「イカ王子」とは?9年間のキセキ
東日本大震災をきっかけに、水産への、地元・宮古への情熱が大きく変わった、宮古のエース「イカ王子」。
震災からあと半年で10年が経とうとする今、彼はこの9年間でたくさんの奇跡を生み出してきました。
ここでは、覚悟を決めて王冠をかぶった「イカ王子」の奇跡の軌跡をご紹介します。
(「イカ王子とは何?誰?」と疑問に思われる方は、是非この記事を読む前に、1つ前の記事「イカ王子とは?宮古のエース誕生秘話」をご一読いただければ幸いです。)
驚きの肩書き数
世界三大漁場である三陸の港町、岩手県宮古市にある共和水産株式会社の代表取締役専務が「イカ王子」の本職だ。
しかし、彼のメインの肩書きは、これだけではない。
「三陸王国イカ王子」という彼のトレードマークはもちろん、宮古チーム漁火・会長に始まり、宮古水産ブランド化戦略会・会長、はたまた宮古観光文化交流協会・理事、岩手大学や岩手県立大学の講師まで、ジャンルは多岐にわたる。
その数は、なんと合計で10を超える。
イカ王子と名乗れど、手の数はもちろん10ではなく、たった2つ。
しかし、そのどれに対しても全力で取り組む彼のタフさやバイタリティ、情熱的な姿に、周りの人々は舌を巻き、感動する。
そんな彼が先頭を切って発信している港町・宮古は、夢や希望、そして可能性にあふれているはずだ。
宮古チーム漁火
東日本大震災後に発足した、宮古市内の水産会社の若手経営者4人組の、「宮古チーム漁火」。
イカ王子はその会長を務めている。
このチーム漁火は、震災で打撃を受けた
共和水産、かくりき商店、佐々京商店、佐幸商店
の、4社の経営者たちが、会社を水産業を立て直すために、仕事の分業、取引先やノウハウの共有を協力して行うために、震災後結成された。
面白いのは、みんなそれぞれ得意なことが違うことだ。
一人は財務会計、一人は買い付けの目利き、また一人は生産管理、そして一人は商品開発が強み。
それぞれ得意なことの違う4人が、力を合わせて顧客と向き合う。
4つの会社が寄れば、取引先が豊富になるだけでなく、取り扱う魚種も網羅できる。
その成果は素晴らしいもので、震災前と比較して、4社で合わせて7倍の利益の増加につながった。
チーム漁火での主な開発商品は、2014年11月に発売した「うにいか」を筆頭に、「味付けいくら」、「潮うに」と「いかごろ醤油漬け」を追加した「漁火小瓶4種詰合せ」に及ぶ。
当時の復興大臣から取り組みが評価され顕彰状をいただくほど、彼らの取り組みは高い評価を受け、本物であることを証明したのだろう。
ただ、ここで、1つ疑問が生まれる。
「ビジネス上の繋がりだけが、彼らの絆をこんなにも強くしたのだろうか」
これは、ピンチの時にすがる、家族でも恋人でもはたまた友達や幼馴染でもない、「仲間」という概念が、震災後ビジネスではないところでも生まれていたからこそ、強い絆が築き上げられた。
後継ぎとしての悩みなどを、同世代で腹を割って話す環境が、彼らに居心地の良さや情熱を共有をする時間を与えたのだろう。
宮古チーム漁火は、宮古の水産業に関わる人たちと共に、宮古を温かくて明るいまちにするために、その名の通り、漁火という光を射し込んでいるのだろう。
三陸王国イカ王子プロジェクト
2017年には「三陸王国イカ王子プロジェクト」が、「水産で宮古を盛りあげたい」という想いから始動した。
水産に特化した情熱的なイカ王子を筆頭に、印刷業のプロ、デザインのプロが集まったチームは、
「三陸の当たり前をステージに、三陸の当たり前を誇りに」
をスローガンに掲げて、それぞれの情報発信力や得意分野を活かしながら、宮古の海産物をブランディングしていくために、宮古の水産業に注目を集める新商品を創り出す取り組みを行っている。
地元の人が、地元の当たり前を、世の中の当たり前でないと気が付きプロモーションしていくことに魂がある。
そこで、『大バズり』したのが、「王子のぜいたく至福のタラフライ」であった。
あの人気番組「アメトーーク」の揚げ物大好き芸人の回にて、サンドウィッチマンの伊達さんに、なんと推薦された程のお墨付きのあるタラフライで、長い時はなんと3ヵ月待ちであった人気商品だ。
このタラフライのバックグラウンドもなかなか面白い。
地域で消費される水産加工品を創りだすのは、水産の豊富な地域では、至難の技だ。
なぜなら、水産物が豊富な分、地域の方々は自分で魚介類を捌くことができ、そもそも鮮度の高いうちにゲットすることができるため、一手間加える「加工」の過程が必要ないからだ。
そこで、イカ王子が目をつけたのが「真鱈」。
2016年に釧路に抜かれたものの、それまで宮古は日本一の真鱈の水揚げ量を誇っていた。(現在は本州一位)
その真鱈が一番消費される地域は、なんと「石川県金沢市」。
ここに大きな矛盾を感じるが、それだけ宮古の真鱈が地域外に流失しているという事実がうかがえる。
では、この不人気な真鱈を、どうすれば地元・宮古の人に愛されるものに変えられるのか。
そこで着目したのが、真鱈の「弱点」。
鮮度落ちが早い、脂が少ないや地元で提供されている場所がないなどの弱点を、強みに変えるのがイカ王子の目だ。
鮮度落ちが早いなら、産地で食べられる真鱈の鮮度は、どこで食べるよりもも最高になる。
脂が少ないなら、その分ヘルシーであるし、脂との相性も良くなる。
はたまた、地元で誰も提供していないのなら、競合がいない分特別感やブランド感を演出できる。
