるようなところはなかったです。あとで3時間近くあったのだと知って驚いた。

ボウの人生を戻ったり行ったりしながらの追体験。母と子の間の情愛や、そこに生じる呪い。どうにもならなさ。徹底的にボウの視点であるため、ラストシーンも、ああやって終わることに鳩としてはかなり説得力がありました。そう、子にとって、母はああやって見えている。母は母なのであり、絶大な権力であり、情愛であり、呪いであり……。自らが母の子であるという事実からは離れられない。ボウに親和性が高い種類の人間は、エンドロールの間に、ただ諦めのような溜息を漏らすのだと思います。
前作と今作を見て思うのは、この監督の、家庭の中に存在する不和というか、子から見る親の不機嫌への不安感というか、親子間での愛と憎しみというか、そういう部分を描き出すのが恐ろしく鮮やかであるということ。こっちの精神も削ってくるのでやめてほしいと同時に、これを現実味を持って描写しうるというところが恐ろしい。
それを踏まえてボウの母が死ぬ時、顔が潰えるというのも、単なるグロテスクとか衝撃的な死に様というところよりも、それによって母の顔色を伺わなくて良いというボウの潜在的な恐れが現れているんじゃないかなあ。

というよりボウは、どこかの段階で既に死んでいるんじゃないだろうか。あれは壮大な走馬灯なのでは……。まあ完全解析ページ(注:アリアスター監督作品公式ページに必ず現れる付録的解説ページ/ネタバレしかない)なんかを見ると、大変不穏なことが書かれており、最後まで全てが母によって仕組まれているという線もあるのですが……。それはそれで救いがなさすぎる……。

物語としては派手ではない分、評価がまっぷたつに分かれるんだろうなあと見終わって思いました。どうなんだろう。鳩的には★★★☆☆くらい。
ミッドサマーは★★★★★、ヘレディタリーは★★☆☆☆(1.5くらい?)という気分です。
面白くはあった。不穏要素が、不穏ではあるけれどボウをあまり害さない(ボウが勝手に恐れているだけ)なのも、見やすいところなのかも。見終わった後も、鳩はあまり重い気持ちを引きずるような内容ではなかったです。もう二度と見たくない、という感じではないけれど、単純に時間が長いのでそこで再見に尻込みはしそう。
次回作もホアキン・フェニックスと組んで、何か始めているみたいですね。次も大変楽しみにしている。鳩も一緒に地獄を見るから、監督の狂気を思う存分見せてくれよな。


以下細かいこと

  • あのチ……父親(仮)は何!?!?!?!?!? 急にあそこだけぶっ飛んでやらかしてくるので普通にワンテンポ遅れてウケてしまった。何!?!?!?!? あそこが一服の清涼剤的な、気晴らし的なやつですか!? このリアリティラインの引き方がまた悪夢的ですよね。どこが現実でどこがそうでないのかなど、明確に決めて撮っていないのではないかとすら思われる。
    いやまあよくよく考えんでも、医者の家のあたりも森の演劇のところも、すべて少しずつ狂っているし様子がおかしくて絶妙に現実感ないんですけど……あの程度だともうそこまで異常を感じないこちらも悪いのですが……。

  • タイトル「ボーはおそれている」の、漢字を使わないこの幼いような不安感も最高ながら、劇中字幕では"ボウ"表記、タイトルは"ボー"なのも良いですね……。「ボウは恐れている」だと固くて、不安定感が伝わらない。ひらがなの柔らかみともいえる曲線に不安定さを見出しているのが抜群に良いです。英題の訳としてはそのままといえそうですが、この表記を採用したのが素晴らしい。このタイトルを日本語訳したチーム、素晴らしい仕事だと思います。字幕は単純に可読性かな?

  • 芝居の中に入り込むシーン、大道具の雰囲気が面白いなあと思っていたら「オオカミの家」を撮った二人の制作だったらしい。良いタッグでした。紙芝居的な、絵本的な雰囲気がおとぎ話のような感じを演出しており、とても良かった。

  • 森のところで元軍人が襲ってくるところ、ボウの追跡装置をわざと切ってるように見えない? 気のせいかな。

  • ボートに乗って夜空に出た時の開放感と安心感といったら。ボウは唯一あそこでのみ、恐れを忘れたのではないだろうか。観客もあのシーンで唯一、息をつくことができました(追記:違うかも、これを思ったのは、あのお姉さんとセックスした時だったかもしれない。あのシーンでは観客は息をつくことはできなかったが……)。


まだ上映しているところもあるっぽい(2024/3/18現在)。
ボーのおそれを体感したい方は、ぜひ劇場へ。


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