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トラガールは、 道の果てに夢を見る。⑨

赤いヒーロー

 東京インターチェンジから東名に乗って三時間少々。
 430休憩も兼ね、リョウはウィンカーを出して新東名の長篠設楽原パーキングエリアに入った。

 今日は日帰りで、東京から愛知県岡崎市の工業団地に自動車部品の配送だ。貨物は昨日のうちに群馬で積まれ、日をまたいで出発した。
 積み荷は鉄製の部品も多く、「かさ」の割に重い。いつもに増してボディへの固定は入念に行った。

 そこは、パーキングエリアの割に広く、サービスエリア並みに駐車スペースは十分にある。
 リョウがここで休憩をとるのは初めてだが、戦国大名ゆかりの地で、全国から観光で来る客も多いらしい。
 「長篠の戦い」で織田信長が本陣を構えた跡地と隣接していて、このパーキングエリアからも歩いて行ける。

 店舗の外観は和風の作りで、脇には鉄製の展望台が建っている。
 建物の周りでは、武将の紋が入った沢山の「のぼり旗」が風にはためいている。
 リョウは特に戦国武将マニアでも何でもないが、この地で戦った織田信長、徳川家康、武田勝頼の名前くらいは聞いたことはある。
 強いていえば、その中では何となく織田信長が好きだ。少し、別れた元夫とイメージが重なる。アイツみたいに、信長は女には冷たい自己中のサムライだったのだろうか。

 自販機にまで紋が入っている。ペットボトルの緑茶を買うと、
「鉄砲三千丁の三だんウチ、とくと見よ!安全第一、ゼヒに及ばず!」
 という信長の声がやや高圧的に流れた。『安全第一』は、運営会社の配慮からだろうか。

 店内も和の造りだ。
 一角には、真っ赤な甲冑が飾ってある。その脇では女子たちが、これまた真っ赤なマントを羽織り、金屏風の前で火縄銃を構え、スマホで写真を撮りあっている。
 展示コーナーには何種類かの火縄銃が飾ってある。中にはバズーカ砲みたいなのもあり、あれはさすがに担いで歩けないだろ、大砲みたいに固定して撃つんだろうなとリョウは推測する。
 お土産コーナーでも火縄銃や日本刀のレプリカが並んでいる。

 「長篠陣屋食堂」と表示されたレストランに入る。この地で戦った武将に因んで「家康鯛天丼」、「武田の鶏塩ラーメン」、「信長赤味噌ラーメン」がオリジナルメニューとしてあるが、赤味噌ラーメンを選んだ。やっぱり信長は赤か・・・

 トッピングされている赤味噌を溶きながら食べる。だんだん濃い味になる。信長の好みはガッツリ濃い味系?

 食べ終わるとリョウはお土産コーナーに向かう。遠出の仕事の時は、いつも娘のミムにお土産をせがれているからだ。
 今日のミムは、フルーツ系をご所望。
『三ケ日みかんぷりん』。これにしようか。もう少し見て回ると『信長のりんごいっぱい』というのもあった。これはアップルパイをもじったネーミングらしい。でも、何でりんご? この辺りはリンゴの産地ではないような。やっぱ、「信長は赤」だからか?

 みかんとりんご、どっちにするか迷う。リョウはスマホを取り出し、母のスマホに電話する。
『ああ、母さん、ミムに代われる?』
『何よ、私はただの呼び出し係?』
 リョウの母親は少し不満そうだが、すぐにミムが電話口に出る。

『ママ、なあに?』
「あのさ、お土産なんだけど、みかんのプリンとアップルパイ、どっちがいい?」
『ん-、アップルパイかな。』
「そうか、ミムは信長派か。」
『何それ?』
「いや、今、『おさむらいさんたちのパーキングエリア』にいるんだけどさ。ノブナガは、よろいも、マントも、みそラーメンも、おみやげも、みんな『赤』でさ。」

『ふーん・・・ノブナガって、センター好きなんじゃない?』
「え?」
『ほらだって、“なんとかレンジャー”って、だいたい、レッドが、まんなかじゃない?』

 なるほど。

 リョウは、電話を切り、『信長のりんごいっぱい』を買い、店の外に出る。
 鉄製の展望台(物見櫓というらしい)に登る。山に囲まれた平野を一望できる。ここがかつて『長篠の戦い』の戦場だったのか。
 てっぺんには案内板があって、向かって左側の山が織田信長の本陣跡らしい。あそこで赤い甲冑を着けて『レッドとして』陣頭指揮をとっていたのだろう。

 約束の到着時間まで、まだだいぶ時間がある。
 トラックに戻るとスマホで30分経ったらアラームが鳴るようセットし、キャビンの仮眠スペースに潜り込む。

 変な夢を見た。
 リョウが知っている戦国武将たちが、現代にタイムリープし、戦隊ヒーローの『中のヒト』になっている。

 確か、
 徳川家康がブルー、
 豊臣秀吉がイエロー、
 上杉謙信がシロ、
 伊達政宗がクロ、

 そして、
 織田信長はレッド。

 ピンクはいなかった。

 レッドはやはりセンターでポーズを決めていた。

 武将のヒーロー達は、若いママの間で人気者になったが、レッドは女性には冷たいとの噂が立ち、賛否両論だった。
 戦いが終わり、『中のヒト』に戻ったレッドの姿は、別れた元夫に似ていた。

 ここで、リョウは目を覚ます。
 いまいち、目覚めが良くない。

 トイレに行き、洗面台で顔を洗い、化粧と髪を直す。
 大型トラックをぐるりと回って点検し、キャビンに戻る。
 リョウは、ゆっくりと車を出し、新東名の本線に向かった。

#創作大賞2024 #お仕事小説部門

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