そこで、老若男女誰からも真鱈が愛されるように開発されたのが、「王子のぜいたく至福のたらフライ」であった。
お祭りで販売する時は、フィッシュ&チップスにし、お客さんをしばらく待たせてでも揚げたてを提供、さらにはそのじゃがいもやタルタルソースをこだわり本物を使うことによって、付加価値を創造し続ける。
さらに、自分の開発した商品を改善・開発し続けるというイカ王子の情熱とこだわりが、宮古の水産加工品を成長させ続ける秘訣なのだ。
このイカ王子プロジェクトで、地域の人をターゲットにしコミットすることによって、宮古という地域を巻き込んだ彼らの行動は、宮古全体の大きな一歩になったのかもしれない。
宮古から世界進出
「岩手県の宮古」という日本でも知っている人が多くはない小さな地域から、地球上のおよそ70億人が知っているアメリカという大きな国へ、驚くべきことにイカ王子は挑戦し続けている。
2016年にはボストンシーフードショーに参加、2018年にはマンハッタンの中心部で、2020年の頭にはシアトルで主力商品の試食販売に繰り出した。
ニューヨーク州マンハッタンでの試食販売には、冷凍イカソーメン、海鮮3種丼とポキ丼を持っていくも、外国人の「イカを生で食べる文化がない」という背景に苦しむ結果となった。
想像してみてください。
私たちが普段当たり前のように食べているイカのお刺身を、「Squid Sashimi?! Oh, no... thanks.」と、「生のイカ」というだけで断られてしまう気持ちを。
文化的な背景なので納得しなければならないことではあると頭では理解していても、日本人としての歯痒さをきっと感じてしまうだろう。
それ以上に、イカ王子はイカを加工して生業としているわけなので、その悔しさはもっと大きかったはずだ。
しかし、そこで絶望せず前を見て、マンハッタンの日本食レストランやスーパーへの商談会では好評だったことから可能性は無限大だと気が付き、イカ王子はアメリカンドリームに情熱の炎を燃やし続けている。
そして、2020年の初め頃、アメリカシアトルでの、共和水産の誇る商品であるイカの照り焼きとイカの一夜干しの、大手日本食スーパーでの試食販売会。
加熱調理されていることもあり、外国人にも大人気。
持ってきた商品は飛ぶように売れた。
ニューヨークとは対照的に、「I love it.」「I love this flavour and spices.」と、「Love」が飛び交う。
イカ王子が、「日本の美味しい」を世界に認めてもらった瞬間だったのではないだろうか。
さらに、イカ王子のトレードマーク王冠の効果発揮で、「Squid Prince?!」という反応もお客さんから見られ、写真撮影を求める人まで現れていた。
彼のしてきた行動や活動、商売の点の1つ1つが、線になり始めていると感じる瞬間が、イカ王子のアメリカ訪問時間には存在している。
その、瞬間々々を見逃さず、情熱にチャンスを構築し続けていくのがイカ王子の強みなのだろう。
アメリカにこだわるのは、商売はたまた自分のためだけなのだろうか?
イカ王子のアメリカンドリームには、実は強いメッセージが潜んでいる。
若者に向けて、彼はアメリカンドリームを通して、
「水産業は楽しい、美味しい、夢がある」
「こんな小さな地域の人間でも世界すらを相手にして挑戦ができる」
ということを伝えたい。
彼の行いや想いを心に受け取った若者はきっと未来にウキウキし、目を輝かせるだろう。
また、彼自身が、アメリカンドリームに胸を踊らせ、目を輝かせて挑戦し続けている。
これからのワールドワイドなイカ王子・「Squid Prince」の活躍に期待が高まる一方である。
RE EARTH TV(リアスティーヴィー)で宮古を発信
イカ王子の地名度や認知度が上がっていく中、その人気を生かして、宮古の魅力を紹介していく動画チャンネルの、ファシリテーターの活動もイカ王子は行なっている。
YouTubeの「RE EARTH TV(リアスティーヴィー)」というチャンネルで、彼は度々出演し、宮古の魅力の発信を盛り上げるために一役買っている。
彼の得意分野である水産に関することだけではなく、ある時は果樹園にもインタービューをしに行っている。
自分で築きあげてきた「イカ王子」というキャラクターの発信力を最大限に利用して、地元に還元していることに、地元・宮古への愛と期待を感じる。
これからも、イカ王子の発信する宮古の魅力が日本や世界中の多くの人に伝わったら、宮古だけでなく、岩手が、そして日本がより元気になっていくのだろう。
「イカ王子が解説する宮古」、気になる方はぜひ見てみてください。
<小が理商店編>
<隆勝丸編>
<南澤果樹園編>
おわりに
イカ王子の震災後9年間の奇跡の軌跡、いかがでしたか?
彼のこだわりや情熱にたくさんの宮古の人が巻き込まれ、仲間を増やしていきました。
そして、宮古というまちが今、彼のステージに巻き込まれています。
彼の成長は宮古の成長にも繋がり、彼の挑戦は宮古の人々や多くの若者の励ましになります。
今、この瞬間に「イカ王子」の存在を知っている私たちはとてもラッキーです。
なぜなら、彼がこれから生み出す奇跡目撃者になり、そのエンターテインメントを楽しむことができるのですから。
「イカ王子の次の挑戦は?」
「アメリカンドリームはこれからどうなるの?」
今後もイカ王子の活躍から目が離せませんね!
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