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瀧つぼのおばけ

みなとの田代(たしろ)の奥にあるナミ瀧にこんなおっかねえ話があんだよー
 ざーっと昔、大昔、原の村から一里ほど離れたところにある村の話で、布引山(ぬのびきやま)から流れてくる川がちょうどこの村のあたりでストンと落ちて、でっかい瀧になっていたんだと
 昔からこの瀧つぼには年老いた雄亀が住みついているって云われて、村人はめったに近づかなかったが、ある暑い夏の日に野良仕事につかれた六兵衛と云う男がおっかあと赤ん坊と一緒に涼みに来たんだと、


 さすがに瀧つぼのあたりは涼しくて、六(ろく)兵衛(べえ)たちはおいしく弁当を喰べてしばらく一服しっぺいと、六(ろく)兵衛(べえ)は瀧で釣りをし、おっかあは赤ん坊に乳を飲ませ、木(こ)かげでウトウト昼寝をしていたと、
 涼しい川風に吹かれて、六(ろく)兵衛(べえ)がのんびりと釣糸をたれていたら、水の上を一匹のクモが泳いできて、六(ろく)兵衛(べえ)の足のユビに細い糸をまきつけたんだと、 
 クモはまた水に戻るとツツンと糸を引っ張るもんだから、六兵衛はうるさく思って糸を指から外すと、そばにあったでっかい松の根元につけ替えたんだと、
 するといつのまにか、みるみるクモの糸が太くなり、瀧つぼがザワザワと波打ったかと思うと、ドッシャーンと松の木が倒れてそのままずるずる瀧つぼの底へ引きずり込まれてしまったんだと、


 六(ろく)兵衛(べえ)が「おっかあ逃げるんだー」と、必死に叫んでもおっかあおったまげてしまって、腰が抜けて動けねえ
 その時、滝つぼから真っ赤な目のでっかいばけもの亀がざばーっと現れて、泣き叫ぶ赤ん坊を喰わえて瀧つぼ深く沈んでしまった。
 おっかあはもう気が狂ったように赤ん坊の名を呼び続けたけど、やがて声も枯れ、瀧の音が聞こえるばかり、


 今ではこの瀧も小さくなって大亀の姿は昔の語り草になって、今の人たちは、誰も見ていないが、赤ん坊の供養の碑だけはたんと残ってんだと

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